日に焦がれどう変わる~初恋を叶えるために戦う幽霊~

とうもろこしチャーハン

序章 日に焦がれる幽霊

第1話 幽霊は独りを求め彷徨う


──僕に生きる価値は無い──


 それが僕の頭で、僕の心で、僕の中で常に渦巻く気持ち、思考だ。

 なのに僕は此処に、雪の降りしきる山の木々の中で思考し、存在している。



 さっさと死ねばいいのに。


 そうすればまた醜い過ちをせずに済むのに。

だけれど僕は何故かその決断ができない。

 

 一度はあっちでその決断をした筈なのに、こっちに来てからはそれも出来ない半端者。

 深々と降りしきる雪をただただすり抜け続ける、生きているか死んでいるかも分からない、この透けた身体もそれを証明している様。

 


 僕なんて消えればいいのに。


 僕は関わるものに災いを起こす化け物。

 ─ヒュー、ビューッ──

 僕の思考を遮る様に、突風が吹いた。


 それに巻き込まれ、大粒の雹のようなものが豪雨のように大量に此方に向かってきた。

 (待っ!?)

 僕はその自然現象を見て、心の中でその現象に対する、静止を求める叫びの声を上げた。


 だけれど心の中でいくら声を上げようと、現実は何も変わらない。


 その粒は相も変わらず僕に迫り、そして僕を通り過ぎた。

 僕は何とも無い。その粒も僕をすり抜けたのだから当たり前のこと。


──だけど、─

 僕は自責の念に刈られて後ろに振り向いた。そして突風に巻き込まれ続けず地に落ち、雪に軽く埋もれた大粒の雹の様なものらを見た。


──もぞもぞ、くね、うねうね──

 その大粒の雹の様なもの、それが動き出した。突風に巻き込まれて飛んで来た粒は、とても小さな幼虫のようであった。

 その幼虫らはその身に覆い付いていた、綿のような卵を食い破り出て、その後も卵を食べ続けていた。


 僕はそれらから目をそらし動いていない粒、僕にすり抜けたと観られる粒を見つめる。

 それらは唯の大粒の雹に見える。

 

 だが、僕は違うのを知っている。

 だから、ちゃんと観なければいけない。


 粒を凝視する。

 すると、だんだんと透けて見えてくる。

 この身体は、少しの透視能力が備わっていた。

 

──やっぱり─

 予想どうりの事実を目撃し、自責の念は深まる。


 その粒も、綿の様な卵に覆われた小さな幼虫だった。

 だけど大きく違う所がある。

 それは動いていない事、死体であるという所である。

 

 そしてこれらは僕をすり抜けた幼虫。

 つまり、幼虫は僕に触れたせいで死んでしまった。

 僕には、そういった力が備わっているようだった。


 それを見て僕は、


 ─まただ。また過ちを犯した。

 やっぱり僕に関わると不幸になる。

 僕は殺人鬼、生きる価値は無いんだ─


 そんな考えがすぐさま頭を過った。


 そして、


──死ねよ....──

 

 自分の首に手を添える。自分の手であれば身体をすり抜ける事はない。

 そして、慣れた手つきで捻り締めるように手に力を入れる。こうすれば死ぬと、本能は僕に告げる。


 だんだんと首の筋肉、骨が悲鳴を上げ始め、死へ近付いて行く。この身体は普通より脆く、おそらく自分でも首を捥ぐことが出来る。

(死ね死ね死ね死死死死死死……消えてよ)

そう何度も心の中で自身の死を望み、自分を殺そうとする。 


 さらに力を入れ、首を捻り千切ろうとする。首の筋肉、骨がもう限界だと言うことを苦痛に伴って報せてくる。それによって僕はもう死が隣に居るのだとはっきりと感じた。

 そう自覚した途端に、手から力が抜けた。


 何でやめるんだ。僕は死ななきゃまた誰かを殺すのに。


 僕は自殺をする決心が着けない自分が理解できなかった。


 だけど僕は死なないから、


──ごめんなさい──

 僕が存在する事を、世界の全てに向かって謝る事にした。



・・・・・・・・・・・


──何だ今の茶番は──

 すっからかんで虚無な思考をしていた事に気付いた僕は思考を切り替える。


 これから何をするかを決める事、それ以外の思考はしない。

 さっそく、これから何をするかを決める事にする。


 まずどうなりたいか。

 これは決まってる。誰にも迷惑を掛けないことだ。


 どうしたらそれを達成できるか。

 これは2種類の案がある。

 1つ目は、自分が持っている災いの原因である力をコントロールして無害化する。

 2つ目は、誰にも関わらない様にする。


 そしてそれは達成できるのか。

 1つ目、自分の力のコントロールは、僕に備わった力についての理解がないと不可能だ。そして残念ながら僕はほとんどこの力について理解してない。

 この力について知っているのは、僕に触れると生き物が死ぬ事。それと近くにいる相手を拒絶するとその相手を殺してしまう事。それだけである。

 

