二十六話 美しすぎる少女




「この子の親を探さなきゃ」


 デニスが言った。


「もちろんだ、きっと探しているだろう」


 ジョーンズは頷き、デニスに少女を渡した。それを確認して皆、馬を走らせた。


「この先にある町に行くしかない」


 デニスは、少女が羽のように軽いのに驚いた。意識を失っている少女のまつ毛は長く、赤い唇は半開きで小さく呼吸している。


「……綺麗な子だ」


 アニスは、馬の背にまたがったまま相変わらず唸っていた。その時、デニスの腕の中で少女がうめいて目を開いた。


「あ、目を覚ました」


 デニスが声を上げる。一行は立ち止った。

 少女はびっくりした顔であたりを見渡し、体をぶるぶる震わせて、デニスにしがみついた。アニスはその様子を見て呟いた。


「人間を怖がってない……」

「だから、人間だろ」

「うーん……。美しすぎるわ」


 ひがんでいるんだ、とジョーンズは思った。


「さあ、進むぞ」


 ジョーンズの声に一行が先へと進む。ふと、アニスの耳に囁くような声が聞こえてきた。


 ママはどこ。ママが恋しい。

 わたしはここにいる。ママ、ここよ。

 わたしはここにいる。

 

「綺麗な声だ」


 デニスがうっとりと言った。少女が歌っていた。


「何を言っているんだ? どこの国の言葉だろう」


 マイケルが首を傾げた。ジョーンズも、少女の声に聞き惚れて言った。


「顔だけじゃなく、声も美しいんだな」


 皆には分からないんだ!

 少女がさらに歌い始めた。しかし、先ほどとは違い、しわがれた老婆のような声だった。


 心を奪ったあなた。あなたはいない。

 空っぽの場所を眺めると、涙が出るわ。

 待っている。声が変わろうが、姿が変わろうが、待っているぞ。


 一行は黙り込んだ。


「ジョーンズ? どうしたの?」


 アニスが様子を窺うと、


「黙れ」


 と叱られた。

 しゅんとして、アニスは他の男たちを見た。四人は真顔で何を考えているか分からない。

 少女は歌い終えると、デニスの腕の中でしくしく泣き出した。



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