デートと再会と
「うふふっ♪」
「……………」
リリスとのデートは……いや、果たしてこれはデートなのか?
彼女と手を繋ぎながら始まった彼女とのデートは、少しして足を止める結果となった。
というのも少し歩いて有名なスイーツのお店が近付いたところで、ご馳走したいからとリリスが俺を連れて店に入った。
「どうですか? 美味しいですか?」
「……美味しいです」
「良かったです♪」
リリスが連れてきてくれた店は、珍しいアンティークなんかも置かれていて凄く雰囲気が良い。
少なくとも俺が生きていた頃にはなかったと思うので、この数年の間に開店したんだろう。
「あむ……あむ……」
「うふふ~♪」
雰囲気の良い店と、出された美味しいスイーツ。
ご馳走してもらっている以上は、しっかりと心に刻み付けるように味わっているが、ある意味で無心の境地とも言える。
何故なら、俺はずっとリリスの膝の上に座っているからだ。
(背中から首にかけて当たっている胸の感触が……くぅ!!)
リリスの膝の上に乗っているということは、母さんに勝るとも劣らない大きな胸が当たり続けているということだ。しかもリリスは楽しそうに時折体を揺らすせいで、ムニムニと背中で形を変え続けている。
「……あの~、リリス様?」
「はい、何でしょうか」
近付いてきたのは店長さんだ。
スイーツショップを経営しているにしては厳つい顔付きの店長は、どこか気になった様子でリリスから俺へと視線を向けた。
「その子は一体……」
「新しく友人になった方のお子さんですよ」
リリスの返事に、俺はドキドキする心情とは裏腹に安心もしていた。
出掛けた当初はまだママになることを諦めてはいないと言ったり、そもそも再開した時のやり取りが強く印象に残っていた。
それもあって、こうして普通に返事をしたことが俺は安心したのだ。
「そうだったんですね……あぁいや、申し訳ありません。リリス様が小さなお子さんを連れていたのは初めて見たものでして」
「今日はデートなんですよ。この子が、わざわざ学院まで来てくれて私をデートに誘ってくれたんです」
「ほうほうそれは……中々見所がある子ですなぁ!」
店長は、手を伸ばしてガシガシと頭を撫でてきた。
リリスほどの有名人であれば、いくら年端も行かない俺のようなガキだとしても学院での反応が普通のはずなのに、こうして微笑ましそうにしてくれるのは店長の人の良さだろう。
「なあ坊主、お前さんはこの方がどんな方か分かってるのか?」
「それはもちろんです。この方は――」
「なら良いんだ。ま、別に何か酷いことを言うつもりもなかったがな」
「……最後まで言ってないんですけど」
「坊主の目を見れば分かる。リリス様のことを理解しているのはもちろんだろうが、それ以上に信頼出来る奴の目をしている。まるで大人と変わらない意思の強さが見えたぞ」
そうしてまた、グリグリと頭を撫でてから店長は歩いて行った。
「ふふっ、彼……グリントさんは面倒見の良い方なんです。近所の子供たちはもちろん、親に捨てられて身寄りのない子を引き取ったりもしているんですよ」
「へぇ……」
本当に、出来た人のようだグリントさんという人は。
「それにしても……グリントさんもそう思うんですね」
「何がですか?」
「トワ君がどこか大人びたように見えるということです」
「……………」
「フィアさんも言っていましたが、見た目はともかくトワ君とやり取りをしているととても七歳とは思えません。あまりにも落ち着いていますし」
いや、全然落ち着いてないと思う。
二度の転生を経験しても、こうやってリリスに引っ付かれているだけでドキドキしているんだから。
「でも七歳なんですよねぇ……この可愛さは子供のそれですし、あぁ早くあなたのママになりたいです♪」
「っ!?」
ニコッと、微笑んだその言い方はあまりにも魅力的だった。
別に言われたことはないけれど、恋人になりたいって言われるのと同じような響きなんだろうなぁ……言われたことないけど。
