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 クミさんに何か言われたのだろうか? はーこはそれからすぐに電話を切ってしまった。わたしはしばらく受話器を握りしめて、プーッ、プーッという音を意味もなく聞いていた。

 とにかく、はーこのところにクミさんがいる。いるってことは、まきさんに頼むはずだった「何か」を、はーこに頼みに行ったんだと思う。でも何を頼みたいのかは、はーこにもまきさんにもわからないのだ。いったい何だろう?

 とにかく今このとき、はーこと連絡をとるのは難しそうだ。様子のおかしいクミさんがそばにいるのだから。

 わたしが家の近くまで行こうか? でも、わたしに何ができるだろう。家にはお母さんとおばあちゃんがいるらしいし――最善策がわからないうえに怖くて、ぐずぐずと迷ってしまう。

 こんなとき、あさみさんに相談できたらいいのに。あさみさんに時間をもらえたら怖いことなんかないのに、それはできない。あさみさんのお母さんに、あさみさんを呼ぶなと言われている。それに逆らうことになるのが、怖い。

 結局迷って、少し遠いけれどはーこの家に行こうと決めた。でも玄関から出ようとしたちょうどそのとき、たまたま同じ時間に帰ってきた母親と出くわしてしまった。

「出かけるなんてダメに決まってるでしょ。もう夜よ? お友達に用事だったら明日にするか、待てないなら電話しなさい」

 そう言って家から出してくれない。仕方がないので電話をかけたけれど、はーこは出なかった。何度かかけたけれど、ずっと通話中になっていた。


 翌日、はーこは学校に来なかった。先生は「おうちの事情で一日お休みします」と言うだけで、理由がわからない。イライラしていると、はーこの家の近所に住んでいる子が、「大変なことになってるらしいよ」と教えてくれた。

「はーこの家で、だれか自殺したみたい。パトカーとか来てたし」

 いたたまれなくなって、すぐに教室を飛び出した。正面玄関に設置されている公衆電話の上に十円玉を積み上げ、記憶しているはーこの家の電話番号を押した。

『もしもし……』

 元気のない声だったけれど、はーこが出た。はーこが生きててよかった。安心で泣きそうになった。でも、安心している場合じゃないってことが、すぐにわかった。

 自殺したのは、クミさんだった。

 はーこの家にやってきて、彼女の部屋のクローゼットの中で首を吊ったらしい。

 わたしの電話を切った直後、ついさっきまで目の前にいたはずのクミさんの姿が見えなくなっていた。探しながら部屋に戻ると、クローゼットの扉が半開きになっていた。中を見ると、服の間にぶら下がっているクミさんの横顔が見えた。

 吊ったばかりだろうと思った。悲鳴を聞いてやってきたお母さんと急いでクミさんの体を下ろしたけれど、もう呼吸をしていなかった。救急車を呼んだけれど、駄目だった、と。

『なっちゃんと電話で話してたとき、クミさんが話しかけてきたでしょ? それで一旦電話切って、クミさんの方に向き直ったらもういなかったの。ちょうどそのときママが二階から降りてきたけど、誰ともすれ違わなかったし、見なかったって……それが本当ならさ、クミさん、あのとき一階には来てなかったことになるんだよね。だったら電話の近くに来て、あたしに話しかけてたクミさんは何だったの? クミさんはなんで死んじゃったの?』

 ほとんど泣きながらまくしたてるはーこに、何て言ったらいいのかわからなかった。十円玉を掴もうとして、指先が震えているのに気づいた。何かおかしなことが起こっている。クミさんの様子がおかしくなって、わざわざはーこを訪ねてきて、はーこの部屋で首を吊った。じゃあ、次ははーこに何かが起こるの? その次は?

 チャイムが鳴り始めた。はーこが泣いている。通話が切れそうだ。新しい十円玉を入れようとしたけれど、手が震えてどうしても上手く入らない。

 電話が切れた。

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