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 変なことになってる気がする。

 他人の口からその言葉を聞いて、わたしも同じことを考えていたんだって実感した。それはたぶん、まきさんの思い過ごしじゃない。わたしが直接会ったわけじゃないけど、きっとクミさんに何かあったのだ。

『なっちゃん、もしかしてあさみさんのお母さんに会ったの?』

 まきさんが聞いた。わたしは「はい」と答えた。「学校の正門のとこで、はーこと木田ちゃんと一緒に」

 わたしはまきさんに、お母さんと会ったときの話をした。まきさんは黙って聞いていたけれど、わたしが話し終えると『ごめんね』と言った。

『あさみさんのこと、せめてわたしの代で終わらせておくべきだった。引き継いでごめん』

「いえ……」

 とっさにそう言ったけれど、同時に心の中に(まきさんさえあんなことを教えてくれなかったら)という気持ちが芽生えたのは事実だ。後から思えば不思議だった。わたしはまだあさみさんのお母さんに出会っただけで、クミさんみたいに様子がおかしくなったりしたわけじゃない。なのになぜか「大変なことが起こっている」という予感があって、わたしもそれに巻き込まれつつあるんだってことも、もうなんとなく悟っていたのだ。


 電話を切った後も、まきさんやクミさんのことが頭から離れなかった。

 一年生の四月から一月まで、クミさんはわたしたちの部長だった。声が大きくててきぱきしていて、はっきりした話し方がちょっぴり恐かったけどいい人だった。ふにゃふにゃして子供みたいな喋り方をする人では全然、なかったはずだ。

 クミさん、一体どうしてしまったんだろう。まきさんにするはずの頼み事って何だったんだろう。「別の子に頼む」って言ってたらしいけど、別の子って誰のことだろう?

 もしも様子のおかしいクミさんがうちに来たら、どうしよう。

 こんな日に限って家族の帰宅は遅い。静まり返った部屋でぼんやりしていると、置きっぱなしの子機が突然鳴り始めた。びっくりして「ひゃっ」と叫んでしまった。

「はい、もしもし。藤巻です」

 ドキドキする心臓をなだめながら急いで電話に出ると『もしもし、なっちゃん?』と声が聞こえた。

「はーこ?」

 聞き覚えのある声に、思わずほっと安心した。でも、すぐに背中がひやっとした。

『なっちゃん。今、うちにクミさんが来てる』

 はーこがそう言ったのだ。

「クミさん? なんで?」

『よくわかんない。なんか頼みごとがあるらしいけど、さっきからニヤニヤしてて言わないんだ。それでさ、よくわかんないんだけど、たぶんあさみさんとあさみさんのお母さんの話ばっかりしてる……怖いからちょっと、お茶淹れるって言って部屋に置いてきちゃった。ねぇ、クミさんってすごくハキハキした人だったよね? なんか全然違うんだけど』

「なにそれ……ねぇ、誰かいる? 家族とか」

『ママとおばあちゃんなら……あっ』

 はーこが一旦言葉を切った。それから、

『クミさん』

 と続いた。

『すみません、ちょっと電話……そ、そうだった、お茶淹れますね!』

 わたしは耳を澄ませた。でも

『紅茶でいいですか? ……ですよねぇ。あたしもです。……』

 クミさんの声が聞こえない。はーこの声は、誰かと会話しているみたいに途切れるのに、相手の声は全然聞こえないのだ。

 思い切って、こっちから声をかけてみようか? でも、いざとなるとそんな勇気はなかった。

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