第196話 傭兵団10、殲滅
敵兵たちは1000人単位ほどで横長のブロックを作ってそれが横6列、後方に4列でき上っており、後方から到着する兵隊で新たなブロックが作られている。装備から見て各ブロックのこ最前列、こちらから見て右隅にそのブロックの上級指揮官がいるようだ。
ペラが左右の手に四角手裏剣を持ち右手を無造作に振って四角手裏剣を放り投げた。
無造作に投げられたはずの四角手裏剣は空気を切り裂く不快な音を立てて最前列の中央ブロックの向かって右隅に着弾し、文字通り血煙が上がった。同時に守備隊長の驚く声が聞こえてきた。
そのころには左手で投げられたペラの四角手裏剣が空中を移動中で、すぐに血煙が左隣のブロックの最前列の右隅で上がった。今回は後ろの数名も巻き込まれたようで、血煙の後ろに空間ができた。
敵はその程度ではひるまず、隊列は乱れていない。おそらくだが彼らはいきなりのことに動転して思考が追い付かず、ゲルタ側から攻撃を受けていると認識していないような気がする。
近くで自分たちの指揮官が血煙を上げて吹き飛んでもひるんでいないところは、なかなか統制の取れたいい軍隊なのだろうが、じきに城壁からの攻撃だと気付くだろうし、そうなったらいつまで耐えられるか。
ペラの攻撃が10投射を超えたあたりで敵の前列が波打つように不規則に後退を始めた。
その後退がドンドン拡大していき、隊列は加速度的に乱れていく。その間も四角手裏剣が空気を切り裂く不快音とセットで敵の隊列の中で血煙が上がってる。もう少しだ。
ペラが20投射、20個の四角手裏剣を投射したところで敵軍は完全に崩壊し、兵隊たちは後方に潰走を始めた。
「マスター、追撃して殲滅しましょう」
「そこまでしなくていいんじゃないか? 十分恐怖を味わったと思うぞ」
「ここで敵を殲滅することで領土奪還が楽になり、味方の犠牲が抑えられます。味方一人の命は全ての敵の命より重いのです。付け加えると指揮官クラスが多数戦死している関係で、戦場から逃げ出した敵兵は統率を欠き軍記が乱れる可能性があります。軍紀が乱れた兵は特に民間人にとって危険です」
確かにペラの言う通りだ。土足で人さまの国に攻め込んできた以上、痛い目にあっても文句は言えまい。将来の損害を予防するためにも殲滅が最善手だろう。
「それじゃあ、ペラがやるか?」
「わたしだけでは時間がかかりますから、リンガレングも使いましょう」
「あいつの攻撃は危なくないか?」
「特殊攻撃ではなく、単純に物理攻撃だけで十分だと思います。リンガレングが討ち漏らした敵をわたしが処分します」
「副団長のエリカはどう思う?」
「敵は軍人。死ぬ覚悟くらいあるでしょう」
「つまり、ペラの意見に賛成?」
「うん」
「ケイちゃんは?」
「賛成です」
「ドーラは?」
「可哀そうだけど、仕方ないと思う」
「分かった。守備隊長に確認を取るから少し待っててくれ」
こういったやり取りをしているあいだにもペラの両手は動いていて敵のどこかしこで血煙が上がっている。
「隊長、敵を追撃して構いませんか?」
「きみたちが敵を追うのか?」
「わたしたち全てじゃないんですが一応」
「できるならやってくれて構わない」
「分かりました」
「ペラ。 リンガレングは城壁の下の地面に出す」
「了解しました。わたしは下で待ちます」
ペラは胸壁を軽々乗り越えて下に飛び降りた。
俺は胸壁から体を乗り出してペラの横にリンガレングを排出して、上からリンガレングに命令した。
『リンガレング、お呼びにあずかり見参!』
「リンガレング、ペラと協力して逃走中の敵を殲滅しろ」
リンガレングの8個の目が高速で点滅した。レーダーみたいなもので周囲の状況を確認したのだろう。
『了解。リンガレング、これより逃走中の敵を殲滅します』
あっという間にリンガレングが逃走中の敵軍に追いついたと思ったら、そのままその中に突っ込んで行った。そしてリンガレングの周囲に大量の血煙が上がり、リンガレングは見えなくなってしまった。そのうちペラも血煙の中見えなくなってしまった。
モンスターに対しての攻撃はきれいに仕留めるようリンガレングに仕込んだはずだったが、敵兵に対しての指示を出さなかったからこうなってしまった? これでは敵兵が跡形もなくなって敵の情報なんか手に入らない。が、もう遅い。
周囲から先ほどまで声が聞こえていたが、城壁の上は静かになっている。命じた俺自身引くようなあまりの惨状だものな。
ペラの時は指揮官らしき敵兵は比ゆ的に血煙になってしまったが、リンガレングの攻撃で敵兵は文字通り血煙に変化していく。ここからでは血煙で済んでいるが現場では血肉でできた泥濘で地面が覆われているはずだ。
情報を得られない事は仕方がないで済むが、血肉でできた泥濘の処理はどうするんだ? どうにもならないぞ。放っておけば腐って疫病の元になるのだろうから、最終的には周辺に被害が及ばないようリンガレングに焼却処分させるしかなさそうだ。リンガレング、できるよな?
