三十話 成長と暗闇君と


 地下都市エッタで、シトラスが自身の魔眼の正体を知ってから一ヶ月。

 

 シトラスの強化魔法生活は、三ヶ月目を迎えていた。

 シトラスたち勇者科の四人の生徒たちにとって、最初の目標である対抗魔戦まで、あと一ヶ月を切っていた。


 頬を撫でる刺すように冷たい風が、校庭に立つシトラスの頬を撫でる。


 午後の授業の後、いつも通り中庭で自主鍛錬に励む勇者科の生徒たち。

 傍らには勇者科の担当教師であるアドニスの姿もある。


 担当教師でありながらも、勇者科の廃止を願う元勇者アドニス。

 根が善人であるので、オーバーワークしがちなシトラスを見かねて、放課後に勇者科の生徒たちの自主鍛錬を見守ることも珍しくなかった。


 日増しに冷たくなる風に反し、シトラスのやる気は対抗魔戦の日が近づくにつれて、いっそう熱くなっていた。


 シトラスは自身の眼が、魔力視の魔眼であることを自覚してから、それまで以上に周囲の魔力が視えられるように感じていた。

 自身の力を正しく知ったことで、自分が見ている世界の理解を深めたことが影響しているのかもしれない。


 組み手相手のメアリーの剣撃。

 体を少しずらしてこれを躱す。


 強化魔法を使っている時、人は体を動かす前に魔力が僅かに先に動く。

 その僅かな差が勝敗を分けることは、戦いにおいて何も珍しいことではない。


 そして、相手の魔力が視えるということは、強化魔法の魔力が薄い、つまり防御力が低い場所が視えるという訳で、

「ここだッ――」


 シトラスはメアリーの左足に魔力が、他の部位ほど行き届いていないのを視えた。

 強化した右足で彼女の左足に向けて、足払いを試みる。


「――残念」

 

