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 それからというもの、あさみさんに「時間をもらう」ことが増えた。

 一度タガが外れてしまえば、お願いすることはとてもとても簡単だった。あさみさんに任せてしまえば、何もかもが楽なのだ。倒れそうな思いをしながら登校してくても済んでしまう。

 ほんの二歳上のはずなのに、信じられないくらい大人で、話が上手くて、何でも器用に片付けてしまう。あさみさんは歌が上手いだけじゃなくてピアノも弾けたから、憑依中にふつうに練習が始まったとしても何の問題もなかった。

 あさみさんがわたしの体を動かしている間、わたしの意識はどうも頭の隅っこあたりで膝を抱えてひっそりと隠れているらしい――そんな簡単なものじゃないけど、そんな気がする。

 最初はただ時間がとぶだけだった。でも何度かやっているうちに、わたしに乗り移っているあさみさんのことが、なんとなくわかるようになってきた。


 あさみさんには、亡くなったあさみさんの伯母さんの記憶があるらしい。

たぶん「生まれ変わり」というものなのだと思う。伯母さんは子供のころから賢くて、頭の古い親や親戚から「この子が女じゃなかったら」なんて言われて大きくなったらしい。おまけに霊感らしきものがあって占いができたので、近所の人やらなにやらが相談にくることも多かったらしい。それで長日部家にはずいぶんお金が入ってきたらしい。でも成長するにしたがって嫌気がさして、十八歳の誕生日に自殺したらしい。

 わたしが見聞きしたわけじゃないから「らしい」ばかりの話になってしまうのだけど、でも、大抵当たっているのだろうなと思う。あさみさんは人生二周目だし、前世で色んな大人の相談を聞いてきたから、わたしたちよりずっと大人っぽいんだろう。それに「十八歳の誕生日に死んだ」のは、あさみさんも同じだ。

「人の役に立ててたはずなのに、どうしてイヤになっちゃったんですか?」

 一度、そう尋ねたことがある。あさみさんは五十音の紙を使って、「いやなこともたのまれるから」と答えた。

 十円玉の動きが少し重かった。あまり話したくないのかもしれない、と思った。


 四月になった。わたしたちは進級し、新一年生が入学してきた。ほんの二年前はわたしも同じ立場だったはずなのに、すごく「若い」って感じがする。子供っぽくて、キラキラしてて、かわいいなと思う。あさみさんがわたしたちを助けてくれる気持ちが、わかったような気がする。

 彼女たちの前でいい恰好をしたくて、わたしはますますあさみさんに頼るようになった。こうなると、もうわたし自身でいるのが少し怖い。わたしだけがあさみさんに頼るわけにいかないから、ずっとあさみさんに「時間をもらって」いるわけじゃないけど、

「なっちゃん、前にいた先輩、ほら――あさみさんに似てきたよね」

 って、何も知らないはずの部員が話しているのを聞くと、ぎょっとした。はーこは全部わかってるって感じだけど、木田ちゃんは時々、ほんとに幽霊でも見るような顔つきでわたしのことを眺めた。でも、何も言わなかった。

 そうやって表向きは平和なまま時間が流れて、季節は夏になった。

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