第10話

「悪いな防衛士。俺にもやるべきことがあるんだわ。まずはその仮面を外せ」


「用心深いねェ……」


 言われた通り、仮面を外す。すると全身の装備が消え、上裸となった。


「なんだ学生か。ここまでよくやったなぁ、本当」


「聞かせてくれ。お前のやるべきことと言うのは、子供を殺してまで成すことなのか?」


「俺は言われたからやってるだけ。詳しいことはボスに聞いてくれ。正直な〜んも知らん」


 まるでこちらに非は無いと言わんばかりの様相で、そう答える。同時に後ろへ引いて距離を取った。


「この魔法被検体のガキ共にどんな価値があるのかは知らんが、上の命令だからな」


 一度危険にさらされたからか、さっきのような油断したような素振りは一切見せていない。一歩でも踏み込めば全員噛み殺されるだろう。そうでなくとも、何かしらのアクションを起こすはずだ。


「殺したらその命令に背くことになるんじゃないのか?」


「止むを得ない場合は殺しても構わないんだとさ。要するに、お前が止むを得ない状況を作らなければ良いって訳だ」


 こうなってくるといよいよ為す術が無くなる。


「もうお前にやれることは何もないから、さっさと回れ右して帰ってくれ」


 ふと麗夏を見る。

 視界と口は布で塞がれており、手足は特殊な紋様が刻まれた手錠で拘束されている。おそらくは魔法の使用を制限するものだろう。


 麗夏のすぐ下の床には、何かが描かれていた。


 丁度それは多くの子供達により、背後にいるノワールフェンリルからは死角となっている。


 顔を上げて、一度頷いて見せた。


「はぁ……わかったよ」


「諦めてくれるのか! 話が分かる奴だな、お前!」


 くるりと背を向ける。


「生きてたらまたどこかで会おうぜ〜」


 一歩踏み出したその時――


 ゴゥウウッ!


「炎!? どこから!!」


 すぐさま仮面を付け直すと、間髪入れず方向転換をし、霧影の腹部に拳を振り上げる。


「ごふぅっ!!」


 浮いた身体へ、回転により威力が増した蹴りを見舞いし、壁に叩き付ける。


「ショコラぁあ!!」


「グルガァァゥ!!」


 影からノワールフェンリルが襲いかかって来るが、スピードは然程出ていない。

 部屋に突如として現れた火柱の光により、弱体化していると考えられる。


 火魔法により作り出した炎を拳に纏い殴りつけると、そのまま霧散して行った。


「てめぇっ!!」


 霧影の胸ぐらを掴み、顔面へ思い切り拳を振り下ろした。


「がっ!!」


 霧影はそのまま壁にもたれ掛かり気絶する。


「うわっ、何この惨劇」


 丁度今、起動が終わったらしく、全身にスーツが装備されていった。それと同時に雲晴の声が聞こえてくる。

 少しの間とはいえ直で炎を纏ったせいで右腕がとにかく熱くて仕方がなかった。


 それ以外の要因として、部屋の温度が高く感じられた。

 ふと囚われた子供達の方を見ると、出現した火柱に今にも飲み込まれそうになっていた。


「雲晴! 早く異界裂を!」


「わかってる! 救助は宜しく!」


 その火柱の中へ水を纏いながら飛び込む。それと同時に、雲晴のいる研究室へ繋がる異界裂が現れる。

 急いで誘導し、全員を救助することに成功した。


 ――かに思えた。


「不味いよォ! 魔力残量が残り僅か!」


 一人だけ取り残していたのだ。急いで駆け寄り抱えた後、風魔法をフルに使い閉じかけていた異界裂に勢い良く飛び込んだ――


 研究室に着いた瞬間、その異界裂は閉じた。確認すると魔力ゲージは既に底をついていた。

 同時に、猛烈に気分が悪化する。演習の時に経験したような酔いのさらに酷いものだ。


 少しだけとはいえ遠い場所にワープ式異界裂を出すのは莫大な魔力を消費するのだと再確認させられた。


「ど、どうした!? バイタルに異常が見られるぞ!?」


 雲晴は倒れ込んだ煌矢の仮面を取り外し、心臓に耳を当てる。


「たまにあるんだ……魔法を使うと……気分が悪くなる……」


 しかしここまで酷いのは初めてだった。


「あーーー!! 不味い不味い!! 私の防衛士ィィ!! だから言わんこっちゃないィ!」


 意識が朦朧となる中、ただただ慌てふためく雲晴の声が聞こえて来る。


「どうせ少ししたら治る。雲晴は子供達のケアの方を頼んだ……」


 そう言い残すと同時に、暗い闇の中に引きずり込まれる奇妙な感覚に陥った――

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魔法科学と防衛士 資涼 ツナ @Siryou_Tuna

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