 しかし、攻撃が来ることを分かっていたかのように、メアリーは自身の左足を後ろに引く。


「あっ!」

 その攻撃は空振りに終わった。


 体の重心が前に崩れたシトラスを見逃すほどメアリーは弱くない。

 彼女はシトラスの胸元を掴むと、シトラスの重心を利用して抱きしめるように引き寄せる。

 体を寄せた自身の体を起点に、強化した腕と腰の捻りでもって、シトラスの体を宙へと放り投げた。


 宙に投げ出されて、平衡感覚を失うシトラス。


 本来であれば、この技はそのまま地面に叩きつける荒技である。

 しかし、相手がシトラスということもあって、その身体が地面につく寸前にその勢いが緩められ、ぺたんとお尻から地面に座り込む形になった。


 近くで二人の様子を観戦していたミュールから声が飛ぶ。

「それまでだなシト」


 どっと噴き出す汗。


 疲労のあまり後ろに倒れ込んだシトラスの横に、メアリーもちょこんと座り込む。

「シト、今年も私と組む……?」

 メアリーの対抗魔戦の提案に、息を切らしながらただ頷くシトラス。


 メアリーは疲労困憊のシトラスと異なり、息一つ、顔色一つ変わっていなかった。


 体内の熱を逃がすため、シトラスから汗が滝のように滴り落ちているが、

「はぁはぁ……」


 その体は小刻みに震えていた。

 これは魔力切れの典型的な兆候であった。


 体が慣れてきた分だけ強化魔法の持続時間を増やしたため、三ヶ月が経っても魔力切れに伴う嘔吐や気を失うことが無くなることはなかった。

 ただ、間違いなく強化魔法の精度と範囲は上がっていた。


 シトラスはメアリーと、ミュールはブルーと。

 昨年と同じコンビで対抗魔戦に出場することを決めた。



 対抗魔戦の日程まで、指折り数える程に迫ったある日の午前中の授業。

 シトラスは、もう一度模擬戦をしようとアドニスに提案した。


 このシトラスの申し出にアドニスは、条件として模擬戦は翌日の授業後に行うことと、その模擬戦までの魔法の使用を禁止することをシトラスに提示した。


 シトラスがこれに特に否定の言葉を述べることはなかった。

 素直に従い、迎えた翌日の放課後。


 久しぶりに魔力切れを起こさずにシトラスは一日を過ごした。

 一晩とは言え、魔力の回復に専念できたため、幾分かその顔色も良くなっていた。


「はぁ、前回同様に私が『止め』と言うまでにしましょうか。今回もシトラスは私を殺す気で来てもらって大丈夫です」


 はじめ、の合図と共に強化した足で、シトラスはその距離を瞬く間に詰めた。


 電光石火の袈裟切りをアドニスへと見舞う。

「はぁ、いい判断です、ねッ」


 しかし、元勇者を名乗るだけの豪の者。

 一歩も動くことなく、左手一本で持った木剣で、シトラスの袈裟切りを受け取める。そして、片手で弾き返す。


 シトラスは再度、距離を詰めにかかる。


 アドニスは右手で体の前で弧を描くようにして、<火球>の魔法を唱えた。

 ほんのわずかな時差の後で、宙に描いた弧から次々と飛び出す人の頭ほどの火球たち。


 しかし、シトラスは前回の模擬戦とは異なり、連続して飛来する火球を前にしても狼狽えない。

 むしろ、身体強化の魔法を行使したまま、飛来する火球群に突っ込んでいく。


 少し離れたところで模擬戦を見守っていたミュール、ブルーがその光景に息を呑む。


 飛来する火球群の隙間を縫って、アドニスに肉薄するシトラス。

「中距離攻撃がないならッ、中距離を近距離にッ、至近距離に変えてしまえばッ、問題ないッ!!」


 飛び上がり、体重を乗せた渾身の一撃をアドニスにお見舞いするシトラス。


 頭上に振り下ろされたシトラスの剣を、アドニスは初めて両手を使ってこれを防いだ。


 剣先の腹に手を当てて、剣を地面と平行に構えて、その斬撃を受け止める。

「はぁ、なるほど、それも確かに答えですね。――ものすごい脳筋ですが」


 勢いが殺されたシトラスは、その場から大きく後ろに下がった。


 そして、再び距離を詰めるべく一歩踏み出したところで、

「はぁ、やめ、です」

 模擬戦の終了が告げられた。


 アドニスの言葉に息を吐きだすと、シトラスは一礼をする。

「……ありがとうございます」


 シトラスは模擬戦を通して、確かな自身の成長を実感することができた。


 この短期間での急成長に、

「はぁ、必ずとは言えませんがこの調子で励めば、予選突破もそう難しくないでしょう」

 アドニスも満足そうな表情を浮かべている。


「はぁ、正直言って貴方が、三ヶ月でここまで伸びるとは思ってもみませんでした。魔眼の助けもあったかもしれませんが、それはひとえに貴方の努力の賜物でしょう」


 いつの間にか駆け寄ってきた勇者科の面々に囲まれるシトラス。

「やったなシトッ!」


 ミュールとブルーが口々に褒めるのを、胸を張って受け入れるシトラスを微笑ましそうに見るアドニスであったが、その輪にいないメアリーに気づくと、アドニスは自身の隣に視線を送った。


 そこには、次は自分の番! と言わんばかりに、木刀片手に意気揚々と柔軟体操を繰り返しているメアリーの姿。


 アドニスは顔に浮かんだ微笑みを消し去ると、強化魔法を使い、校舎に向かって駆け出した。



 迎えた対抗魔戦当日。

 

