第244話 戴冠式2
駐屯地の野外宴会場から隊舎に戻り、再度礼服に着替えた俺たちは、王城の祝賀パーティー会場に急いだ。
城の使用人に案内されたパーティー会場でヘプナー伯爵と話している父さんを見つけたので、俺たちはそこに移動した。
「ライネッケ伯爵、ご苦労だった」
「仕事ですから」
「済まんな」
「それでエド。パレードはどうだった?」
「沿道の人からの声援と拍手がすごかったよ」
「そうだろうな。特にお前のところの部隊は今や王国最強の名が轟いてるし当然と言えば当然か」
「そうなの?」
「少なくとも、俺のゾーイじゃ大変な人気だ。若いのがライネッケ遊撃隊の隊員に成りたいと言ってブルゲンオイストに出ていくから、ちょっと困ってるところだ」
「そんなに有名なんだ」
「まあ、お前にあこがれてるわけじゃなくて、エリカちゃんとかケイちゃんにあこがれているみたいなんだけどな」
「あっそう」
「ヘプナー伯爵。国軍ではうちから出ていったような若造でも原則みんな受け入れてるんですよね?」と、父さんがヘプナー伯爵にたずねた。
「その通りだ。戦争は一段落しているとはいえ兵隊はまだまだ足りないからどんどん受け入れて郊外の駐屯場で新しく部隊を編制している。そういう意味では陸兵の補充は順調だ」
「そういった志願兵の中に元国軍とかどこかの元領軍で野盗や山賊に身をやつしていた連中はいないんですか?」
「厳しく取り調べているわけではないから、相当数含まれているだろう。贅沢は言えないから仕方がないところだ」
「それはまあ仕方ないですね。うちのところでも旧王領守備隊を領軍に再編制してるんですが人が足らずに困ってるんですよ」
「どこも人手不足だしな」
「海の方はどうなんですか?」
「海兵については数は揃っているが船が足りない。船は各所の造船所で建造中だが旧ヨーネフリッツの水準まで戻すには3年近くかかるそうだ。
エドモンドくんのおかげでフリシアもドネスコも軍艦が窮屈なのはわが国と大差ないようなので、わが方に出張ってくることはないと思っている。海賊については残存艦船でも十分対応できるから国内の船舶輸送にそれほど支障は出ないだろう」
「国軍以外の状況はどうなんです?」
「陛下は鉱山と大森林の開発にも人を送りたいらしいが、そっちの方の人気は今一のようだ。
鉱山や大森林開発に使っているフリシアの捕虜も返還するようだしな。
国庫が厳しい現状、
「それで、カールの方の領地経営はどんな感じだ?」
「前任者の残した官僚もいますし、可もなく不可もなくと言ったところですから、今のところうまくいっていると言ってもいいかもしれません。ただ、まだ1カ月ですからなんとも」
「それもそうだな。
そういえば、陛下の戴冠式がこうして無事終わりヨーネフリッツが完全によみがえったわけだが、一連の論功行賞のまとめとして貴族の陞爵が行なわれるらしい」
「そうなんですか?」
「確かな話だ。これからは国をしっかりまとめていかなければならないからな。カールも期待していい。もちろんエドモンドくんもだ」
「ということは、伯爵もですよね」
「ああ。そう言われてはいる」
「おめでとうございます」「おめでとうございます」
「祝いの言葉は正式に発表されてからにしてくれたまえ」
「「失礼しました」」
そういった話を大広間の隅でしていたら、陛下が前方のステージに現れた。そこで司会が乾杯のためグラスを取ってくださいと案内したのでみんなグラスを取り、給仕がグラスに酒を注いで回った。
一通り酒がグラスに注がれたところで司会がグラスを掲げ「ヨーネフリッツ王国万歳!」と唱えた。
その声に合わせて全員が唱和した。
「「ヨーネフリッツ王国万歳!」」
「ヨルマン1世陛下、万歳!」
「「ヨルマン1世陛下、万歳!」」
「乾杯!」
そして全員がグラスの酒を飲み干し、会場は拍手に包まれた。
拍手が収まったところでステージ上のヨルマン1世がひとこと。
「諸君らの尽力のおかげでヨーネフリッツは全土を回復し、この日を迎えることができた。ありがとう」
そこで会場は再度拍手に包まれ、各所から「ヨーネフリッツ王国万歳!」「ヨルマン1世陛下、万歳!」の声が上がった。
ヨイショは大切なので俺も「ヨーネフリッツ王国万歳!」「ヨルマン1世陛下、万歳!」を人より大きな声で唱えましたよ。
父さんは武術大会を見ることなく翌日館のあるゾーイに帰っていった。
戴冠式の翌々日。
駐屯地内に武術大会本選の会場が設えられた。もちろんライネッケ遊撃隊を含め駐屯地内の各部隊は当番兵をのぞいて休日である。
武術大会の審判としてアサインされているのは駐屯地の隊長クラスで武術に優れた者。今回ペラもその中の一人に選ばれている。というか、俺が推薦した。
ペラは審判としての参加だが俺たち4人は来賓としての参加になる。国王陛下の一段高くなった席の左右に椅子が並べられていてその中の一画に俺たち4人は並んで座った。もちろん最前列である。
一年前サクラダでエリカと武術大会の予選を見に行って人だかりのせいで全く試合が見られなかったことから比べるとまさに隔世の感がある。
俺たち来賓の座る貴賓席以外は一般席なのだが、陛下が観覧する関係で招待された市民だけが入場を許されている。立ち見は立ち見なのだが、後ろの方だと見えないほど混み合っていない。
今日の本大会では予選を勝ち抜いた16人がトーナメント方式で順位を競う。
上位8名、つまり一勝すれば入賞となり、入賞者には賞金が与えられるほか、本人が希望すれば国軍の100人隊長以下の士官として採用される。
16人によるトーナメントなので試合数は15試合。
試合開始は10時から。
1試合あたり5分ほどで
試合はサクサク消化されて行き、11時半。陛下観覧のもと、決勝戦が行われた。審判はペラだ。
決勝戦の対戦相手は、武器はもちろん木製なのだが、まるで俺とエリカのような感じで、一人はやや大き目の剣を両手で扱い、もう一人は双剣を構えている。
二人ともこれまで危なげなく勝ち進んでおりいい試合が期待できる。
「エド、どっちが勝つと思う?」
「両手で剣を構えている選手じゃないか?」
「そうかなー。双剣使いの選手じゃない?」
「どっちが勝ってもおかしくない、いい試合になるんじゃないか?
これは実戦じゃないから、ダメージの多寡はあまり評価されないぶん手数の多い双剣の方がやや有利かもな」
「それはあるわね。
ケイちゃんはどう思う?」
「エドとエリカの剣を身近に見てるので、悪い意味でどちらか勝つか分かりません。どちらの選手もドーラちゃんに勝てそうもありませんし」
俺とエリカの剣がずば抜けていると受け取っておこう。俺もエリカもペラの足元にも及ばないんだろうけどな。それはそうと、さすがにドーラに勝てないってことは? うーん。あり得るか。
そうこうしているうちに試合場では、試合が始まるようだ。
『それでは、これより決勝戦を始める。
両者、いいな?
それでは、始め!』
……。
「それまで! 勝者3番」
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