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その人は確かにあさみさんに似ていた。でも、すぐに違うとわかった。確かに背格好やぱっと見の雰囲気は似ているけど、あさみさんよりもずっと年上の女の人だ。わたしの隣で、はーこが「ほぉーっ」と大きなため息をついた。
「びっくりした……あさみさんだと思ったぁ」
残念そうな声でそう言った。
あれだけ似てるってことは、あさみさんのお母さんとか、とにかく親戚のひとだろう。何の用事なのかなと思いながら正門に向かって歩いていくと、その人の方から「ちょっといいかしら」とわたしたちに声をかけてきた。
「長日部
やっぱり、と思った。思った通り、この女性はあさみさんのお母さんなのだ。
「あなたたち、合唱部の生徒さん?」
はーこが緊張気味に「はい!」と答えた。どうして合唱部の生徒だとわかったのだろう? 一瞬不思議に思ったけれど、
「コンサートの集合写真に写ってたでしょう」
と言われて、簡単な種明かしがあったとわかった。
「今三年生の子たちよねぇ。リボンの色でわかるわよ」
そう言いながら、あさみさんのお母さんはわたしたちを、頭からつま先まで何往復も確認するように眺めた。すごく居心地が悪い感じがして、早く帰りたいと思った。
意識したことはなかったけれど、わたしは心のどこかで「あさみさんのお母さんは、きっとあさみさんみたいに優しい人だろう」と思っていたらしい。そうでなければ今、こんなに嫌な気分にはなっていなかっただろう。
あさみさんのお母さんは、話し方は柔らかいけれど、目つきはとても厳しかった。睨みつけるような目でわたしたちを眺める。ちらっと横を見ると、はーこも困ったような顔をしていた。
「あなた、部長さん? 副部長さん? なんだか違うかしら。でも部内で役職がついているでしょう。パートリーダーさんかしら。あなたもそう?」
魔法のように言い当てられて、背中がひんやり寒くなった。お母さんは「あの子も?」と言いながらわたしたちの後ろを指さす。振り向くと、木田ちゃんがこっちに向かって小走りでやってくるところだった。
「そうですけど……」
はーこがこわごわ答えた。嘘つけばよかったのに、とはーこを責めるような気持ちと、嘘ついたってどうせばれるに決まっているという諦めの気持ちが、一度に胸の中に生まれてぐるぐると渦を巻いた。
何かはわからない、でも何か怖いことが起ころうとしている――と直感的に悟った。木田ちゃんがわたしたちに追いついた。木田ちゃんだけでも逃げたらよかったのに、と思った。何の根拠もないのに。
「麻美がね、死んだっていうのに、まだこの辺をうろうろしているのよ」
お母さんが言った。ぎょっとするほど平べったい言い方だった。後ろで木田ちゃんが「えっ」と小声で驚いた。
「あなたたち、知ってるでしょう。死んだあの子が迷っているのは、あなたたちのせいよ」
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