第28話


 ゲームセンターの中に入ると、激しい電子音に迎えられた。


「ひなたってゲームするの?」

「あんまりしないね。お姉ちゃんに勧められて動物と暮らすゲームを一緒にやったくらいかな。あの有名なやつね」


 ミーハー丸出しでバカにされるかもしれない。そう身構えていたが意外にも廻は「ふうん」と呟くだけだった。


「何時間プレイしたの?」

「たぶん三十時間くらいだと思うけど」

「私は三百時間超えてるよ」


 想像以上のガチ勢だった。


「えっと……ずっとそのゲームだけやってるの?」

「そんなわけないでしょ。FPSとかRPGとか、いろいろやってるよ。何度も世界を救ってきた」

「へ、へえ。ゲーム好きなんだね」

「普通だけど」


 二人で太鼓のゲームをすることになった。ひなたは普通の難易度を選び、廻は超ハードモードを選択した。曲が流れ始める。画面の指示に従いリズミカルに太鼓を叩き、お互いフルコンボで走り切った。

 ひなたは満面の笑みを浮かべた。


「達成感が凄いね! 気持ちよかった!」

「そう?」


 次の曲に、先ほどの三倍難易度の高いものを選択する。


「わたしはイージーモードでいいや。廻は……えっ」


 横を向くと、鞄からマイバチを取り出しているところだった。


「廻って相当なゲーム好きなんだね。初めて知ったよ」

「普通だけど」


 その後、廻はあっさりとフルコンボを叩き出した。ギャラリーが沸く。ひなたは自分のことに精一杯で、廻のプレイに見惚れる暇はなかった。


 太鼓のゲームを終え、今度は格闘ゲームに移行した。初めての対戦でひなたはあっさりと負け、コンティニューしなかった。一方、隣の少女はオンライン対戦を重ねて六連勝中。何度もコンボを決めていて、素人目にも上手いことがわかった。


「……まさかあれって灰さんか?」

「公式大会で準優勝したことある人だな。間違いないぜ」

「まさか、地元にそんなプレイヤーがいたとはなあ」

「あとでサインもらおうか?」


 ギャラリーがざわついている。

 ひなたは体を小さくしながら廻に声を掛けた。


「ねえ、廻ってめちゃくちゃゲーム上手いんじゃない?」

「普通だけど」


 レースゲーム、シューティングゲーム、麻雀ゲームと梯子していく。廻はその全てで類いまれなる強さを誇った。


「あんな振り込みはありえないからね。もっと落ち着いて場を見ないとダメだよ。手牌しか見てないでしょ」


 げんなりしながら言い返す。


「………役を揃えるので精一杯だから無理だよ……。というかわたし、リーチ、七対子、大三元、カンしか役を知らないんだけど……」

「役じゃないのが一つ入ってるね」


 廻はすでにゲームを終え、ひなたの画面を覗き込んでいた。全く勝てる気がしない。

 ギブアップして廻にバトンタッチすると、点差四万をあっさりとひっくり返して、そのまま勝利してくれた。強すぎる。


 百円硬貨が底をついたので移動する。ひなたは廻の横顔を見つめて言った。


「めちゃくちゃゲームやりこんでるよね」

「普通だけど」

「もしかして、廻ってゲームオタク? 素人にしては上手すぎるもんね。知識もあるし」

「ひなたが弱いだけで私は普通だよ」

 

 んなわけあるかい。ひなたは心の中で突っ込んだ。


 なぜ認めてくれないのか。照れているのか、自分のプレイなんてまだまだだと思っているのか。どちらもありそうではある。


 横スクロールアクションゲームを二人で協力プレイした。

 廻の的確な指示のおかげか、少ないコンティニュー数でラスボス戦に入る。


「そのアイテムはまだ取らなくていいよ」

「え? ……あ、間違えて取っちゃった!」

「取ったものは仕方ない。気にしなくていい」


 廻を見ると、いつものニヤニヤ笑いはなかった。真剣な表情で食い入るように画面を見つめている。

 いや、そこまで真剣にならんでも。 

 ゲームでムキになるなんて子供みたいだ。可愛いところもあるんだな、と微笑ましく思う。


「よそ見しないで」

「あ、ごめん」

「ひなた、何をニヤニヤしてるの?」

「何でもないよ。気にしないで」


 しらっとした視線を向けられ、ひなたは笑みを消した。気を取り直して操作に集中する。

 廻の至近距離からの一撃によりラスボスは撃破された。派手なムービーが流れ始める。


 ひなたは思わず、やった、と口にした。廻に抱き着き、「やったね」と繰り返す。ゲームとはいえ、廻と苦難を乗り越えることができたのだ。つい興奮してしまう。


 廻が「そうだね」と一瞬子供のような笑みを浮かべた後、すっと表情を消した。


「ひなたってお子様だよね。ゲームに勝ったくらいで喜びすぎだから」

「そういう廻も、嬉しそうだったじゃん」

「普通だから」

「えー」

「ひなた、いつまで抱き着いてるの? 赤ん坊なの?」

「照れちゃって」

「は?」


 眉を顰めて鬱陶しそうにする。

 廻にもこういう一面があるのか、と嬉しくなった。

 二時間たっぷり遊んでから外に出た。時刻は十二時過ぎだ。


「そろそろご飯食べに行こうか」


 二人でショッピングモール内のフードコートに移動した。

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