 これだけの理解では到底この力をコントロールする事は出来ない。理解を深める必要がある。理解を深めるには力を使って確かめる必要がある。だが、この力は殺傷能力が高過ぎて、使う事は出来ない。

 つまり1つ目は却下。


 2つ目、誰にも関わらない様にするは、これをする方法は2つある。

 1つ目は、自殺すること。

 2つ目は、生き物のいない、独りになれる場所を探すこと。


 1つ目はさっきもしようとしたが出来なかった。この方法は却下。

 2つ目は、1つ目の妥協案である。

 必要な物はほとんど無い。

 おそらくこれで決まり。


 目的地は、理想は生物が生存不可能な宇宙空間だが一人でそこにいく方法はない。

 

 他には生物が生存不可能な程深い地下。だがこれも無理だった。先ほどこの身体は地面にすり抜けられるか試してみた所、浅い所だとすり抜けられるが、地下深くにいくほど何かに押し返されるような感覚があり、地下100m程が限界だった。

 

 ちなみに地下にすり抜けっぱなしは出来ないか試して見た、だけどすり抜ける時が経つにつれて、今まで体感したことの無い種類の疲労を感じた。

 そして疲労が溜まるにつれて、地下からの押し返しに耐えきれず地上へと上がっていき、地下10m程で疲労と疲労の回復の均衡を保てることが分かった。 


 だから妥協案として、目的地は生き物のいない洞窟。

 これぐらいなら時間を掛ければ見つかると思う。


 これからの目的をまとめると、僕は誰にも迷惑を掛けたくない。そしてその方法は、生き物の居ない場所を探すこと。その場所の目的地は、独りになれる洞窟。


 そう決めた時だった。

──ッ....──

 胸が締め付けられるような苦しみを感じ、必要のない呼吸がどんどんと速くなる。

 心が、孤独に向かって進む事を拒絶する。

 だが、


──欲張るな!──

 それは怒りの感情によって、押し潰された。


 僕は無意味に殺傷をしている自分が、命だけじゃなく人と生きていく幸せまで欲しがるのが、許せなかった。


──やっぱり原因はあの記憶──

 僕にはこの感情が起きる理由の心当たりが明確にあった。

 それは僕の体験したことの無い記憶。  

 誰のかは分からない、分かるのは二人の子供が笑い合って遊ぶ、ただそれだけの記憶。

 だけどあの記憶は僕にとってまさに夢の様で、僕が生まれて初めて楽しいという感情を抱いた記憶だった。


 正直あんな記憶を見せられたら、あの蜜を知ってしまったら、自分がそれを求めてしまうのは仕方の無いことだと自分自身思ってしまう。



・・・・・・・・・・・


思考が逸れた。もとの思考に正さなければ。

軽く瞑想をして心を整えよう。


──スゥーッ──

 意識の内側へ没入する。

 そこには孤独になりたくない自分。

 誰かを殺傷するのが嫌だから独りになりたい自分。がいた。

 そして今必要ない、邪魔な自分を考え、それを前者だと判断した僕は、


 消えろ。

──スパッ....──

 その必要ない自分を切り離し、捨てた。


 よし、スッキリ。これで目的に添った思考が出来る。

 そう思った僕は、さっそくどの方向から目的地を目指すか考えようと、昼間であれば雪が降っていても、太陽の方角くらいは分かるだろうと考えながら、空を仰ぎ見ると。


 

 ──それらは在った。──


 それらは異様なほど壮大で、

 それらはただ在るだけで威圧的で、

 それらは神のような威容を誇る球体。


 その太陽系惑星にとても似た惑星らは輪の形に並んでいた。

 そして火星と見られる物が湾曲した塔の様な物で、地球に繋がっているのが見えた所で、今自分が立つこの地球もその輪の中の1つであることは、容易に想像できた。


 僕はその現実とは思えない光景に、ただ圧倒されるのみであった。



・・・・・・・・・

 ハッと我に返った。

 此処がファンタジーな世界であるのは知っていたが、ここまでであるとは想像していなかった。


 だけどこれで1つ分かった事がある。

 それは火星と地球が繋がっている地点にいくほど、寒くなりそうなこと。

 理由は単純で、火星があるから太陽光も当たりにくいだろうということ。


 そこで僕は目的地を思い出す。

 生き物の居ない洞窟、それが目的地だ。

 そして火星に近づくほど寒くなること、寒くなるほど生き物は生存しにくいこと。

 そこまで頭に浮かんだ所で、僕がこれから進む方角は火星方面と決まった。

 

 よし、そうと決まったら進む、それだけだ。


 

─こうして幽霊は独りを求め彷徨い始めた─

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