第31話

ある程度の支度を終えて再び3人は病院へ向かう。それまでの過程では特に病院からの連絡は無く、どうやら真希の容態が急変したといったことはなかったようだ。


類は類で自責の念を抱き、真希は真希で自責の念を抱く。


「俺は家族を守ることすら出来ずして、どうして父を名乗れるのか」

「わたしは自分の事でみんなを心配させて、どうして母を名乗れるのか」


ただの一度も人は失敗をせず生き抜くことは出来ず、大なり小なり人は人生という道のりのなかで躓いたり転んだりを繰り返しながら前へのみ進む。


失敗などあって当然。ただ、その失敗の中身と時期によっては取り返しのつかない事態を招く引き金にもなる。そのトリガーを引いたのではないかという類と真希の後悔。


病院に着く頃には、西日が人影を伸ばし始めていた。


---


発する言葉が減っていく。静寂が伸びていく。蛍光灯のジリジリという音が、やけに大きく聞こえる。


真希の手を握って、家族がそばにいることを示している。


「手を握って真希を苦しめる病を吸い取れるならば、どれほどに話は簡単であろうか」


類がそんなことを思いながら、ふとスマートフォンに視線を移すと百合から連絡が入っていた。


「明日のお昼ごろに帰国するので、悪いけど空港まで迎えに来られるかしら?」

「ええ、大丈夫ですよ。具体的な時間は、何時ごろでしょうか」


どうやら13:12分着の空港で到着するという。


「明日おばあちゃんが戻ってくる。迎えに行くか?それとも、お母さんの傍にいるか?」

「わたしは傍にいるわ。玲くんはどうする?」

「僕もお姉ちゃんと一緒にいるよ」

「わかった。じゃあ一人で迎えに行ってくる。もし何かあったら連絡してくれ」

「うん、わかった」


眠りについたままの真希。その眠りの深さと長さは、真希が気丈に振る舞い続けてきた負荷の大きさを意味しており、医師が言っていた通り並大抵の精神力の持ち主ではなかったことも意味していた。


「お母さん…眠ったままだね」

「今は元気になるために力を蓄えているの。だから、心配しないで」


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ずいぶんと夜も深くなり、亜希と玲もさすがに眠りについた。


真希のことを思うあまり自分のことを忘れており、子どもたちにかかっていた心身の負担も相当重たかったであろう。考えれば、昼から何も食べてはおらず一時的に家には帰ったものの、ほぼノンストップで今日半日を駆け抜けたようなものであった。


ただ、類は眠気を感じないほどに込み上がる色々な思いを受け止めていた。


「真希は俺と出会って幸せを手に入れられたのだろうか。真希にとって、もっと大きな幸福があったのではないか」


そんな思いを受け止めながら、


「そんなことを考えるだけ無駄だ。俺に出来ることは無いか。真希がもう一度幸福を手に入れるために…」


と鼓舞したり。


気が付けば、窓越しの夜空はしらじらと明けてきていた…。

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