第22話 ガーデン商会

 結界を解いてデレクにクラークの声が聞こえるようにした。

 帰してやれ、というクラークの言葉にデレクは耳を疑うような表情を浮かべたが、苦虫をつぶしたようなクラークの顔を見ると大人しく従った。

 俺は部屋の前にある階段を上がると外に出た。

 すでに日は高かった。


 俺はついでにその足で大使館に向かい、大使に二三日は来られないかもしれないと告げた。いちいち顔を出すのが面倒になっていたのだ。

 侯爵への報告書は渡しにくると言っておいたから、あまり長い間来なかったら何かあったと思うだろう。

 宿に戻り、昨日の経緯をメモに残した。

 報告書を作成するためのものだ。こういうことはマメにしておかないと、後で面倒になる。


 俺は宿を出るとガーデン商会に向かった。

 王都は中央から放射線状に道が走り、それらの道はいくつかの環状道路でつながっている。

 ガーデン商会は、俺が宿を取った繁華街の反対にあり、そこはいわゆる商人街と呼ばれている経済地帯だった。政治的な施設はその隣にある。

 貴族や中堅以上の商人たちはその周辺に住んでおり、中央にある王家の泉を挟んで庶民の住居区域と向かい合わせになっている。

 繁華街はその庶民の区域に広がっており、実質は組織オルガノの縄張りだった。

 俺は商人街の入り口にあるガーデン商会の前に立った。

 警護の傭兵が左右にいるが、こういう時に帝国一等将官の肩書は威力を発揮する。王国では大隊長クラスの将官になるからだ。

 身分証を見せると、すぐに傭兵の一人が扉を開いてくれた。


 正面には受付があり、そこには身目麗しい女性が座っていた。王国の美人はどこかアイリスに似ている女性が多く、怜悧で理知的な感じがする。

「帝国大使付き武官だが、会頭に会いたいのだが、おられるか」

 受付嬢は、柔和な表情を浮かべながら問い返した。

「お約束はされておられるでしょうか」

「いや」

「それでしたら、改めてお約束をされてから来られることをお勧めいたします」

 けんもほろろというのはこういうことだ。さすがに約束もなく大商会の会頭には会わせないということか。

「なるほど、それではこれを会頭に渡してくれないか。できれば中は見ないで渡すことを希望する。会頭もそれを望むと思う」

 俺は上着のポケットから手帳を出し、クラークと書くとそこを破って二つ折りにして渡した。

 受付嬢は俺がポケットに手を入れた時にわずかに動いたが、それを受け取ると、表情も変えず傍らにいた制服の男にそれを渡した。

「しばらく、お待ちください」

 受付嬢は俺の方を向くと、口もとだけで微笑んだ。


 後ろに手を組んで、あたりをぐるりと見回すと、高い天井に四方は堅牢な石壁を綺麗な飾り石で覆っている。

 床も同様だが、かなり大きな飾り石をつないで作ったものだった。

 ひそかに財力を悟らせるというやり方だ。さすが鉱山が豊富な王国の大商会だけある。

 そんなことを考えていると、制服の男が戻って来た。

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