32
その日の夜、休校の連絡が連絡網で回ってきた。お母さんがわたしの代わりに電話に出て、そのまま次の子に回してくれた。わたしはその間ずっと、自分の部屋のベッドに潜って、なるべく何も考えないようにしていた。
お母さんが言うには、休校の理由はこれといって説明されなかったらしい。でも、そんなの誰が見たって明らかだ。学校が休みになったのは、はーこのことがあったからに違いない。
部屋のドアがノックされた。
「奈津美、大丈夫?」
お母さんの声だ。「大変だったね。晩ご飯食べる?」
「いらない……」
全然お腹が減らないし、起き上がるのがものすごく面倒に思えた。
「そう。冷蔵庫におかず入れておくから、好きなときに食べなさい」
お母さんはそう言って、部屋の前からどこかに歩き去った。
ふだんなら「お腹が痛いとか、熱があるとかじゃないんでしょう? ちゃんとご飯食べなきゃ駄目よ」って言うはずだ。わたしのことをそれだけ気遣っているんだってことがわかって、少し嬉しいような気がした。
でも何であれ能天気に喜んでいたら、はーこに悪いような気もする。わたしはもう一度布団をかぶって、目を閉じた。
学校が再開された後も、みんなははーこの話で持ち切りだった。
「クミさんの呪いじゃない?」
そんなことを言う子がいた。「だってクミさんでしょ、最初に死んだのって」
「どうだろ。クミさんだって変な死に方したじゃない? そこからもう、何かの呪いっぽいでしょ」
「じゃあ、誰の呪いなわけ?」
「ていうか合唱部さぁ、一昨年もだれか死んでなかった? あれ自殺だっけ?」
「死んでた! 思い出したよ~、うちらが一年のとき、三年の先輩が死んだんじゃなかったっけ? それでまた人が死んでさぁ……やばくない? 合唱部……」
みんな言いたい放題だ。
怖いのが半分、あとの半分は好奇心みたいで、とにかくいい加減なことばっかり言われているのに、なんだか腹も立たなかった。怒るってエネルギーが余ってないとできないことなのかも……なんて考えながら、わたしはみんなの話をぼんやり聞いていた。別のクラスの合唱部の子がわざわざ出張してきて、「正直やばいよね。辞めようかなぁ、部活」なんて話しているのも聞こえる。でも、止める気にもなれない。
(今日、部活あるのかな)
ぼんやりと考えた。それから、木田ちゃんの机を見た。
木田ちゃんの席は空っぽだ。今日は学校を休んでいるのだ。
(あんなことがあったら、学校なんか来たくなくなっちゃうよね……いやでも、よく考えたらおかしいかも。だって、木田ちゃんは何も覚えてないみたいだったのに)
そういう状態でも、「怖い」なんて感じるものだろうか? 気になってきて、授業なんかさっぱり頭に入らなかった。教室の中で何をしていても、気がつくとはーこや木田ちゃんが座っていた席に視線が向いてしまう。
二人の席はもちろんふたつとも空席のままだ。木田ちゃんはもちろんとして、はーこの席もまだ元の場所に置かれている。
(木田ちゃんと話さなきゃ。何があったのか、教えてもらわなきゃ)
何度もそう考えた。
でも、怖かった。木田ちゃんに「何があったの」なんて尋ねたら――もしかしたら、何か聞いてはいけないことを聞いてしまうんじゃないか。そう考えてしまって、怖かったのだ。
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