03
「なんで加賀美さんは、神谷さん案件をボクに投げてくるかねぇ……」
「あの、神谷さんってそんなに面倒な方なんですか?」
志朗が露骨に嫌がるので、幸二は少々引いている。
「いやぁ、前にえらいのを持ち込んできたのでゲンが悪いというかなんというか……ていうか加賀美さんのとこに連絡とったってことは、とるなりの事情があったってことですよねぇ。てことは神谷さん、こないだ来たときにボクが言ったこと無視したのと違うか?」
志朗がそのとき何を言ったか、黒木は覚えている。確か、帰ろうとする神谷に「すぐ電車に乗らない方がいい」と言ったはずだ。「駅の方に何かいる」とも。
志朗がしかめ面のまま「……なんかそんな気がしてきた」と呟いた。
「せっかく注意しといたのに、あの後すぐ駅に向かったんじゃろなぁ。はぁ~……そういうとこですよ、神谷さんは」
「なんか、すみません……」
幸二はいかにも肩身が狭そうにしている。「請求書は母宛てに出してくださって構わないと聞いてますので……」
「ああ、ありがとうございます。ボクも聞きました。お金ならありますから言うて、すごい見栄切ってらしたな……神谷さんから連絡あったのって、昨日ですよねぇ。うちに来た翌日かぁ……ねぇ黒木くん」
志朗が急に声をかけてきた。「キミのとこには連絡あった? 神谷さんから」
「いえ、何も」
黒木が首を振ると、志朗は「だよねぇ、ボクもです」と返す。
「加賀美さんを頼らなきゃならないようなことが起きて、でも加賀美さんには断られたってことでしょ? そしたら次はボクのとこに来るんじゃないかと思うんですけど、来てないんよ、これが。ちょっと時間が空きすぎてるよね? 彼女、こうと決めたら早いはずだけど」
「そうですね……」
志朗にそう言われると、黒木も急に心配になってきた。神谷は今、連絡をとれない状況にあるのだろうか? もしかして、危険な状態にあるのでは……。
志朗はさっそくスマートフォンを取り出し(読み上げ機能の合成音声がものすごい速さと小声で喋るのを聞いて、幸二が驚いたような顔をした)、神谷に電話をかけた。応答はないらしい。志朗はメッセージを残さずに電話を切ると、スマートフォンを仕舞った。それから、心配そうにその様子を眺めていた幸二に話しかけた。
「とにかく、今すぐボクがご協力するのは難しいです。神谷さんがいない、連絡もとれない、手がかりになりそうな品物もないっていうんじゃ、上手いことよめませんからねぇ。それにこの後も予定があるし。でも幸二さんかて空手では帰れないでしょうから……」
などとぶつぶつ言いながら何やら考えている志朗と、ソファに腰かけて小さくなっている加賀美をそれとなく眺めながら、黒木は(幸二さんもなかなか苦労が多そうだ)などと考えていた。だから志朗に「黒木くん」と声をかけられたときは、完全に油断していた。
「えーと、何でしょう?」
「悪いけどここは一旦いいので、幸二さんについてってもらえる? たぶん、駅の方に行ってみたら何かあると思うんだよね」
「――俺がですか?」
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