第41話 寄付金の紛失

夏の盛り、栄町銀天街は賑やかな夏祭りの準備に追われていた。色とりどりの提灯が吊るされ、通りは祭りの装飾で華やかに彩られていた。商店街の各店舗では、店主たちが出店の準備を進め、子供たちは楽しそうに走り回っていた。地元の信用金庫に勤務する三田村香織と藤田涼介も、その準備に奔走していた。


「涼介、これをあそこに掛けて。」香織は手元の提灯を指さし、指示を出した。


「了解、香織。」涼介は笑顔で答え、手際よく提灯を掛けていった。


祭りの実行委員会は、一年に一度のこのイベントを成功させるために尽力していた。商店街会長の鈴木和夫もその一人で、集まった寄付金を大切に管理していた。寄付金は祭りの運営に欠かせないものであり、地域の人々からの温かい支援の結晶だった。


ある日の午後、祭りの準備が佳境に入っていた時、鈴木和夫は寄付金を確認するために信用金庫の金庫室に足を運んだ。金庫の扉を開けた瞬間、彼の顔色が青ざめた。中は空っぽだったのだ。


「何てことだ…寄付金が…」鈴木は震える声で呟いた。


動揺を隠しきれないまま、鈴木は急いで信用金庫の支店長、東寿郎に連絡した。東もまた、この事態に驚愕し、すぐに内部調査班の香織と涼介に連絡を取った。


「香織、涼介、緊急事態だ。金庫に保管していた寄付金がすべて消えてしまった。」東は深刻な表情で二人に状況を説明した。


「そんな…一体どうして?」香織は困惑しつつも、冷静さを保ち、調査に取り掛かることに決めた。


「まずは防犯カメラの映像を確認しましょう。何か手がかりがあるかもしれない。」涼介が提案し、香織も同意した。


二人は金庫室の防犯カメラの映像をチェックし始めた。映像には金庫室の周辺が映し出されていたが、特に不審な人物が映っている様子はなかった。時間を遡り、何度も映像を確認したが、手がかりは見つからなかった。


「これは内部犯行の可能性が高いわね。」香織は映像を見つめながら言った。


「内部犯行…そうなると、金庫にアクセスできる人物を洗い出す必要があるな。」涼介は資料を取り出し、金庫へのアクセス記録を確認し始めた。


香織と涼介は、金庫へのアクセス記録を一つ一つ調べていった。誰がいつ金庫に入ったのか、その記録を丹念にチェックする。だが、記録には特に不審な点は見当たらなかった。


「一体どうやって…?」香織は頭を抱えた。


「これは一筋縄ではいかない事件のようだ。」涼介も困惑の表情を浮かべた。


香織と涼介は、寄付金が消えた経緯を知るために、地元の人々に話を聞くことにした。商店街の人々は皆、驚きと困惑を隠せない様子だった。


「寄付金が消えたなんて…一体どうして?」商店街の一人、川村さんが心配そうに言った。


「私たちも何が起きたのか分からないんです。でも、必ず解決します。」香織は力強く答えた。


図書館司書の佐々木花子も、過去に似たような事件があったことを話し、その資料を提供してくれた。


「昔、この商店街でも同じようなことがありました。もしかしたら何か参考になるかもしれません。」花子は古い新聞記事を手渡しながら言った。


「ありがとうございます。これを元に調べてみます。」涼介は感謝の意を示し、資料を受け取った。


調査が進む中、香織と涼介は寄付金の管理方法や関係者の動きを再確認し、不審な点を発見した。鈴木和夫の孫が最近金庫に近づいていたことが判明したのだ。


「鈴木さんの孫が何か知っているかもしれない。」香織は真剣な表情で言った。


「早速、話を聞いてみましょう。」涼介も同意し、二人は鈴木和夫の家へと向かった。


「お孫さんが金庫に近づいていたことについて、何かご存知ですか?」香織は鈴木和夫に尋ねた。


「ええ、最近はよく遊びに来ていますが、金庫には触れないように注意しています。でも、何かあったのでしょうか?」鈴木和夫は心配そうに答えた。


孫に話を聞くと、彼は何も知らないと否定したが、どこか隠している様子が見受けられた。香織と涼介は慎重に彼の行動を追跡し、何かを見つけ出す決意を固めた。


「一筋縄ではいかないわね。」香織は再び資料を見つめながら言った。


「でも、必ず解決してみせる。」涼介は決意を新たにした。


こうして、香織と涼介の寄付金を巡る調査は続く。地元の人々の期待を背に、二人は次の手がかりを求めて、さらに深く調査を進めていく。栄町銀天街に広がる夏祭りの準備は続く中、その背後には新たな謎と真実が待ち受けているのだった。

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