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「タカシマさんってぱっと見怪しいとか不審人物とか、そういう感じ一切ないんですって。髪長めの結構きれいな子で、すらっとしてておしゃれで……って感じで、とにかく第一印象はいいらしいんですね。色んなところに顔出してたみたいだから、いつからこの大学に来るようになったのかはよくわからないらしいんですけど。

 私が話聞いた先輩は、ジャズ研じゃなくて、授業で知り合ったって言ってました。ジェンダー研究の講義だったかな? 教授が持ってきたCMを見て、その後それについてディスカッションする機会があったんですって。で、周りの人と適当にグループ組んでくださいって指示されて、その辺の知らない人と組んだら、その中にタカシマさんがいたっていうんですよ。

 最初変だなと思ったのは自己紹介のときで、その人、苗字しか名乗らないんですって。大体みんな、学部と学年と名前くらいは言うんですけど、その人は『タカシマです』だけ言ってニコニコしてるらしいんです。でもまぁ、突っ込んで聞くほどのことでもないかって。十五分後にはグループで出た発言をまとめて発表しなきゃならないんだから、自己紹介にこだわってられないんですよね。だからスルーして、普通にディスカッション始めて……確か、その日はそれで終わりだったらしいんです。

 そしたら次の日から、そのタカシマさんによく会うようになったんですって。『昨日一緒に講義受けたよね。覚えてる?』みたいな感じですごいフレンドリーに話しかけてきて、それから講義とか学食とか、やたらと会うようになって。先輩も別にイヤじゃなかったから、普通に話したりするようになって……でもタカシマさん、所属学部とか部活とか、そういうの全然教えてくれないらしいんですよ。ほんと。だから先輩、『他大の学生とかがモグリで来てるのかな?』って思ったらしいんです。ほんとはダメじゃないですか、そういうの。だから距離とるようにしたら、タカシマさん、もっとグイグイくるようになって……だよね? こんな感じだったよね」

 ボブカットの子が一気にしゃべり、一息ついてロングの子に確認する。ロングの子はモンブランを食べながらうんうんとうなずく。ボブカットの子は安心したようにうなずき返し、紅茶を一口飲んでからもう一度話し始める。

「それが怖いんですって。ちょっと遠くからでも目ざとく見つけて、ばーって走ってきたりして。一応あたりさわりのない対応してたけど、ヤバいじゃないですかそんな人。完璧怖くなって、ジャズ研の別の先輩に相談したんですって。そしたら、その別の先輩が兼部してる部に、たぶん同じ人が現れて問題になってるってわかったんです。

 そっちでもやっぱりターゲット絞って粘着して、相手の子が『もうベタベタしないで』って言ったら激怒だって。『ひどいひどい』って言って全然説得とか聞かないんですって。暴れるからその場にいた男の子が押えたら、『痴漢された!』って騒いだりして……。

 それで調べたら、あっちこっちからそういう話が集まってきて……もう体が三つくらいあるの? ってくらいあちこちに顔出して、ロックオンした人に付きまとってるらしいんですね。それも相手が女の子ばっかりで、なんか『友達を作りたい』みたいなこと言ってるらしいんですけど……。

 さすがに問題だから、誰かが仕切ってみんなで学生課に行って相談して――でも学生じゃないし素性もわかんないから、退学処分とか出禁とかはすぐできないじゃないですか。とにかく見かけたら職員さん呼んでって話になって……で、その後も色々。結局職員さんが警察に通報したとかあったらしいんですけど、この辺は先輩もよく知らないみたいで――だよね?」

 また確認を挟む。ロングの子がうなずいて口を開く。「そうそう。通報したってわかったら、タカシマさん、逃げちゃったんだよね。それで警察に捕まったとかじゃないらしいけど、それからは来なくなったって」

「うんうん。それで一応落ち着いたんですけど、やっぱりよその人がふらっと入って来られるのはよくないよねってことになって、それから立ち入りが厳しくなったんです。まぁそのタカシマさんのことだけじゃなくて、前から『ちょっと緩すぎない?』って話は出てたらしいんですけど、そのとどめになっちゃった感じかな。ね?」

「ん、そんな感じらしいね。で、先輩が『もしかしたらまた出るかもだし、知っといた方がいいよ』って教えてくれたんですよ」

 私は思わず露出している腕をさすった。寒気がした。

 会社にいたころの鷹島さんを思い出した。ジャズ研の女子大生たちが話していた「タカシマさん」の話から受ける印象と、私が実際に目にしてきた鷹島美冬の姿が、完全にダブッて見えた。

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