01-15話 衛兵、脂汗を流す
■悪徳衛兵視点
その子供は男爵家の長男らしいが、六歳児なのに誘拐しようとしたヤクザを返り討ちにしたらしい。
子供のやる事とは思えないので詰所に連れてこられたが、その時に子供とその母親を見たが子供が三人もいるとも思えない美しい女だ。
こんな女を自分の意のままにしたいと思うと体が震えた。そして街中で白い犬を連れて歩く姿をみかけると、その思いが強くなっていく。
衛兵の肩書があるので難癖をつけ、金を搾り取り女も自分の物にしたいが相手は貴族家だ。
調べてみると法衣男爵家なのに、先代と当代の当主が現役の騎士団員で、母親も色々と稼いでいるようで、金はあるようだ。
どうやって型に
俺はこの長男に狙いをつけ機会をうかがっていると、迷子になった子供を長男と子分のガキが見つけてきた。
俺はほくそ笑むと、長男とガキを捕らえ留置所に放り込む。
そして使いを出したので母親がやってきたが、近くで見ると惚れ惚れするような良い女だ。
俺は、いつものように脅しながら慈善団体に金を入金しろというと、母親の顔がゆがむ。美人はどんな顔をしてもキレイだと感心するが、俺は隊長に呼び出される。
「お前、貴族の子供を逮捕して監獄に放り込んだらしいな。あの少年はこの間、ヤクザを捕らえて人気のある少年だし、父親は近衛騎士団の隊長で、祖父は王都騎士団の団長だぞ。
騎士団や近衛騎士団とは協力することも多いのだ。変な事をすると問題になるぞ。
それに、なにをやったから知らんが子供のやった事だろう、取り調べだけでよかろう、すぐに釈放させろ」
この隊長はピントのずれた事をいっている。すでに金の話までしているので、釈放するとよからぬことをするかもしれない。
「いや、あのガキは子供を連れまわして放置した後、俺達が出張ると黙っていろと子供を脅迫したガキです。悪質すぎて釈放などはできません」
「しかし平民の子供はまだ五歳だぞ、留置所にいれることが出来るのは六歳からだ。すぐに釈放させろ」
俺は、渋々平民のガキだけは釈放させる。
そして、貴族のガキと母親を面会させることにする。仏心ではない、このあと母親と話があるからだ。
母親は、小部屋で息子と話している。
俺は外から二人の会話を聞いているが、俺や衛兵に不利な事を話しているようではない。しかし、この息子の話し方は六歳児ではなく大人のようだ。
やがて母親が部屋からでてくるが、俺を見て驚いている。
「奥さん、大人しくしていないとお子さんの身に何か起きるかも知れませんぜ。可愛い娘さんもいるんでしょ。でも奥さんが俺の相手をしてくれるのなら、特別に手加減してやってもかまいませんぜ」
母親の顔が怒りで赤くなる。キレイで可愛い女だと思っていたが、キリッとした顔もいいなと感心していると、母親についてきた女が「千代様にこれ以上の無礼を働くと手打ちにする」と刀に手をかけてきた。
ここで騒ぎを起こし、また隊長がでてくると面倒だ。俺は舌打ちしながら一度立ち去る事にする。
母親はその後、隊長に掛け合って犬を取り戻したようだ。犬を処分すれば子供を探せたという証拠も無くなるのに、余計な事をする隊長だ。次は隊長も形に嵌めていう事をきかせないといけない。
むしゃくしゃした俺は、ガキでうっぷんを晴らすことにする。
ガキと母親が話していた部屋に入ると、俺を反抗的な目で見るので、顔を殴るが避けられてしまう。
俺の会話を聞いていたようで「母上が目当てでこんな事をしているか」と大人のような事をいってきた。
俺は、部下を呼びガキの体を押さえさせると、ガキを殴る。子供など数回殴れば俺のいう事を聞くようになるはずだが、このガキは何度殴っても音をあげない。
「泣いたら許してやるぞ」といっても泣かないので、蹴りまで入れ「お前が泣かないなら母親をベッドの上で泣かせてやる」と殴ったが、部下が「このままでは死んでしまいます」というのでやめると、ガキは気絶していた。
こんなしぶといガキは初めてだ、俺はガキを殴りすぎて手を痛めたし、血も浴びたので今日は帰る事にする。
翌朝、愛人宅をでると何やら視線を感じる。俺を監視しているようだ。一体誰がと思うが支所に向かい新聞を読んで驚く。