「なんて……トワ君を困らせるようなことを言うのは止めましょう。ごめんなさいトワ君、今は大丈夫ですから」
「あ、はい……」
やはり、俺が傍に居ればリリスは落ち着くらしい。
とはいえ今の彼女がどんな風に落ち着いているのか、その具合まではよく分かっていない。
だがリリスが落ち着いていることもあって不安な様子は見られないことから、安心はしても良いだろう。
「その……凄く今更ではあるのですが」
「なんですか?」
「どうしてトワ君は、そうまでして私を気に掛けてくれるんですか?」
「……………」
「デートに誘ってはくれましたけれど、ここまでのトワ君を観察していた私の感覚ですが、トワ君の瞳には私に対する心配の気持ちが色濃く見えていたんです」
「それは……」
これは明らかに七歳のガキとの会話じゃないだろうと苦笑しつつも、ここは正直な気持ちを伝えることにした。
「既に答えは言われちゃったんですけど、心配していたからです」
「……………」
「俺に何が出来るのかってのはありますけど、母さんがアドバイスをくれたのもありますね」
「フィアさんが?」
「リリスさんも学院からここに向かう途中に言っていましたが、俺が居ると落ち着くと聞いて……だったら少しでも力になりたいと思いました。あんな出会いでしたけど、ある意味であれって運命的な出会いじゃないですか?」
「あれは私が……いえ、確かにある意味運命的かもしれませんね」
今の今まで、俺はずっとリリスに背を預ける形だった。
だがそこでリリスは俺の体を持ち上げ、向かい合うように……見つめ合うような姿勢になるようにした。
「昔を……思い出しました。大切な人と出会って旅をして、綺麗な星空の下でその人も言ったんです。私との出会いは、ある意味で運命的な出会いだったなと」
「っ!!」
そう言われ、俺は思い出した。
それはいつの夜だったか……傍にセレンも居て、綺麗な星空を三人で見上げていた時にリリスに俺が言った言葉。
ケルベロスに追いかけられて出会うというある意味運命的な出会い……決して忘れられない衝撃的な出会いだったから。
「少しだけ……抱きしめさせてください」
そこからしばらく、俺はリリスに抱きしめられ続けた。
途中で何度か肌がひりつく嫉妬の視線のようなものを感じていたが、この時だけは優しいモノに変わったようにも見え、果たしてどこかで見ている母さんはどんなことを考えているんだろうと……そんなことも俺は考えるのだった。
そして、ふとこんなことを思った。
(奇跡ってどこまでも絶対なんだろうか……奇跡という現象を越えることは無理なんだろうか)
比較的落ち着いているリリス……それこそかつて共に居た彼女と何も変わらない今の彼女を見て、そう思わずには居られなかったんだ。
▼▽
「ただ歩いているだけなのに、とても気分が高揚しますね」
「なら良かったです!」
スイーツ店を出た後、上質な建物が並ぶ貴族街を歩いていた。
ここは決して庶民が立ち入ることの出来ない空間で、今の俺はこの国の貴族ではないので当然入ることは出来ない。
だがかつての家がどのような形になっているか気になってしまい、それでこの方角をジッと見ていたらリリスが見学しますかと言って連れてきてくれた。
「貴族ではない方はここを歩くことは出来ませんが、私が傍に居るので大丈夫です」
「分かりました」
このデートは、まだまだ続く。
手の平に伝わる温もりをもう少しだけ感じることが出来ると、そんな風に俺自身もどこか安らかな気持ちだったその時だ。
「おや、これはリリス様ではないですかぁ!」
「っ!?」
その声は、俺の肩を揺らすには十分すぎた。
「まさかこのような場所であなた様を見るとは珍しい……くくっ、これもまた運命なのでしょうか?」
「……ナニモさん」
振り向いた先に居たのは一人の男だった。
「……………」
俺はその男を知っていた。
男の名はナニモ・ヘイボン――前の俺の兄に当たる男で、たとえ歳を取った顔でもすぐに分かった。
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