第六十話:最強の門番

「右角から二体! 戦えるか!」

「フェレスとイレで一体やれ。フェレスは魔法を使ってもいい。オペリオルの主砲で一体は吹き飛ばす。バルバは狙い定めるまでの時間稼ぎだ。ゴー!」


 周囲の状況をイミティオに探査させ、戦わない俺がオーダーを出し、フェレスたちを動かす。

 俺のオーダーに間違いはない。最速で敵を倒して、最短経路を駆け抜ける。

 敵と戦うのも最低限だ。避けられるようならば戦闘を避けるように動いている。


 しかし、原作で知っていたとは言え、便利だなイミティオ。一家に一台欲しいぐらいだ。

 俺が動き回らないでいいというのもあるし、気配を探った結果の答え合わせができるのは非常に楽だ。

 魔境の中では魔力だまりとかで気配で探るのにも限界があるからな。


「コルニクス、目的地まではどのぐらいだい?」

「そこまで距離はないはずだ。見た目ほどの距離はな」


 魔境と化した王都は距離の感覚が狂っている。

 ワープゾーンと言うべき場所が各所にあり、上手く活用すれば短縮にも振り出しに戻る羽目にもなる。

 更に、見た目の距離と実際の距離がかみ合わないこともしばしばある。


 情報を知っていなければ攻略にはかなりの時間がかかるような構造だ。

 こういう時はこれまでなんも役に立たなかった原作知識に感謝したくなる。


 俺たちは出てきた魔物をいなしながら、全力で魔境を駆ける。

 王都の街並みは魔境化してもさして変わりはしない。魔物は建物の破壊には興味がないという事だろうか。


「この道を抜けた先だ」

「おいおい、本当にこの裏道の先が学園に繋がってるのか?」

「魔境に常識を問うなイミティオ。先入観は死をもたらすぞ」


 まあ、俺も知らなければ同じような反応をしただろうがな。


「念のためにお前たちに一人一つ持たせた竜泉水はまだ持っているな?」

「もちろん。いざというときには遠慮なく使わせてもらうよ」

「ああ。俺がトートゥムやヘエルと戦っている間、お前たちには邪魔が入らない様にやってくる魔物と戦ってもらわないといけない。迷う事なく使え、どうせ拾ってくればいい品だ」

「これをそう言えるのは君ぐらいなものだよ」


 この路地を超えれば、俺たちの予想が正しければあいつが待っている。

 激戦となるだろう。まあ、負けてやる気はさらさらないが。


「行くぞ!」


 路地を超えた瞬間、広がっていたのは死屍累々の広場だった。

 何かに吸い寄せられてきたのであろう魔物が、数多の切り傷を持って死んでいる。


 その魔物の死体の山の向こうには、男が一人立っている。

 ——これまでの俺たちの予想を、全て真実だと告げる男が。


「きましたね。コルニクス君」

「トートゥム……っ!」


 腕を組み、道を封鎖するように立っている男。現最強の男。ヘエルの守りをしているはずの男。


「お前たち、下がっていろ。その路地からくる魔物を頼んだ」

「コルニクス、君は――」

「安心しろ。俺は最強になる男だ。今ここで、最強になるがな」


 俺はフェレスたちを下がらせると、一人前にでてトートゥムと向かい合う。

 お互いに腰に掛けている剣に手を当てて、いつでも引き抜ける態勢を整える。


「よう、久しぶりだな。元気してたか?」

「見ての通りだよ。コルニクス君も壮健でなによりさ。大変な目に遭ったんだろう? 聞いたよ」

「ああ、大変だったよ。とんだご主人様を持ってしまったものだ。念のため聞くが、通してくれたりはしないか? 俺はあの阿呆をひっぱたいてやらないといけなくてな」


 俺がふざけて言うと、トートゥムは楽し気に噴き出して笑った。


「流石に、お嬢様に狼藉を働くと言ってる人を通すことはできないかな。ごめんよ」

「いいさ。お前はそう言うってわかってたからな。力尽くで通させてもらう」

「念のため聞くけれど、今は引いてくれるという選択肢はないかな? お嬢様が出てくるまで、僕はここを守る様に言いつけられてるんだ」


 そう言われると、俺も仕方がないとばかりに剣を抜く。右手に魔剣、左手の普通の剣だ。

 合わせて、トートゥムもテネブライを引き抜く。


「少し見ない間に二刀流になったのかな?」

「お前を倒すため特別に用意した構えだ。光栄に思え」

「それはそれは、楽しみだね」


 背後の方ではフェレスたちの叫び声が聞こえてきた。魔物がやってきて戦い始めたか。

 あいつらのためにも、ヘエルを待たせてる都合でもそんなに時間をかけていられんな。


「悪いが、お前は前座だ。速攻で片づけてやる」

「言うようになったね。僕に勝つ算段はつけてきたのかな?」

「ああ。覚えておけよ、今日から俺が最強だ」


 さあ、本筋ではなかったが、もらえるというなら是非もない。

 最強の座を貰おうか。

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