第42話 終章 加護の秘密

「よう、帰って来たな。やり手の銅級冒険者」

 組合長の部屋に行くと、レイモンドはそう言って出迎えてくれた。

「やりてって、どういうことですか」

 これだ、と報酬の入った袋をドンとテーブルに置いた。

「報酬が倍額になっている」

「俺は何も言ってませんよ」

「当り前だ。お前が報酬を増やせなどと侯爵に言っていたらここからたたき出したところだ。たぶん、これは別件に対する割増金だろう、いや口止め料か」

 俺はホッとしたような表情を浮かべて見せた。

「掌で転がされただけですよ、軍務卿閣下に」

「どうせ、お前のことだ。ただ転がされたわけでもあるまい」

 レイモンドはそう言って悪党面でニヤリと笑った。


 十五才の神授の儀式の時に、親父は俺の加護の内容を神官から聞いた。

 本来は本人にしか伝えられない加護を神官が親父に教えたのは、もしも俺が道を踏み外せば、世界は悲惨なことになるからだ。

 俺に授けられた加護は「魔力支配」というものだった。

 魔力支配は、この世界に存在する魔力を自由に扱えるというバカげたものだった。

 親父は近衛騎士で、魔術には疎かったがそれでも俺の加護がまともなものではないことくらいはすぐにわかった。

 そのために俺がいい気にならないように、多忙な自分に代わって当時の部下だったレイモンドに預けたのである。

 おかげで俺は何とか道を誤らずに生きて来れたが、そのせいでレイモンドには未だに頭が上がらない。

 だからリリアの話すことを聞いた時、俺にとってそれは他人事ではなかったのだ。


 レイモンドが怪我で騎士団を辞めた時に、俺も辞めて故郷に帰ったのも、この加護が国の偉い連中にバレることを危惧したからだった。

 その後、冒険者の組合長に収まったレイモンドは、故郷で鋤鍬を握っていた俺を帝都に呼び返して冒険者にした。

 俺があまり依頼を受けなくとも何も言わないのは、例の加護を隠すためだ。

 その代わり今回のような依頼が来た時には、有無を言わさず引き受けさせる。

 報酬が破格だからだ。


 俺は適当に世間話をした後で、組合長の部屋を出て階下の受付に行った。

「依頼達成おめでとうございます」

 マリアは無邪気に手を叩いて喜んでくれた。

 ありがとうと言って、俺はそうだ、と思い出した。

「これいるかい。お土産だ」

 俺はマヨラムで買ったスカーフ留めを、上着のポケットから取り出してマリアの掌に置いた。帝国に入る前に魔力の吸収は済ましてある。


「王国では紳士用のスカーフを使うんで買ったのだが、こっちじゃ俺はタイすらしない。土産と言ってもお下がりなんで申し訳ないが」

 スカーフ留めの宝石を窓から入る日に翳して、マリアは嬉しそうに俺に言った。

「こんな高そうなもの、もらっちゃっていいんですか。私、私服ではスカーフするんで、お休みの日のお出かけにきっと活躍します。ありがとうございます」

「それなら良かった。その代わり、また割のいい依頼をたのむよ」

 わかりましたぁ、というマリアの明るい声に送られて、俺は組合を出た。


 侯爵が報酬を弾んでくれたおかげで、しばらくのんびりできるだろう。

 見上げると眩しいほど青い空が広がっている。

 俺は一つ伸びをして、ひと休みしたら放っておいた部屋の掃除でもしようかと歩き始めた。

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