第173話 ドーラ6、案内2。カール・ライネッケ4、王都へ
次はドーラに食料庫を見せることにした。
俺がドーラを案内しているあいだ、エリカたちはソファーに座って寛いでいる。
「ドーラ、今度は食料庫だ」
壁が消えてその先に倉庫が現れた。
「壁が消えた!?」
「壁に向かって『消えろ』とか『開け』と言えば壁が消えて、『戻れ』とか『閉まれ』とか言うと壁ができるから」
「ホント?」
「ホントだから」
食料庫の中に入ってドーラに一々説明してやった。マヨネーズもケチャップもドーラは既に味も知っているので説明は簡単だったが化学調味料についてはまだだったので一応説明しておいた。
「この白い粉を少しだけ料理に入れればすごく味にコクが出ておいしくなる。さっきのスープにもこれを入れてるからおいしかったんだ。ただ量の加減が難しいから最初のうちは味を見ながら少しずつ入れていく方が無難だろうな」
「エドはどうしてそういったことを知ったの?」
オット。ここでまたクリティカルな質問が飛んできた!
「ここは食料庫だろ? そこは勘で。試したら驚くほど料理がおいしくなったってわけだ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ」
……。
「次は雑貨倉庫だ」
食料庫から外に出て壁を閉じ、同じように雑貨倉庫の壁を開けた。
「ここも同じなんだね」
「うん。そう」
雑貨倉庫の中に入って行き、ドーラが当面使いそうなタオルなんかを見繕ってドーラに持たせた。シャンプーとかその他諸々の説明は、エリカたちとドーラが風呂に入ればエリカたちがドーラに教えるだろうからパスでいいな。
「あとは掃除道具とか置いている物置だ」
そこも一応ドーラに見せてウーマ内部の説明を終えた。
「階段の上はなにがあるの?」
2階の説明を忘れていたので、水タンク室を見せ、その先のハッチも開けてペラの投擲用ステージも見せてやった。
「こんなところからペラさんがモノを投げるの?」
「これだ」
そう言って俺は鉄の扉から切り出した四角手裏剣をドーラに見せてやった。
「こんな重たいもの投げつけるの?」
「うん。ワイバーンと言って空飛ぶ大トカゲがいるんだが、ペラが投げると一発で即死する。いままでペラが投げたものは全部ワイバーンの頭に命中してるんだが、こいつが命中すると当たったところは抉れて吹き飛んでる」
「……。
そのペラさんより、あのクモの方が強い?」
「ああ。リンガレングな。あれは別格だ」
「そ、そうなんだ」
「そうなんだよ」
一通り案内が終わってドーラを連れてソファーで寛いでいるエリカたちのところまで戻った。
「エドの案内が終わったようだから、ドーラちゃん、一緒にお風呂に入りましょ」
「は、はい」
「寝室に戻って着替えを持ってきましょう」
ドーラはエリカとケイちゃんに連れられて寝室に連れていかれ、すぐに着替えとか手にして3人で風呂場に入っていった。
湯舟に湯が溜まるのはあっという間なので服を脱ぐ前に湯を入れ始めれば、裸になった頃にはちょうどいい具合に湯が溜まっている。
で、ソファーに座る俺のところに、風呂場から3人の声が聞こえてきた。話の内容は判然としないので聞き取れないが、3人とも楽しんでいるようで何より。
なんにせよ洗剤を使って頭から足先まで洗えばつやつやだ。
俺もドーラが石鹸できれいになって驚く顔が見たかったが、実に残念だ。
3人が風呂から出てきたら今度は俺の番だから、じっくりたっぷりエキスを吸収してお肌ピチピチになるぞ!
