第37話


 ひなたは改めて部屋を見回した。ホワイトボード以外には机と椅子しかなく、こじんまりとしている。埃が少ないことから頻繁に来ていることがわかった。


「何か、計画書みたいなものはないんですか? 計画の全貌がわかれば阻止しやすくなりますから」

「わからない。仮にあったとしても、不用心に部屋に置くとは思えないわ」


 それはそうか。


「計画について知っていることは?」

「残念ながら何も……。廻は今回のことを一人で完結させようとしている。だからこそ心配なのよ」


 さらに質問しようとした時だった。玄関の方から物音が聞こえ、二人は顔を見合わせた。誰かが入ってきたらしい。


「ごめん、施錠してなかった……」


 シャーロットが呟く。

 もう逃げる余裕はないだろう。迎え撃つしかない。

 足音が近づいてくる。胸に手を置き、固唾を呑みながら待っていると、ゆっくりと扉が開かれた。


「げ……マジでいるじゃん……」


 太志だった。紺色のニット帽をかぶっている。ドクロマークのシャツを着ていた。


「な、なんで太志がここに……」


 シャーロットが目を見開く。


「このアパートの一階に住んでんだよ。知ってんだろ。買い物の帰りにお前らが隠れ家に入るところをたまたま見かけて扉を開けてみたんだ。そうしたら空いてたから中に入った」

「空いているからといって入ってくるのはどうかと思うわ」


 太志が余裕のない表情で口を開く。


「そんなことはどうでもいい。お前ら、今すぐここから出ろよ。廻の許可無しで上がり込んでるんだろ」

「それはそうだけど……。大志、このことは秘密にしてもらえるかしら?」

「無理だな」

「……融通が利かないのね」

「無理なものは無理なんだよ」

「どうしてよ」

「もうバレてるからだ」


 シャーロットは顔を顰めた。

 大志が真顔で続ける。


「隠しカメラと侵入検知機器が設置されてるんだよ。侵入者が入ったら、すぐにばれちまう」

「なんでそんなことを知ってるの?」

「廻が話してくれたんだ。太志はフラッと入ってきそうだから先に言っておくね、って。俺にだけ特別に教えてくれたみたいだぜ」

「胸を張って言うことではないんじゃ……」


 思わず突っ込んでしまう。

 たぶん信用されてないんだろうなぁ……。

 三人で顔を見合わせたまま沈黙する。


「じゃあ、このままだと廻が来ちゃうかもね」


 ひなたの言葉に二人が頷く。

 次の瞬間だった。

 再び玄関から物音が聞こえた。太志が振り返り、動きを止める。やべ、という呟きが聞こえてきた。


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