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夏はコンクールの時期だ。英星女子みたいな「楽しくできればいい」って方針の部
でも、一応コンクールには出場するし、それに向けて練習もする。それでも県大会止まりだろうと思っていたら、うっかり――と言ってはなんだけど、そこを突破してしまった。
思った以上に嬉しかった。結果が出て嬉しくないわけがない。「今年はチームワークが良かったよね」という意見はかなり多く、わたしはそのことについて「あさみさんの功績が大きい」と考えた。そう考えることに、もはや何の抵抗もなかった。
こうしてわたしたちは九月のブロック予選に進むことになり、そうなるといくらのほほんと活動してきた部であっても、普段より練習に熱が入る。みんな基本的には協力しあっているけど、雰囲気がいいときばかりじゃない。三年生の中には大学受験をめざす子もいて、模試やなんかで欠席が続いたりすると、他の部員との間がぎくしゃくしがちだ。
でも、わたしは心配しなかった。そういうときだって、あさみさんが何とかしてくれるのだから。部内でトラブルが起こったとしても、あさみさんに頼れば大丈夫。なんとかなってしまうのだ。
「もしかして、何年かぶりに全国大会まで行けるかもね」
木田ちゃんがぽつりと、ひさしぶりに嬉しそうな表情でそう言ったことが、心に残った。
お盆のあたりに休みを挟んだ後、ふたたび部活が始まった。カーテンを閉めても、八月の日差しはじりじりと教室に入り込んだ。教室の中にいるだけで暑い。それでも練習は楽しかった。
「あさみさんあさみさん、一時間ください」
わたしは全体練習の前に、部室であさみさんを呼びだすことが多かった。あさみさんはわたしよりも断然耳がいいし、指示を出すのも上手い。練習の間に何があったかは、いつも練習に出ているはーこが教えてくれた。
「ほんとは木田ちゃんも、あさみさんにお願いしてたんだよ。知ってる?」
はーこからそんな話を聞いたのは、夏休みの終わりの夕方のことだった。まだ十分に明るいけれど盛りを過ぎた太陽が、わたしとはーこの背中を照らしていた。
「ほら、木田ちゃん家はお父さんとお母さんが離婚するしないでモメてたじゃん? お父さんの愛人とかまで出てきて大変だったんだって。『あんたも話し合いに出なさい』って言われるけど木田ちゃんにとってはしんどくってさ、それであさみさんにお願いしたんだよね。今はもう離婚が成立して、なんとか落ち着いたって」
そんな話をしながら、はーこはローファーを履いている。顧問と話していて遅くなったから、他の部員の姿はない。木田ちゃんはもう少し顧問に相談することがあると言っていたから、たぶん遅れてくるだろう。
「知らない。わたしにも話してくれたらよかったのに」
「なっちゃんはさぁ、まきさんからの引継ぎどおり、部活でしかあさみさんにお願いしてないじゃない? 木田ちゃんはあくまで自分のために使ったから、言いにくかったんだって。なっちゃんが怒るんじゃないかって。だから実は、機会があったらあたしからなっちゃんに話してみてほしいって、木田ちゃんから頼まれててさぁ」
「そうなんだ。わたし、そんなことで怒ったりしないのに」
「あはは。でも木田ちゃん、呼び出すのはきちんと部室でやってたっていうから、やっぱ真面目だよね」
話しながら靴を履き、玄関を出た。そのとき、はーこが「あれ?」と声を上げた。
「あさみさん……?」
そんなわけないでしょ、と思いながら、わたしははーこの視線の先を追った。
正門の近くに人影が見えた。
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