迷子を発見した少年を脅迫容疑で逮捕。逮捕したのは某衛兵。強引な捜査で黒い噂が絶えない人物。
逮捕されたのは某男爵家の長男で六歳児の少年と五歳の少年。六歳児の少年は幼少より聡明で神童として有名で、少年の両親も王家の信頼が篤いといわれてる。
この少年は飼い犬の嗅覚を使って迷子を捜しだしたが、某衛兵に与太話だと一蹴され、逆に少年を連れまわして隣町に放置し、それを露見するのを恐れて少年を脅迫した疑いで逮捕された。
取材すると、この少年の飼い犬は以前にも嗅覚を使い、子どもを探し出した事が複数の証言で明らかになった。
そして、逮捕された当日も犬を連れ迷子を捜しているのを多くの人に目撃されている。
また、迷子の少年を連れまわしていたという時間も、屋敷で剣術の稽古をしているのを使用人や近所の住人、それに通行人に目撃されているし、五歳の少年も別の場所にいたのが確認されている。
どう考えても迷子の少年を連れまわしたり、脅迫できるとは思えないが、この少年を逮捕した某衛兵は衛兵の給与ではありえなほど贅沢な生活をしている。過去にも強引に逮捕したかと思えば、突然釈放したりを繰り返し、そのたびに贅沢になっていくという噂のある人物で、真相の究明が待たれる。
俺は驚くと同時に怒りを覚える。これでは俺が恐喝犯だといっているのと同じだ。
こんな事を書いた新聞社に痛い目にあわせる方法を考えていると、母親を見張っていた部下が報告に来た。
昨日ここを出た母親は、一度屋敷に帰ると娘と一緒に王宮に出かけ、その後は屋敷に帰っていないようだ。
王宮に出かけたのは、夫に相談に行ったのだろうが、戻ってこない理由がわからない。それに王宮に泊まるといってもどこに泊まるのだ。近衛騎士団にでも泊ったのか、色々考えているとガキ大将の家を監視していた部下からも報告があがる。
こちらは、王家の紋章が付いた馬車が来て、家族全員が乗り込み王宮に向かい、それから自宅にもどっていないとの事だ。
どういう事だ。まさか王家が保護しているのか!
さらに、昨日から俺の事を聞きまわっている連中がいるようだ。あの母親の指金かもしれない。
俺の怖さをよくわかっていないようだから、今日中にあのガキの自白調書を作ることにする。
本人が自白していなくても、衛兵が作った正式な書類があれば裁判でもこちらの勝ちだ。
そこに、少年に面会希望者がいるとの知らせがあるが、あのガキに焼きを入れたので会わせるのはまずい。断れというと、今度は隊長に呼ばれた。
あの、役立たずが呼ぶという事は今朝の新聞の件か、どう答えようかと思いながら隊長室に行くと、見慣れない人がいる。しかし、よく見ると王太子殿下と内務大臣だ。なぜ、こんなお偉方がいるのかと驚いていると、俺に質問を始める。
「その方が嶋左近の担当で間違いないな」
「はっ」
「まず聞くが、新聞に載っている事をどう思う」
新聞に載った事を重要視したため二人で来たのか、しかしガキ一人に王太子殿下と大臣がくるとは思えない。俺はとりあえずいい抜ける事にする。
「とんでもない中傷です。私は断固として抗議したいと思っています」
「ならば、聞くが此度の少年二人の逮捕だが、どのような根拠があって逮捕したのだ」
「それは、迷子になった子供の証言と、犬が匂いで探せるとなどという虚偽の報告で極めて悪質だと判断したからです」
「その犬だが、王宮で本当に嗅覚で子供を探せるのを確認したが、私の娘を探し出したぞ。その方いかなる根拠があって虚偽だと断定したのだ」
やはりガキの家族は王宮で保護されている。思った以上に王家と関わりが深い。ヘタをうったと後悔する。
「そっそれは、そのような事を聞いた事がないからです」
「つまり聞いた事がなので虚偽だというわけだな。それでは世の中はほとんど虚偽になるではないか」
俺はなんとか言い抜けようと思うがいい考えが浮かばない。
「それに、子供を連れまわしていたという時間に、他の事をしていたという複数の人の証言に関してはどう思う」
「それは、まだ確認していないのでなんとも言えません」
「つまり、その方は不在証明を確認することなく逮捕したのだな。随分と杜撰な捜査だな」
「それは迷子になった子供の証言があったからです」