 学園の四大行事の一つで、二人一組となって挑む学園行事である。

 シトラスたち勇者科の四人は、シトラスとメアリー、ミュールとブルーの二組に別れて、対抗魔戦に挑む。


 対抗魔戦は予選と本選が一日で行われる。

 シトラスたちは二組とも本選まで勝ち残り、なおかつ初戦を突破しないと、アドニスは四人に勇者科の履修単位を渡さず、勇者科は本年度で閉鎖される予定であった。


 シトラスは自身の夢――勇者になるという夢を叶えるためには、ここで躓くわけにはいかなかった。


 昨年度同様に、学園一の規模を誇る魔法闘技場にはカーヴェア学園中の生徒が集まっていた。

 闘技場では、どこからか軽快な音楽が流れており、ちょっとしたお祭り騒ぎである。


 他の勇者科の三人と一緒に、昨年より少し早い時間に闘技場に訪れたシトラスは、闘技場の入口で整理係の人から大会の参加券を受け取り、闘技場の観客席に出た。

 既に闘技場内は既に興奮と熱気が渦巻いていた。

 四大行事とだけあって、どこもかしこも喧騒に溢れている。


 闘技場の入口で受け取った参加券は、一定の条件を満たすまで、そこに書かれた内容を確認することはできない。


 シトラスは小さな声で自分に言い聞かせるように呟く。

「負けないぞ……」


 昨年より少し早時間に闘技場に到着したこともあって、四人で並んで座ることができる座席を確保することができた。


 姉であり、シトラスの所属する魔法俱楽部イストの事実上の部長であるベルガモットには再三に渡って、イストの確保している特等席での観戦の誘いを受けていた。


 しかし、勇者科にはイストの部員ではないブルーがおり、勇者科四人で一緒にいたい、と言うことでこれを丁重に断っていた。

 この弟の対応に、いつも毅然としているベルガモットが、珍しくしょんぼりする姿を見た者がいるとかいないとか。


 あっという間に、闘技場は生徒で溢れかえり、空いている席を探すのが難しくなる。


 しばらくすると、闘技場の中心部に進み出た白髪白眼の童と見紛うような姿――学園長のネクタルである。

 彼の地面に届こうかという彼の白髪が風に揺れている。


 さざなみのように静けさが、観客席の前から後ろに伝播する。


 ネクタルは、闘技場が静まり返ったのを確認すると、喉に手を当てて喋り始める。

 闘技場に彼の見た目通りの幼い声が立体的に響き渡った。


『あー、てすてす。あー、てすてす。……学園長のネクタルだよ。今日は競技を行うのには最適な晴模様。ベルガモット嬢、ヴェレイラ嬢が学園に新たな歴史を刻むのか、はたまたこの三年連続で優勝中のこのコンビを打ち破る者が出てくるのか。皆の健闘を祈っているよ。じゃあ……こほん、これより対抗魔戦の開催をここに宣言するッ!!』


 ネクタルの大音声に合わせて、闘技場が震えるほどの歓声が爆発する。


 シトラスも叫びこそしなかったが、その拳を強く握りしめる。

 左右に座るメアリーとブルーが、図らずともそっと同時に彼のそれぞれの拳を握りしめた。


 ミュールはブルーの隣で、ネクタルの開催宣言に、他の生徒と同様に腹の奥から快哉を上げていた。


 開催宣言をするとネクタルは壇上から下がり、昨年同様に剣術教師のアペルが予選の説明のために壇上に立つ。


 内容は昨年と変わらず、予選は五組。

 ステージ上に前衛、ステージから五メートル離れた位置に後衛で、予選中に前後の交代は認められない。というものであった。


 ミュールが唇を湿らせて尋ねる。

「シト、お前何番だ?」

 ミュールの言葉にシトラスは手にした参加券を見ると、ちょうど参加券に数字が浮かび上がってくるところであった。


「今年は五番だね。ミュールは?」

 シトラスの答えに、

「おっ、去年とは真逆だな。俺らは今年は四番だ。一緒に本選に行くぞ」


 昨年はシトラスたちの予選の組分けが四番で本選には行けず、ミュールたちが五番で本選に駒を進めることができた。


 より厳密に言うと、シトラスたちも予選突破はできていた。

 ただ予選四組目の決着後、メアリーが審判の静止を振り切って暴走。

 それに対する教師自身からの制裁攻撃を受けたメアリーが、午後からの本選に回復が間に合わなかったことから、昨年度はシトラスたちは本選へと駒を進めることができなかった。


