04

「大丈夫ですかね黒木さん、僕ら不審者だと思われないですかね……」


(幸二さん、こう言ったら申し訳ないけどビビリだな……)

 などと黒木は思う。

 正直、親近感がわいている。黒木自身、志朗にボディガードなどという名目で雇われているが、とても荒事に向いている性格ではないという自覚がある。ただ強面で大柄なので、立っているだけで威圧感がある。志朗に凶事を告げられた客が取り乱しかけても、黒木が「ちょっと……」などと言いながら近づくと、それだけでギョッとして正気に戻ったりする。

 ともあれ、幸二が心配する気持ちはわかる。たとえば「不審な男が少女を連れ回している」などと誤解されるのは、黒木も困る。

「大丈夫です! もし職質されたら、わたしからお巡りさんに説明します」

 自信ありげに返事をした少女の名前は、小早川まりあという。この四月から盲学校の中学部に通い始めた彼女は、将来よみごになるべく、志朗の事務所にほぼ日参している。早い話が弟子である。

 まりあの大きな瞳は何も映しておらず、今は右手に白杖を持ち、左手を黒木の腕に沿えている。

「あ、ありがとう……あの、志朗さんのお弟子さん? ですよね?」

「そうです、一番弟子です。まぁ一人しかいないんですけど」

 そう言われても、幸二にはまだ若干の戸惑いがあるらしい。

 気持ちはわかる――黒木はそう思う。「ボクはお客さんが来るから行けないけど、ボクの弟子が来るので彼女を連れてってみてください」と志朗に言われて、まもなくやってきたのがいたいけな女の子なのだから、幸二に戸惑いがあってもしかたがない。

 歩きながら眉をひそめている幸二は、(こんな子どもを駆り出して大丈夫なのか)とでも考えていそうに見える。まりあは小柄で童顔だから、余計に幼く思われているのかもしれない。

「お師匠さんがわたしに行かせるって決めたくらいですから、そんなに危なくはないと思います」

 と、まりあの方はずいぶん落ち着いている。

「それに、幸二さんって霊能者ですよね? ゆくゆくはお母さんの跡を継ぐ予定だって、お師匠さんから聞きました」

 そう言われればそうだ。黒木はほっとした。たとえこれから行く場所に厭な気配を発する何者かがいたとしても、幸二に対処してもらえばいい。ことそういうものに関しては、まだ修行中のまりあや、弟子ですらない黒木よりもずっと的確に対処できるはずだ――

「あの、申し訳ないんですけど、僕お祓いとかはできないです」

 申し訳なさそうに、幸二が言った。「確かに神社を継ぐ予定ではありますし、霊的なものが見えたりはするんですよ。でも、お祓いとかはムリです。すみません」

「そうなんですか!?」

「ほんっとスミマセン……うちは基本的に、ことによって、うちの神様に力を貸してもらえるんです」

 そう言いながら、加賀美は頭をかいた。

「つまり神社にいないと……」

「何もできないってことです。もっともうちの母くらい強かったら別ですけど、あの人は何百年に一人の天才、みたいな感じなので……」

「はー、そうだったんですね……」

 さすがにまりあも怖がりだすかと思ったが、「じゃあ、何かあったらお師匠さんに来てもらいましょう」と実に切り替えが早い。そうこうしているうちに、三人は地下鉄境町駅付近にさしかかっていた。

「あっ、あれ」

 まりあがふと足を止め、まるで何かが見えているみたいに前方を指さした。

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