俺がそうやって風呂の順番を待っていたら、リンガレングが前足を2回打ち鳴らした。
何事かと思っていたら、俺の向かいのソファーに座っていたペラがすごい勢いでリンガレングの近くまで駆け寄り、そこからスリットをのぞいて俺のところにやってきた。
「マスター。ワイバーンです。数は5」
「分かった」
ペラのあとについて階段を上り、ハッチを開けてステージに立ったペラの足元に四角手裏剣を10個ほど置いてやった。そのあと俺はハッチから首を出して、上空を見渡した。
確かに5匹のワイバーンらしき鳥?がこっちに向かっている。
ペラによるワイバーンの殲滅をドーラに見せてやりたかったが、風呂に入っているから残念ながら見せられない。
ワイバーンがこれまでと変わらず一列になって突っ込んでくる。その先頭のワイバーンが50メートルほどに近づいてきたところで第1投。
四角手裏剣はスゴイ風切り音を残しワイバーンの額に命中し、頭の半分を失ったワイバーンはきりもみしながら墜落を始めた。
射線が開けたところで、第2投。
これもワイバーンの額に命中して、最初のワイバーン同様そのワイバーンも額を吹き飛ばされ墜落を始めた。あとは流れ作業。ワイバーンは前のワイバーンが死のうがどうしようが恐れることもなく突っ込んでくる。
ダンジョン産のモンスターなので進化した末にこういった行動をとるようになったわけではないかもしれないが、ちょっと痛々しい。
ウーマには何も指示を出さなかったが、ワイバーンの墜落現場の手前で停止し、脚を折って腹を地面につけてくれた。
俺はハッチから外に出てワイバーンを回収して、すぐにウーマに戻った。
ウーマは俺が戻ってハッチを閉めたところで再び移動を開始した。
ワイバーンの墜落現場は移動コースはら少しずれていたと思うが、ウーマは勝手にコースの修正をするだろう。
これでキューブ内のワイバーンは25匹になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エドモンドがドーラにウーマの内部を説明しているころ。
こちらはエドモンドの父親カール・ライネッケ。
現在カールは、派遣部隊の第1、500人隊隊長として領都に集合した兵隊たちを率いて王都への途上だった。随伴する輜重隊は道中での物資の購入費の他、ヨルマン領からの国への援助金の一部として金貨5000枚を運搬している。このことはカールと副官のヨゼフと輜重隊の隊長以下数名しか知らされていない。
移動途中、領都に帰還中のヨルマン辺境伯一行とすれ違っており、ヨルマン辺境伯からカールは「兵をよろしく頼む」と、言葉を賜っている。
なお、第2、500人隊以降の出発はだいぶ遅れている。カールは聞かされていないが、ヨルマン辺境伯はなるべく引き延ばす腹であり、領軍をまとめるヘプナー伯爵もその線で動いている。
500名が宿泊できるような施設は街道上にはないため、行軍中は野営する必要がある。物資などは500人隊の後方に輜重隊が追随しているので問題はないのだが、問題は部隊の構成人員にある。もともと係累の無い部隊の厄介者が集められた関係で、集合期日までに領都に集合したのは400名前後。集合期日以降、王都への出発日までに集合した人員が50名。この50名はほとんど部隊訓練をしていない。
そして今日の野営明け、点呼した段階で部隊人数は430名ほどになっていた。
もちろん歩哨は野営中見張っているが、逃亡者はその目を盗んでいるのか、それとも歩哨がわざと見逃しているのか? そこは判断できてはいない。幸い立てた歩哨から逃亡者は出ていないので、歩哨の目を盗んで逃亡したのだろうとカールは考えている。
この状態が続くとなると果たして王都に到着した時どれほどの兵員が残っているのか? 最低でも400名は王都に届けたいとカールは考えていたが、実際王都に何人連れて行けるのかカールには見当もつかなかった。
後方に伸びきった隊列を馬上から振り返り、ため息をついた。
――戦うとかの問題じゃなくなったてしまった。とんだ貧乏くじを引いてしまった。貧乏くじは俺だけじゃなく部隊全員がそうだからやり切れんな。
馬上のカールの横には副官のヨゼフ・シュミットが肩にヨルマン領旗を担いで徒歩で従っている。
「隊長。そろそろ野営の準備では?」
「そうだな。この辺りで野営するとしよう。伝えてくれ」
「はい。
全隊、野営準備ー!」
ヨゼフの声が後方に伝わって行き、部隊は街道を外れ野営準備に入った。
なぜかこういうところだけ部隊の動きがきびきびしていることにカールは苦笑した。
翌朝になり野営を終わり点呼すれば、また何人かいなくなっているのだろう。と、半ばあきらめてカールも野営準備を始めた。
ヨルマン領軍派遣隊の総指揮官であるボーア子爵だが、彼とその取り巻きは部隊のことはカールに任せ、先に王都に向かっていた。実務についてボーア子爵とその取り巻きに期待はしてはいなかったカールだが、これには驚いた。ただ、無責任なことを言われないだけましとは思っている。
ヨーネフリッツの兵制だが、最も大きな戦術単位は500人隊で、軍の規模は500人隊の数で表される。500人隊は5つの100人隊から編成されており、100人隊にはそれぞれ隊長がつく。
100人隊の下が20人隊でこれにももちろん隊長がおり、20人隊の下には5人から10人から成る班が設けられる。班の先任者は班長となる。
なお、100人隊長以上は士官待遇となる。
現在、カールの500人隊では欠員が相当数出ている関係で、全ての20人隊は定数割れの状態である。
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