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 ブルーシートとテープで囲まれた事件現場は、いかにも禍々しいもののように黒木には思えた。幸二もわかりやすく顔をしかめる。まりあだけは元気な様子で、

「ちょっとこの辺でじっとしててもいいですか? あっ、大丈夫です! よまないので!」

 などと言う。まりあが少し慌てた様子だったのは、自分と幸二がほぼ同時に「大丈夫か?」という顔をしたのに気づいたからだろう――黒木はそう思った。表情なんか見えないはずなのに、相手の感情を読み取るのが、まりあも志朗も上手い。

「次鼻血が出たら帰りましょう。でもほら、わたしもお師匠さんに『なにかいたけど、それ以上はちょっとわかりませんでした』みたいな報告しにくいですし、もうちょっと粘らせてくださいね」

「中学生なのにしっかりしてるな……まぁ、それはうん、すごくわかります」

 幸二はそう言って、深いため息をついた。「僕も本当なら、志朗さんにちゃんとお仕事請けてもらわないとならないはずなんで……はー、母が何て言うかなぁ。報告するのが憂鬱ですよ」

 スマホも持っておらず、本殿の奥に引きこもっているはずの相手にどう報告するのかはわからないが、幸二はそんな心配をし始める。

 歩道は広いが通行人はそこそこ多い。道をふさがないよう端によけながら、まりあは、

「そういえば幸二さんのお母さんって、神社の神主さんなんですよねぇ」

 などと世間話らしきものまで始める。急に話をふられた幸二は少し驚いたようだったが、

「ああ、はい。そうです」

 と答える。

「じゃあ幸二さんが将来神社を継ぐんですか?」

「一応そういうことになってるんだけど、うーん、正直イヤだねぇ」

 幸二はそう言って笑った。

「イヤなんですか?」

「気が進まないんだよねぇ。責任も大きいし……僕次男なんだけど、うちはたぶん兄が継ぐだろうと思ってのんびりしてたら、兄が逃げちゃったんだよね。ははは。まぁ僕は元々憑かれやすいもんで、いっそ継いじゃったほうがいいよなんてことも言われて……母なんかもう鬼軍曹みたいなもんで、『いずれ神主の座を渡さなければならないのに、後継ぎがお前のような軟弱者で心配だ』みたいなことを僕に言うもんでもう胃がね……」

「大変ですねぇ」

 などとしゃべっている幸二とまりあを見守りながら、(この幸二は本物の加賀美幸二なんだろうか)(禍々しいってどういうことなんだ)などと考えていると、黒木のスマートフォンが震えた。画面を見ると、志朗からテキストメッセージが届いている。

『加賀美はるえさんに頼まれたので』

 そう書かれている。幸二が持ってきた依頼のことだろうか? どう返事をしようか迷っていると、また志朗からメッセージが届いた。

『そういうことでちょっと街連夜のも(や?な火!や父』

 黒木は急いで『ちょっと以降打ち間違えてます』と送った。すぐに『ごめん』と返事が届く。それに続いて、

『とりあえず、まりちゃんを止めないで』

 とあった。

(どういうことだ?)

 怪訝に思って黒木が手を止めたとき、「えっ、ちょっと!?」と声があがった。

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