07
「……降るって何ですか」
はーこがおそるおそる尋ねる。まきさんはにこっと笑って「さっきまきちゃんが、わたしに聞いたじゃない」と答えた。
それでわたしはようやく思い出した。まきさんは最初「今日はこれから雨が降りますか」って尋ねたのだ。まきさんがあさみさんになってしまって――本当になってしまったのかはわからないけれど――それですっかり頭から飛んでしまったのだけど、確かにそう尋ねた。
「雨が降るのよ。六時限目の終わりくらいに」
わたしは窓の外を見た。冬の近さを感じる曇り空だ。白い雲が全体にかかっていて、でも雨が降りそうな感じではあまりない、と思う……でもあさみさんになったまきさんは、決まりきった予定を読み上げるように「降るのよ」と告げた。
「そういうこと、前よりもっとわかるようになったの。生きてた頃よりも」
「あの、前よりってどういうことですか?」
わたしは慌てて尋ねた。とんでもないことを聞いてしまったのではないか、と思った。まきさんはあさみさんの笑い方で、あははは、と笑った。
「ひとには言わないようにしてたんだけど、わたし、けっこう霊感があったんだよ。それで色々わかっちゃうこともあったの。でも『霊感がある』なんて言ったら、変な子だとか、頭がおかしいとか、思われちゃうと思って。だから霊感で何かわかったことがあっても、理由がつけられそうなことしか話さないようにしてたの。でももう幽霊になっちゃったから、そういうことまで気にしなくてもいいわよね。ああ」
五分だったわね。
そう言うなり、まきさんの首ががくんと前に倒れた。わたしはびっくりして立ち上がりそうになったけれど、はーこが「指! 離れちゃう!」と叫んだおかげで踏みとどまった。
まきさんが、がっくりと倒していた首を伸ばして顔を上げた。
「どうだった?」
にこにこと嬉しそうに笑っている。「あさみさん、来た?」
わたしは何て答えたらいいのかわからなかった。木田ちゃんを見ると、困ったような顔でわたしを見つめ返してくる。はーこは顔を伏せている。たぶん十円玉をじっと見つめているのだろう。わたしは――なんと答えたらいいのかわからない。困ってまきさんを見ると、まきさんはまだにこにこ笑っている。
さっきまでの「あさみさんの笑顔」ではない。ちゃんと、まきさんの笑顔だ。
そのことに気づいた途端、背中がぞわっとした。
「あさみさんあさみさん、ありがとうございました。お帰りください」
まきさんがそう言うと、十円玉がまた動いた。「はい」の周囲をぐるっと回り、そして動かなくなった。
「――はい、おしまい。お疲れ様でした」
「はぁーっ」
はーこが間の抜けた声といっしょに、大きく息を吐いた。木田ちゃんは青い顔をして、「今の、何なんですか?」とまきさんに尋ねる。
「降霊術だよ。あさみさんを呼び出したの。なんでも相談にのってくれるし、なんでも教えてくれる。それに――」
そのとき、予鈴が鳴った。まきさんは「また今度ね」と言って立ち上がり、十円玉と折りたたんだ紙をささっとまとめて、脇に置いてあった通学カバンの中に片付けてしまった。
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