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 心配事があるとき、私はカレーうどんとかナポリタンとか、服を汚しがちな料理が食べられなくなる。頭の隅っこで常にその心配事がぐるぐる回って注意がおろそかになってしまうので、こういうときはおむすびに限ると思っているけど、残念ながらカフェのメニューにおむすびはなかった。結局シロさんと二人でクラブハウスサンドを二皿注文し、確かに片手でも食べやすいなと思いながらもそもそ食べた。

「とにかくこっちに来て、結構前に進んだんじゃないですか」

 左手の指が三本使えなくなっているというのに、シロさんの声は朗らかだし、口調も普段どおりだ。心配そうな店主が「近くの病院まで送りましょうか?」と言ってくれるのを適当に言いくるめつつ断り、驚くほど手早く食事を済ませてしまって、今はコーヒーを飲みながらスマホをタップしている。調べものか、それとも誰かと連絡をとっているのだろうか。

 何にせよ今回のシロさんは――おかしい話だけど、前よりは「落ち着いている」という感じがする。

 そういえば二年前「詰んだかも」という状況に陥ったとき、シロさんは笑っていた。「ニコニコ」ではなく「ゲラゲラ」という感じの笑い方だった。今回の彼は、私が知る限り、まだあんな風には笑っていない。そのことに少し安堵を覚えつつ、それでも不安はぬぐい切れない。なんといっても今回、危機に立たされているのは私自身だ。

「進みましたかねぇ……」

 つい弱腰な言葉が口から出てしまう。

「神谷さんにしては弱気じゃなぁ」

 シロさんはそう言って笑った。

「進みましたよ。鷹島さんのご実家に行って、お母様が亡くなってることがわかったし、めちゃくちゃ意味深な手紙も見つけたでしょ。女の子たちから鷹島さんらしき人の話も聞けたし、同じ話が二十年くらい前もあったってこともわかった。英星女子って高校名も出てきたし」

「鷹島さんのお母さんと、『あさみさん』がつながっているかもしれないってことがわかったのも、一応は進歩ですよね……でも、まだわかんないことも多いじゃないですか。パーツは集まってきてる気がするけど、どうやってつながってるのかがよく」

「まぁそれは一旦置いておくとして、ボクにはちょっと心当たりがありますから」

 シロさんはしれっと重要そうなことを言う。

「心当たりって何ですか?」

「秘密です。それを言っちゃうと、神谷さんにくっついてるやつにも聞かれちゃうかもしれないので」

「気になる……」

「まぁまぁ」

「うーん……まぁいいか。それでシロさん」遅れてサンドイッチを食べ終わった私は、お皿をテーブルの端に寄せながら尋ねた。「この後はどうします? 大学構内に入るのはちょっと難しそうだし、かといって英星女子って高校はもうないみたいだし。他にどこか話を聞けそうなところって……」

「そうですよねぇ、どうしようかな……」

 そう呟きながら、シロさんはスマホを何度かタップする。設定を変えたのだろう、画面は真っ暗になっていて、彼が今スマホで何をやっているのか、まったく見当がつかない。

「――うん」

 シロさんは何か納得したかのようにうなずくと、スマホを自分のポケットにしまい、

「神谷さん、ボクとりあえず寝ます」

 と言い放った。

「え!?」

「何しろ疲れるもんで……いや、大丈夫です。十分くらいで起きますから」

 そう言うとシロさんは腕を組んで目を閉じ、またしても見る間に眠ってしまった。

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