第六十五話:主従決戦
「どうしましたコルニクス、守ってばかりでは私は倒せませんよ!」
中空に浮いたヘエルは光魔法を使い、俺を空中から攻撃してくる。
光魔法の特性上、攻撃に用いると威力が著しく落ちるのだが、悪魔の力で出力を底上げして無理やり形にしてきやがる。
光魔法は光を用いる都合上、攻撃魔法はクソほど速度が速い。
迎撃に集中しなければ、俺でも手傷を防ぎきれない。
俺へ一直線に降り注ぐ光の槍を、俺は片端からテネブライで切り裂いて打ち消していく。
防戦一方。竜泉水はもうないから、不要な手傷を負う事も避けなければならない。
「ほざけ! 肩を温めてるんだよ!」
「では、これではどうでしょう!」
光の槍が分散し、四方八方から同時に俺に襲い掛かってくる。
俺は後方に広がった槍だけを切り伏せ、切り開いた方向へ跳ぶ。
光の槍は俺を真っすぐ追尾し、途中で機動を変える。だが、俺の場所が変わったことで全方位からの攻撃ではなく、正面方向からに集中する形となった
「『インテールフィーケレ・マギア』!」
魔力を纏わせた左手を突き出し、魔法を防ぐ。
光の魔力と闇の魔力は互いに打ち消す関係だ。単純な魔力勝負では勝ち目がない。
だから、俺は最低限防ぐとテネブライを振るい魔法を霧散させる。
「……なるほど。聞いていましたが、厄介ですね。その剣」
「羨ましいか? くれてやらんぞ」
「いりませんよ。そんなものなくても、私は勝ちますから」
再びヘエルの周囲に魔法陣が広がり、光の槍の発射準備が整えられる。
クソ、何か突破口を見つけなければジリ貧だな。
距離を詰めようにも、空中に跳べば魔法の格好の餌食だ。
闇の魔力で引き寄せようにも、光の魔力で打ち消されてしまえばただ消耗しただけになる。
その手は取れない。
なら、俺が取れる手は限られている。
脇にテネブライを構え、魔力を込める。
俺が何をしようとしているのか察したのか、ヘエルは急いで魔法を放ってくる。
それを避けつつ、必要最低限の魔力を込めると、俺は迫りくる魔法ごとヘエルに向かって放つ。
「全てを飲み込み塗りつぶせ、『ハイレシス』!」
黒き奔流が光の槍を飲み込み、ヘエルへと迫る。
ヘエルは空中で機動を行い避けるが、その隙を俺は見逃さない。
ハイレシスに気を取られた一瞬の隙をついて俺は空へと跳び、ヘエルの正面までやってきた。
「しまっ!」
気が付いた時には、俺が正面にいたことに大層驚いたようだった。
俺は既にテネブライを振りかぶり、ヘエルへ振り下ろそうとしている段階だ。
ヘエルはそれも何とか避けようとするが、避けきれずに光の翼の片割れを砕く。
「うくっ!」
俺は地面に着地をする。
ヘエルは空中でふらつきながらなんとか制動しようとしていたが、片翼では不可能なようでふらつきながらも地上に降りてきた。
「反応が遅いな」
「……実戦経験の差ですかね。切り札を牽制に使ってくるとは思いませんでした」
「だからお前は俺に勝てないんだ。まあ、俺は最強の男だからな、誰だろうと俺には勝てんが」
俺は再度構え直す。目的は達した。ハイレシスを再び打つだけの魔力はすぐには回復しないが、十二分な成果を得られた。
あとは再び空に逃げられなければそれでいい。
ヘエルも再び翼を作り出すだけの隙は無いと見たのか、光の防壁を宙に幾つか浮かべ、光の槍を放つ体勢に入った。
防壁で守りつつ、俺を狙い撃つつもりか。
ヘエル自身もわかっているんだろう。咄嗟の反応が求められる至近距離戦では間違いなく俺にはかなわないことを。
「引きこもり野郎が、引きずりだしてやるよ!」
テネブライの能力は知っているだろうに。お前の防壁なんて、何の意味も持たない。
俺は突撃する。光の槍も、光の壁もテネブライで切り裂いて、ヘエルへと迫る。
ヘエルは背後へと下がりつつ、俺への射撃を繰り返す。
本当に戦闘慣れしていないな。手札、手数があまりにも少なすぎる。
本来が戦闘に向いていないんだ。悪魔で増幅されようとも、限界値は低い。
「取った!」
俺は光の防壁に包まれたヘエルへ向かってテネブライを思い切り突き出す。
ヘエルは破られない様に防壁を何重にも重ねるが、そういう問題ではない。
そもそも、防御無視と言うのは本質的な能力ではないからだ。
テネブライの刀身は防壁をすり抜けてヘエルへと迫る。
ヘエルは信じられない様に目を見開き、後ろに転ぶようにしてぎりぎりのところを避けられた。
俺は当然転んだヘエルへ追撃を行おうとする。
「『ラディウス・スキティッラ』!」
ヘエルが咄嗟に放った魔法は、四方八方に光の爆発を起こす魔法だった。
大した威力はないが、視界と耳がやられて俺は強制的に怯まされる。
幸いにも、咄嗟に撃たれた魔法と言うだけあって粗末なものだったから、すぐに回復する。
だが、態勢は整えられてしまった。
「嘘つきましたね。防御無視、なんて聞こえのいいものじゃないじゃないですか」
「今の一瞬で理解したのか。凄いな。俺も持って使って初めて理解したというのに」
頭の良さは流石らしい。もうテネブライの本質を見抜いたか。
だが、もう遅い。優位は確実にこちらが取った。
「防御無視はそう見えるだけ。本質は、持ち主が切るものを選べるすり抜ける剣、そうですね?」
俺は不敵に笑って見せる。
ヘエルは完全に余裕を失っていた。
テネブライの本質を理解すればわかるが、地上に引きずり落とされた時点で絶対的不利になっていることがわかるからだ。
「ああ、そうだ。それで、俺に勝つ算段は見えたか? いたずらっ子」
俺は笑い、手招きして挑発する。
ほら、さっさと終わらせよう。この下らない争いを。
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