「今朝ほど、監察室がその子供と親に確認したぞ。監察室は悪徳役人を取り締まる組織だから真相を話して欲しいというと、衛兵に嘘の証言を強要され、従わないと商売ができないよう脅されたと証言したぞ」
あの大工め、この場を切り抜けたらただじゃ置かないと思いながら「そのような事はありません」と
「さらに、その方は金遣いが荒いと新聞にも書かれていたが、昨日も慈善団体への寄付という名目で金を搾り取ろうとしたらしいな」
やはり俺がいった事が王家にバレている。嶋家は一番下っ端の法衣男爵家ではないのか。
「それは、家族が身内をかばい、私を悪人にしたてるために証言しているだけです」
「黙れ!お前が寄付金を強要した事を三人とも証言しているぞ。別々な場所で証人を立ち会わせてお前のいった事を証言してもらったが、三人ともすべて一致したぞ、嘘だとしたら三人とも証言が一致する事はないはずだ」
俺はそれを聞いて青くなるが、王太子はさらに言葉を続ける。
「その方のいい分は監察室でじっくり調べる事にするが、さきほど左近に面会しようとしたが断られた。一体いかなる理由か」
ただでさえいい逃れできないのに、焼きをいれたガキを会わせるわけにはいかない。なんとか口実を考える。
「捜査に影響があると思われる場合は、担当者の権限で面会を制限できます」
「王太子と内務大臣が面会を要求しているのだぞ、左近に合わせたくない訳があるのか」
「いっいえ、決してそのような事は…」
「ならば問題あるまい、ここに左近を連れてこい」
そしてガキが連れてこられたが、顔は膨れ上がり、前も良く見えないようだし、骨にもヒビがはいったので歩くこともできないし、服も血だらけでボロボロだし、立つこともできず床に崩れ落ちる。
ガキを見た王太子殿下は驚いて呼び掛ける。
「左近、左近なのか。その姿は一体どうしたのだ」
「前がよく見えないのですが、王太子殿下ですか、このような姿で恐れ入ります」
「それはよいが、なにが起こったのかを話して欲しい」
「私をありもしない罪で捕まえた衛兵が、母上にいい寄ったところを眞莉に邪魔されたので、うっぷんを晴らすため私に暴行を加えたのです。
泣いたら許してやるといっていたのですが、私が泣かないものですから。お前の母親をベッドの上で泣かせてやるなどといい出し。私が気絶するまで殴る蹴るを繰り返したのです」
「左近がいう衛兵とは、そこにいる男か」
「そのとおりです」
「そこの衛兵。左近のいう通りなのか」
「いっいえ、そのような事はありません」
「その方は拳を怪我をしているが左近を殴ったからであろう。なにもしていないなら、なぜ左近がこのような有様になっているのだ」
「それは階段から落ちたせいです」
「左近このようにいっているが」
「嘘です。しかし、この男はしぶといので口を割らないと思います。
暴行させるため私を押さえていた衛兵が二人います。その者を呼び、殿下直々に尋問すれば正直に答えると思います」
蒼白になっている隊長が衛兵が呼び、王太子殿下が「嘘をいうと王家に対する反逆とみなす」というと、震えあがり直ぐに口を割った。
王太子殿下は内務大臣と相談していたが、迷子の家族を脅迫し偽証させたうえで少年たちを不当逮捕し、その後金品や性的関係を強要した事と、収監中の少年に暴行を働き、王家に虚偽の報告をした罪で、その場で監察室の役人に逮捕された。
馬車に連れ込まれて、監察室に移動すると取り調べ室に連行され担当官が出てくる。
「お前も馬鹿な相手に手をだしたな。嶋家は男爵家だが王家と親しいし、子供も陛下や王太子殿下が可愛がっているのだ。
そんな相手に濡れ衣を着せたうえ、金と母親の体を要求したあげく、気絶するまで子供を暴行したんだってな。
お前の悪事を調べると、街の連中はお前の事を色々と話してくれたし、逮捕されたと聞いたら、今までの被害者も黙ってはいないぞ」
そして、正直にいわないと、死んだ方がましだというくらいの目にあうといわれたが、実際には想像以上に厳しい取り調べを受けることになった。
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