第74話 じいちゃんからの電話

 ばあちゃん家に着いて2日。

 天気は見事に晴れた。雨が上がった後だからか、蒸し暑い、蒸し暑い。暑すぎて、ばあちゃんから出られないくらいだ。

 その間に何をしていたかといえば、ばあちゃんも誘って、お母さんと一緒にヨガ三昧だ。


「ばあちゃん、意外に身体柔らかいんだね」


 お昼ご飯を食べた後、少し休んでから一番広い和室でヨガマットを三人分敷いた。

 今、私たちがやっているのは座位のポーズの中でも、半分の魚の王のポーズ。

 身体が固いお母さんは両膝を曲げられないので、片方だけ伸ばしたままなのに、ばあちゃんはちゃんと曲げられている。


「鍛え方が違うからね」


 フフンと鼻で笑われたお母さんが悔しそう。

 そんな私たちとは別に、お父さんと翔ちゃんは将棋三昧だ。正確には、翔ちゃんがお父さんに付き合わされている。

 しかし、タダではない。


「イェーイ、勝った! はい、3連勝したんだから、新しいゲーム買ってよね!」

「くーっ! 家では負けなしだったのに!」


 お父さんが、悔しそうに畳を叩いている。

 それは、今までは翔ちゃんが手加減してたのでは、とちょっと思ってしまった。言わないけど。

 翔ちゃんが嬉しそうに、ニシシと笑っているところに、電話がかかってきた。


「はいはい」


 ばあちゃんが自分のスマホを取りに、ヨガマットから立ち上がる。


「はい……あ、アラン!」


 ぱぁっと、ばあちゃんが笑顔になる。本当に嬉しそうだ。


「ええ、ええ……大丈夫なの?」


 それなのに、話しているうちに心配そうな顔になって、チラチラと私たちのほうへと目を向ける。

 じいちゃんに何かあったのか。それともあちら異世界で何かあったのだろうか。


「わかったわ。色々買い出しに行ってくるわ。アランは、少し休んで。うん、うん。明日には皆で向かうことにするから」


 ばあちゃんはスマホの通話を切ると、少しだけ考えこんだけれど、すぐに顔をあげて私たちへと目を向けた。


「あのね、じいちゃん戻っては来たんだけど、すぐにあちら異世界に戻らなきゃいけないんですって」

「じいちゃん、何かあったの?」

「魔物が溢れたって言ってたわ」

「魔物……スタンピードだ!」

「すたんぴーど?」


 私にはラノべの知識があるから、すぐに思いついた。

 どこでスタンピードが起こったのだろう。じいちゃんがあちら異世界に行きっぱなしだったのは、このためだったのだろうか。

 私は凄く不安になる。


「それって、ヤバいの?」


 翔ちゃんはわからないなりに、心配そうな顔だ。


「アランの口ぶりでは、そこまで切迫した感じはしなかったけど、絵麻たちは危ないから来ない方がいいって言ってたわ」

「えぇぇぇ……せっかく、じいちゃんに僕の剣道、見てもらおうと思ったのに!」

「私も……魔法の練習したかったんだけど」


 正直いえば、スタンピードの規模とか場所とか、凄く気になる。

 あちら異世界のじいちゃんや、オーキ村の皆は無事だろうか。


「とりあえず、明日、山の家に行くから、色々荷物を用意しないと。一応、アランから頼まれたものもあるから、麻理亜、夕飯の準備頼めるかね。絵麻、あんたは買い物に付き合ってちょうだい」

「わかったわ」

「はーい」

「えーと、私は」

「お父さんは、私の手伝い。翔ちゃんもね」

「えー」

「えー、じゃない。はい、でしょ」

「はーい」


 そうとなったら、行動は早い。

 私はばあちゃんの軽自動車の助手席に乗りこんだ。


「どこまで行くの?」

「そうねぇ。ちょっと時間がかかるけど、隣町のスーパーまで行かないとね」

「何買うの?」

「うーん、アランの話を聞いた感じでは、食料品や水が必要なのかな、と思ったの」


 確かに、討伐に行った時に簡単に食事が出来る物があったらいいな、とは思った。

 移動中に片手で食べられるような、ブロックタイプのバランス栄養食みたいなのとかも、便利だと思う。

 去年出会った冒険者の人たちは、マジックバッグを持っている人はいるにはいたけど、時間が止まるタイプを持ってた人は多くなかったように思う。

 40分以上かけて到着したのは、ローカルスーパー。

 あまり大きなスーパーではないものの、ばあちゃんが買おうと思っていた物は見つけられた。

 結局、カレーとシチューのレトルト、それぞれ30食分の入った段ボールを3つずつ。それにバランス栄養食100箱入っている段ボールも3つ買った。

 他にもタオルや包帯、傷薬、軍手など、思いつく物を買い込んで、私たちは家に戻った。




 翌朝、霧が出ていたけれど、私たちは急いで山の家へ向かった。

 よかったのは、今回の雨では道が無事だったこと。これで通れなくなっていたら、話にならない。

 ただ、霧のせいで、ばあちゃんもいつも以上に緊張感高めで運転をしていたので、私たちは皆終始無言。


「着いたわ」


 ずっと窓から外を見ていた私だったけれど、お母さんの言葉で正面へと目を向ける。

 なんとか霧も晴れて、目の前にばあちゃんの実家が見えてきた。

 車の音が聞こえたのか、実家の玄関が開いてじいちゃんが出てきた。


「まぁ……アラン」


 ばあちゃんが心配そうな声をあげた。

 それもそのはず。出迎えてくれたじいちゃんの腕には包帯が巻かれ、顔色もあまりよくない。


 ――そんなに大変なことになってるの?


 私たちは慌てて車から降りて、じいちゃんの元へと駆け寄った。

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