「ミュールこそ。結果が去年と真逆なんてやめてよね」

「馬鹿いえ」


 気の置けない仲、軽口で笑い合う二人。

 だが、その眼の闘志は共に燃え上がっていた。


 アペルが観客席とステージを繋ぐ階段をいくつもかけると、上級生たちから、我先にとアペルが作った階段を使ってステージに降り立つ。

 そして、今年の新入生がそれに恐る恐る続く。


 橋の上を歩く人影は見えなくなると、

『――これ以上、予選一組目の方はいらっしゃいませんか?』

 やや待って、観客席から反応がないことを確認すると、一瞬で作り上げた土の橋を、また一瞬で元の存在に戻した。


 アペルが具体的な予選の内容を説明する。

 今年は去年の対抗魔戦の予選とは一味違っていた。


『――各組で最大で二組を選抜します。そしてその二組の決め方ですが、今年の予選は生存遊戯です』


 闘技場の観客席のほとんどが首を傾げ、静かなざわめきが生まれる。

 そうは言っても、対抗魔戦に関しては、不定期的に予選の内容が変わることは比較的有名である。


 ざわめきもすぐに収まり、アペルの先の言葉に注目する。


『開始の合図と共に、人造精霊体<暗闇君あんどうくん>を試験会場内に開放します。彼らは闘技場ステージ上の皆さんのブローチに反応して、それを捕まえに行くように生み出された人造精霊魔法です。皆さんは彼らから前衛の胸のブローチ、自分たちの輝石を守ってください。彼らが前衛の方のブローチに触れた瞬間、その生徒は失格、自動的に退場となります。もちろんですが、パートナーのいなくなった生徒もその時点失格となります』


