第一章 捕食
第一話 追放
「出てけ! お前はもう二度とここに来るな!」
……追放されてしまった。
ここは別に剣と魔法のファンタジー世界ではないし、無論ギルドやパーティーなんかがあるわけでもない。
ただ
俺は、成績や頭脳が悪いわけではない。いやむしろ良すぎてしまったと
ことの始まりは『真実の視界』の探究――俺が幼少期の頃に、目覚めてしまった好奇心から始めた実験――であったが、その為だけに人生まで棒に振ることになってしまった。
それこそ子供の頃は、まだ目くじらを立てる程のことはしていなく、ただただ錯視の本を読み漁り、様々な手品の技法や、視界を変える催眠術を試すくらいのことで済んでいた。
だが、大学に入ったことにより、その行動はより目に余る方向へとエスカレートしていった。
他人と
教授に危険な薬物の使用を見抜かれ、そのまま強制退学となった。
目のことにしか目がない俺でも分かる、あの時追放を言い渡した彼の声色は、怒り、悲しみ、
と、そんな
……別に反省しているからそんなことをしているわけではない。
そして開き直ってぐうたらに過ごすために、ここで坐禅をしているわけでもない。
これも一つの『真実の視界』研究の一つなのだ。
真っ暗な視界の中で、頭の中で一点を見つめ、それを見続ける集中訓練。
これを長い間やっていけるのならば、新しい景色が見えてくるというものだ。
薄く綺麗に澄み渡る青空、木の匂いが広がってくる日の熱に当てられた
誰にも目を配る必要がなく、心の眼で
ここには誰もいない。誰にも白い目で見られる心配がない。
今現在この時に限っては、外側の景色なんてものは何も見えないのだから、もし天地がひっくり返ったとしても、俺の
……いや、今もしかしたらそれに近しいことが起こっているのかもしれない。
何も見ていないのに、目を疑う光景が起きている。
突然、あぐらをかいている脚が、地面に付いている感覚を失ったのである。
某カルト宗教の教祖よろしく、坐禅を組んだまま宙に浮いている。
というより、まるで落下していくかのように、文字通り天地がひっくり返ったかのように、身体全体が上へと引っ張られていったのである。
しかし、この程度で集中を切らしてはいけない。
どうせ今は大学を追放され、お先真っ暗なのだ。
このままこの姿勢で、流されるまま流され、経過を見ることにしよう。
◇◇◇
――ここはどこだろう?
落ちる世界に身を任せていたら、また脚に地面の感触が戻ってきた。
何が起こったのか全く見当もつかないし、そろそろ坐禅をやめる頃合いでもあるだろう。
俺は恐る恐る目を開けた。
……そこに見えたのは、ヨーロッパ風の建物が整然と並ぶ町であった。
ファンタジー小説でよくある、中世のヨーロッパともまた違う、どこかの観光ガイドで見たことあるかのような町並み。
水色、オレンジ、黄色など、一軒一軒は単色で、全体で見るととてもカラフルな、
上を見上げると、田舎でしか見れないような、とても明るく青い空が綺麗に
……ここで俺は何か違和感を覚えた。
パット見は普通の景色のはずなのに、何か重大なことを見落としているかのような違和感。
なんと言えばいいか、絶対に起きてなければいけない現象が、全く起きていないかのような違和感。
その正体を探るため、俺はこの町の探索を始めた。
……少し歩いたところで、第一町人を発見。
おそらく高校生くらいの、姿が奇抜な若者であった。
そして、その人物のおかげで、俺はようやくこの景色の違和感――その正体に気づくことが出来た。
そう、彼は、全く動いていなかったのだ。
何か急いでいるような姿勢はしているが、その
更に、さっき見上げた空の雲だって、今まで一ミリたりとも移動していない、という事実にも気づいてしまった。
ああ、なんということだ。俺は大学の追放に飽き足らず、さっきまでいたあの地から、この時の止まった世界へと、追放されてしまったのだ。
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