歌を歌おう!新年会楽しもうぜぇ!

「まずは俺からだ!」

カラオケの準備が整うなり、最初の歌い手は桜華が務めることとなった。選曲は演歌だろう曲。―――いや、『紀元二千六百年讃歌』などという現実にもほとんど同じの曲名であった曲なのだから、演歌では確実にない。一種の軍歌とも言えるだろう。


『とぅおすぅめぇらぁぎぃのぉぉ、かぁしこぅくぅもぉぉぉ―――』

張りのある良い声で歌われたその歌は、音痴であろうと予想した視聴者の期待を大きく裏切るものだった。しかし、ホロストリームのスタッフは新年になって増員された二人を含めて総員がミリオタもしくはその歌を聞いたことがある民である。いつの間にか、知らないシュウカを除いた全員が合唱していた。


ちなみに、秋華は頭に?を飛ばしていたが、3番からは理解すると一緒に歌っていた。


「―――ということで、一曲目は『紀元二千六百年讃歌』でした。いやぁ、親会社の社長が出張ってくるなとホロストリーム社員一行で愚痴っていましたが、なかなかに良い声をお持ちで」


その言葉に「まさかこの歌を聞いたことすらねぇはずの秋華が歌い出すなんて思ってなかったけどな」と秋華の方を見て返した桜華。ついでに言えば秋華は気まずそうに目を逸らしていたので、どこかしら後ろめたさがあったようだ。


「では、次は儂かの。では、こいつを」

そうして選曲されたは『抜劔隊』―――少しく軍歌を知るものならば誰でも聞いたことはあるあの曲だ。自らの父が、国衛隊(現実でいうところの自衛隊に近似)として突撃銃アサルトライフルを渡された中、単身敵国都に乗り込み、この歌の歌詞にもある『大和刀』にて敵国の長を討ち取ったことによるものであるのだろう。


『吾等官軍、吾敵は 天に仇なす朝敵か―――』

紀元二千六百年讃歌に比べ原曲からやや改変されたその歌詞は、やはり須く斉唱する事となった。なお、秋華が知っているのは史実の方なので、云々かんぬんの後に『朝敵ぞ―――』と言っていた。


「二曲目は、南西の役を表す軍歌とされ、恐らく最古の軍歌である抜劔隊でした!国民たるもの、やはり斉唱したいですね!」

「うむ。神賜佐々木家の併せ番鳥菊三紋交わし若竹と、陛下より賜った我が父の神刀に誓い、儂が選ぶのはこれと決めておったんじゃ。義弟に当たる桜華が紀元二千六百年讃歌を選ぶとは思わなんだが―――」


そこで、ちらりと桜華を盗み見た章は何事もなかったように向き直り、

「―――陛下も未だご存命で在らせられるし、悔いはないと言えるのぅ。少なくとも、陛下が崩御為されるより先にくたばれはせんからの」


地下シェルター内で苦笑が巻き起こる。章もそこそこの年なのだが(70歳手前)、天皇陛下は現在115歳。昭和百年を迎えられるのか、ご崩御為されるのが先か、と言われるほどなのだ。


ならば譲位しろ、と言うのもあるのだが、この世界の憲法は大日本帝国憲法がほとんど変わらずやや改訂されたものなのだ。例えば陸海二軍の場所が志望者の国衛隊に変わっていたり、人民の権利が解放されていたりなどぐらいで、『万世一系ノ―――』と言う部分は変わらず、また先代、先先代の天皇が崩御によって譲位したことから通例的に崩御=譲位なのだから、仕方ない。仕方ないったら仕方ない。


その後も歌は続いていき、秋華は『大東亞の夜明け』と言うこの世界線オリジナルの軍歌?を歌った。歌詞中に『鬼畜ー米英をー打ーちーやーぶーりー―――』などと言うのがあるし、軍歌かもしれない、シュレディンガーの軍歌なのだが。



「―――皆様、お疲れ様でした。では、本日のメインイベント!お年玉告知を行います!」

いぇー、と言う声とどこからか持ち出されてきたチャルメラの音が、その言葉を歓迎する。最早元の場所に置かれてすらいない名前のプレートが、音を反射していた。


『新曲発表!』

「いぇー!」

「と言うことで、シュウカさんの新曲が発表されます。シュウカさんの誕生日である2月11日に発表されますので、お楽しみに!それではまた、次の配信で―――」

そのまま終わろうとしたωと、流れで手を振り始めようとした一行の前に、ドンっと扉が開く音。


「ちょぉっと、まてぇぇぇいっ!」

現れたのは―――茶髪の少女だった。



「ちょっと、私のこと忘れないでよ!」

紅一点ことωに詰め寄る少女にコメント欄の大半を占めるラヴィが困惑する中、ωはカメラに映らない方でニヤリとしていた。


「と言うことで、本当のお年玉はこの子です。自己紹介どうぞ」

悪びれもせずにそう発したωに呆れたのか、一つため息をついた少女はカメラをまっすぐ見つめた。


「...涼宮ネル子。1月17日になんかするから、それまでチャンネル登録よろしく。初配信にしたいから、頼むね?」

「あ、その時は私も行くからね?ネルちゃん、よろしくー!」

言い切った直後、秋華がネル子に飛びかかる。初対面にも関わらずネルちゃんと愛称で呼ぶのは、秋華なりのアピールか...それとも。


『......。』

無言の圧力をネル子にかける他メンバーからネル子を守るための、壁としての機能か。


何はともあれ、こうして配信は終了した。



―――



『Holo-Stream V-streamer production』

登録者 3893人(元祖ホロストリームを見ていた人+ラヴィ)

『宵月シュウカ/Yoiduki Shuka ch.』

登録者 1407人(新規)


―――


どうも作者です。今回は広げた風呂敷が戻り切りませんでした。

新キャラクター・『涼宮ネル子』登場!

まあ存在自体は実は眷属としていたのですが。

次回はこいつがどうなるのか、ですかねぇ。

次回配信内容は未定ですが、ネル子の配信orシュウカの何らかの配信になると思われ。では(^・ω・^§)ノ

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