第250話 遷都式
町の中にはエリカのお父さんが厚意で出してくれた何でも屋があり、そこはいつも繁盛している。商品は6日に1度、オストリンデンから荷馬車2台でやって来る。というかその荷馬車2台が専属でツェントルムとオストリンデンを往復している。街道沿いに宿場町などないので、野宿での移動ということになる。ありがたいことだ。
運ばれてくる主な商品は、衣料品、酒類、日用雑貨だ。ヨルマン領ではもともと街道で山賊や追剥が出ることはほとんどなかったが、ツェントルムとオストリンデン間の街道でもそういった物は現れていない。俺たちのことを少しでも知っていたら恐ろしくて、ライネッケ領にちょっかい出せるはずないものな。
荷馬車が空荷で帰るのはもったいないと思い、何か内職的なものはないかと考えた結果、麻糸、布、組みひも、矢、木工芸品、皮革製品といったものを買い取ってもらうようになった。糸を
ヨーネフリッツの動向にも気を配っていたのだが、都をブルゲンオイストから旧王都ハルネシアに移すという話が聞こえてきていた。ハルネシアは位置的にヨーネフリッツの真ん中あたりに位置しているので、理解できないことではない。
父さんの領地もゾーイを中心に順調に発展しているそうだ。
ツェントルムを拓いて4年目に入り、オストリンデンまでの街道の舗装が完成した。誕生日がくれば俺は19歳になり、3月になればドーラは15歳になる。
ツェントルムのウーマが鎮座する広場も敷石で舗装され、広場の周りの建物もそれなりの建物に建て替えられた。食堂兼酒場も数軒でき上り、こちらも繁盛している。
最初にできた食堂兼酒場に気楽亭と名まえをつけ、俺たちがひいきにしている。
荷馬車用に作った駅舎も拡大し、自炊前提の簡易版宿泊施設も追加した。
4月に入り、ヨーネフリッツの王城からの使者がツェントルムにやってきた。
たまたま俺はペラを連れて街の中を視察中だったので、エリカが対応したようだ。
わざわざ行政庁の会議室を使う必要もないと思って、広場のウーマの前で出迎えたという。
「ウーマの前で相手したら、不満そうな顔してたわよ」
「広場で対応か。相手はとんだ田舎にやってきたと思ったんじゃないか?」
「そうかもね。わたしに封筒を寄こして王城からの伝言を伝えたらそのまま帰っていったわ」
「ここには宿はあっても簡易版だからそのまま帰るしかないだろう。オストリンデンから野宿してここまでやってきたんだろうから、野宿には慣れてるんじゃないか?」
「そうかもね」
その使者がエリカに伝えた内容だが、
曰く。旧王都ブルゲンオイストから新王都ハルネシアへの遷都を祝って遷都式を催すので王城に参集するように。と、口頭でエリカに伝えた後、俺以下5人に宛てた封書を置いて帰ったそうだ。
封書を開けて見たら、5通ともタダの案内で口頭での内容に加えて遷都式の日時が書かれただけだった。
遷都式は6月10日。今から2カ月後だ。
「何を今さら。笑っちゃうわよね。エド、無視するんでしょ?」
「いや。顔を出した方がいいだろ。まだヨーネフリッツとことを構える必要はないから」
「まあ、どこに行こうがわたしたちを害せる者なんかいないし、暇つぶしくらいにはなるからいいと言えばいいけどね」
「ライネッケ領というかエドのことが気になったのでしょうね」
「街道も完成して外部との往来も増えてきてるから、王城からの間者だか諜者も入ってきてると思うけど、こちらの状況を掴んでいないのかな?」
「さすがに状況はつかんでるでしょ。でないと
「確かに」
「逆に、思った以上にここが発展しているから、恐がってるのかも?」
「ドーラの言う通りかもな。自分の手の届かないところでどんどん大きく成っているわけだ。あっちからすればいつ仕返しされるかもしれないとか思っていそうだしな」
「エド、ちゃんと仕返しするつもりよね?」
「まあな。とはいえ、まだこっちが固まっていないところで、ことを構えてヨーネフリッツが傾いたりしたらうまくないだろ?」
「それもそうね。
遷都式には、わたしたちだけじゃなくて兵隊も連れて行かない?」
「兵隊を連れていきたくても兵隊なんていないから連れて行きようがないぞ」
「うちにいるエルフを100人くらい連れて行けば見栄えがいいんじゃない。長弓を持たせればなおいいし」
「そこまでする必要あるかな? 威圧という意味ならリンガレングで十分じゃないか?」
「そう言われれば、そうね。リンガレングを前にしてその後をウーマが続く形はかなり受けると思うわ。ウーマのステージの上にペラが鉄の塊を持って立っていればなおいいし」
「それもいいかもしれませんが、たった5人で大森林に追い出したはずのわたしたちが軍を率いて戻ってきたとなるともっと面白くなると思いませんか?」
「つまり?」
「リンガレング、ウーマ、その後にエルフを1000人ほど」
「うちにはエルフが1000人なんていないぞ? しかも歩いていくとなると往復2カ月近くかかる。そんなにここの仕事を放ってはおけないし」
「兵隊はエルフの里から連れて来ましょう」
「いいの?」
「もちろんです」
「まあ、今回は戦争するわけじゃないから兵隊を連れて行くのは止そう。ウーマだけでいいだろ。リンガレングを出して子どもを怯えさせてもかわいそうだしな。それにペラがいる以上俺たちに手出しできないだろうし」
「分かりました」
「それはそうと、ライネッケ遊撃隊にいたっていう男が流れてきたじゃない」
「うん。そうだな」
「彼の話聞いてみた?」
「直接じゃないけど、耳には入っている」
「ライネッケ遊撃隊はバラバラにされて、みんないろんなところに配属されたあと、だんだんと今までできていたことができなくなったって聞いたわ」
「レメンゲンの力が切れたんだろうな。
ここに流れてきてここでちゃんと働いていれば、また力を取り戻すんじゃないか?」
「そうなると面白いわね。
それがうわさで広まると、ライネッケ遊撃隊の全員がここツェントルムにやってくるかもね」
「領軍といえば大規模になりますが、ツェントルムもだいぶ大きく成りましたから、市内を見回る警備隊程度はあった方がいいかもしれませんね」
「今は聞かないが、ケンカなんかも起こるだろうし、あった方がいいだろうな。
その線で考えておこうか」
「そうですね」
「警備隊もそうだけど、子どもたちに読み書きと計算を教える場所を作りたいんだよな。
読み書きと計算って大切だろ? 子どものうちに身につければ一生ものだし」
「子どもを働かせないと食べていけないようなら仕方ないけど、ここはそうじゃないもの、いいんじゃない」
「だけど、これも人だよなー。人手が足りないんだよー。人手が欲しい!」
「それこそ、エルフの里から人を借りてもいいでしょう」
「確かにそれは言えるな。今度行ってその話をしよう。
それ用の建物は簡単に建てられるから子どもに教えられる人さえ手当できればいつでも始められるしな」
「そうね。読み書き計算だけじゃつまらないから、体も鍛えたらいいんじゃないかな?」
「小さいうちから鍛えると体が大きく成らないというから、軽い運動でいいんじゃないか? 軽い運動でも毎日やってれば体は丈夫になるはずだし」
「そうね」
ここで話したことを行政庁に持っていって具体化を検討させていれば、細かい指示がなくてもそのうち何とかなるのがわがライネッケ領だ。
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