 予選は生徒同士の対抗戦と言うより、教師陣の作った魔法と参加者の対抗戦の模様である。


 ついで告げられた内容に、上級生を中心に小さなざわめきが生まれる。

『なお今年度は前後衛共に攻撃に対する制限はありません。ただし、五メートルラインは守ってくださいね』


 昨年は前衛から後衛への攻撃魔法の使用、ならびに後衛同士の戦闘も禁止であった。

 それが今年は解禁されるという案内に、ステージ外にいる後衛の参加者が、周囲の参加者と距離を取り始める。


 最後の案内は去年と同じで、

『なお、ブローチは絶対に外さないで下さい。ブローチが外れた生徒も失格、予選敗退とさせて頂きます』


 観客席は<暗闇君あんどうくん>なる魔法がいったい如何なるものか興味津々である。

 一組目の参加者は自分たちが試金石となる故、上級生でさえ、その多くが緊張した面持ちを隠せないでいた。


 アペルの始まりを告げる言葉が場内に響き渡る。

『それでは対抗魔戦、予選一回戦、はじめッ!!』


 緊張する一組目の予選参加者は注意深く周囲を窺っている。

 なにせ<暗闇君>の姿かたちがわからない。闇魔法と言うのだから既に潜んでいる可能性もある。


 そして、そいつ・・・は現れた。


 前衛と後衛の間、前衛の生徒の立つステージと後衛の五メートルの間。

 そこに一体の影が浮かび上がった。


 向こう側が透けて見える薄紫色の体、熟れた果実のような真っ赤な目と口。

 さながら大きな布地を頭から被った未就学児童といった容貌シルエット

 ただし、地面から生え切ったそれに足はなく、その体は所在なさげに宙に浮いている。


 予選一組目の参加者の誰かが叫ぶ。

「こっちにもでたッ!」


 張り上げられた声の方角を見ると、確かにそちらでも一体の<暗闇君>が地面から生えてくるところであった。


 一人の後衛の生徒が火球で、先に浮かび上がったばかりの<暗闇君>を打ち抜くと、<暗闇君>は力なく地面に倒れ、溶けるようにその姿を消した。


 それを見ていた周囲の生徒も、次々と地面から生え出てくる<暗闇君>が、その姿を地上に表しきる前に攻撃を加える。


 魔法が通じることと、その耐久性がほぼ皆無なことに、ステージ内外で安堵する声が漏れる。

 それは観客席も同様で、人造精霊の惰弱性に場内の緊張していた空気が緩む。


 しかし、ポトム王国の誇る魔法学園、そこに努める大陸でも有数の教師陣がぬるい課題を用意するであろうか。


 答えは否である。


 早くも楽勝ムードが流れ始めたとき、やはりと言うか最初に<暗闇君>の顕在化を許したのは、一年生の割合が多く占める一角であった。


 数体の<暗闇君>の顕在化を許すと、その後を追うようにポコポコ、ポコポコと<暗闇君>が続いた。


 顕在化した<暗闇君>は浮かび上がると、闘技場の上空を周回し始める。


 闘技エリアと観客席の間には不可視の魔法陣が張られているため、闘技エリアの<暗闇君>が観客席まで来ることはない。

 しかし、一部の<暗闇君>が境界線ギリギリを周回することは、最前列に座る生徒たちを驚かすには十分であった。


「うわぁぁぁ!!」


 中でも暗闇君が驚かしたのが座席に座らず、転落防止柵から身を乗り出すように応援する生徒たちである。

 境界線ギリギリの彼らの輝石に反応したのか、宙で立ち止まって観客席にその幽体を向けた<暗闇君>にはその生徒たちは腰を抜かして驚くことになった。


 宙を彷徨い始めた<暗闇君>に気を取られ始めると、それはさらに<暗闇君>の顕在化を許すことになった。


 時折、前衛や後衛に突っ込む<暗闇君>だが、その動作は単調で彼ら事態に攻撃能力はなく、ブローチに触れられずに撃退する、という行為はさほど難しいことではなかった。


 しかし、<暗闇君>には純粋な物理攻撃は通じず、一人また一人と今年の新入生が脱落していく。

 中には新入生の巻き添えで、脱落する上級生も現れ始めた。


 彼らは実態を持たないため、脱落させた生徒が強制退場する前、その体をすり抜けてその後ろにいる生徒たちに牙をむいたのだ。


 集団ゆえの盲点である。


 それは前後衛共に起き、次第に周囲の生徒に攻撃を仕掛ける生徒も現れ始める。


 一度こうなってしまえば、<暗闇君>の顕在化に歯止めが掛からなくなる。

 そこから、闘技場に広がったのは混沌カオスである。


 脱落していく参加者を尻目に、無限に地面から生え続ける<暗闇君>。


 次第に魔力の少ない生徒から魔力切れを起こしてく。

 そして、物理攻撃の効かない<暗闇君>の特性。

 絶え間なくブローチを求める数多の<暗闇君>。


 地獄の耐久レースが始まった。


 この地獄では他人を攻撃をしている余裕などあるはずもなく。

 生き残っている参加者が必死の形相で、文字通り自身の魔力を振り絞って、<暗闇君>から自身のブローチを守る。


 中には後衛のパートナーに、援護射撃について怒号を飛ばすものもいた。


 ことここにいたっては、この予選で与えられる物理的な苦痛はない。

 ただ、待ち受ける精神的な苦痛。

 魔力枯渇による眩暈、吐き気、痙攣、頭痛。当然吐しゃ物をまき散らす生徒も現れ、それを見た生徒もそれに続くという惨劇である。

 精神的に未熟な者の中には、魔法枯渇の症状に耐え切れず、<暗闇君>に触られに行く者もいよいよ出始める始末。


 観客席は当初の楽観ムードから一転。

 今や闘技エリア内の惨状を見て、これから自分たちもあそこに向かうと知って、一気に悲観的空気が流れる。


 魔力枯渇とは魔力を扱うものは誰もが一度は通る道。

 しかし、何度味わってもどれだけ成長しても、魔力枯渇という現象は魔力を扱う者にとって精神的にしんどいのだ。


 次々と倒れていく生き残っていた最上級生の生徒たち。<暗闇君>がブローチに触れると、転移魔法が起動し、光に包まれた生徒たちの体が闘技場ステージ上から消えていく。


 その僅か十分後の予選一組の闘技場ステージ上。


 そして誰もいなくなった。

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