ちょっと不安になって血煙でかすんだ辺りを見ていたら、声をかけられた。守備隊のホト隊長だ。
「ライネッケくん、あれは何が起こているのか分かるかね?」
「うちの者が、逃走する敵軍将兵を掃討しています」
「きみの部下の
「はい」
「……。
とにかく敵軍を撃退してくれてありがとう」
「わたしたちはヨルマン領民ですから、できることをしたまでです」
「できることが、アレなんだな」
「はい」
アレはだいぶ遠くまで移動していて、上がる血煙も少なく成ってきているようなのでそろそろカタが付くのだろう。
「敵軍の掃討という話だったが、文字通り皆殺しにしたわけか」
「もうすぐですがまだ皆殺しにしていません」
「わかった。きみたちのことはヨルマン公に報告しておく。おそらく公より叙爵されるだろう。あとで書類をきみに渡すから、昼過ぎに守備隊本部に来てくれたまえ」
「はい」
ホト隊長はそう言って階段を下りて行った。
「エド、やったじゃない。これでエドは貴族さま。すごいことよ」
「まあそうなんだろうけど、今回はペラのおかげだけだけどな」
「エド、父さんは準男爵、エドは何になるか分からないけれど、ライネッケの名まえが領内に広まるね」
「うん。そうなんだろうな」
西の方向を見ながらそんなことを話していたら、こちらに向かってペラとリンガレングが駆け戻ってくるのが見えた。
壁の下までやってきたところでペラをキューブに収納してやり、ペラだけ俺の前に出してやった。
その状況は守備隊の兵隊たちに見られていたかもしれないが、だからどうってこともないだろう。目の錯覚、目の錯覚。
今度は壁の下のリンガレングに向かって指示を出した。
「リンガレング。切り刻んだ敵兵を焼き払うことはできないか? なるべく周囲を巻き込まない形で」
『可能です』
「すぐにやってくれ」
『それでは、やってみます。
ここなら安全ですから退避の必要はありませんが、強烈な閃光が発生しますから目を閉じていてください。
それでは、いきます。
リンガレング、終末回路ロード。……。ロード完了。「神の怒り」発動!』
今まで青空だったにもかかわらず、地面が赤黒く変色したその上空に雲が発生し渦巻き始めた。そしていきなり渦の真ん中から地面に向かって真っ白な光の柱が突き刺さった。そこで慌てて目をつむったのだが目を開けてもしばらく何も見えなかった。
数秒後、衝撃波と一緒に雷が近くにまとめて落ちたような轟音が響いた。
ようやくあたりが見えるようになり、先ほどの光の柱の辺りを見たら、最初に上空に向かって伸びるキノコ雲が目に入った。キノコ雲の下の地面は溶解したのか広範囲にわたり先ほどの赤黒さと違った赤に染まっていた。
なるべく周囲を巻き込まなかったのかもしれないが、実際のところは不明だ。
ただ、対象は完全に焼き尽くされたようだ。
城壁の上は、先ほどの爆発音のために耳がある程度バカになっただけでは説明できない文字通りの静寂に包まれている。
やってしまったことは仕方ない。
城壁の上から下で待機中のリンガレングに「よくやった。ご苦労」と、ひとこと声をかけてからキューブに回収した。そのあと通路の床に積んだ四角手裏剣をリュックに入れるふりをしてキューブに回収し、俺たちは階段を下りて一度宿に戻った。
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