第166話 サクラダへ
村はずれからしばらく歩いたところで、ドーラのリュックをキューブにしまうことにした。
「ドーラ。駅舎のある町までは2時間かかる。俺がドーラの荷物を持ってやるよ」
「いいの?」
「持つといったけど、ちょっと違うんだけどな。とにかくドーラのリュックを渡してくれるか?」
「うん。……、はい」
ドーラからリュックを受け取った俺はリュックをキューブにしまった。見た目は俺の手で下げていたリュックがいきなり消えたように見える。
「エド、リュックが消えたわよ! どうしちゃったの?」
俺は首から下げている革紐を引っ張り上げてその先の革の小袋から収納キューブを取り出してドーラに見せてやり、すぐにしまってまた胴着の中に突っ込んだ。
「今の小箱の中に入れたんだ」
「ウソでしょ?」
「ウソじゃないから。ホントだから」
俺はキューブから先ほどのドーラのリュックを出してやった。見た目はいきなりリュックが宙に現れてそれを俺が手で掴んだように見えたので、キューブから出てきたとは思えないよな。
「まあ、おいおい分かるよ」
俺は再度ドーラのリュックをキューブにしまって、代わりに水筒とマグカップを取り出して見せた。
「この筒が昨日話した水が入っている筒だ。本当は水が入っているんじゃなくって水がいくらでも出てくる不思議なアイテムなんだ。おいしい水だからドーラも飲んでみなよ」
マグカップをドーラに持たせて俺は水筒から水を注いでやった。
ドーラは恐る恐るマグカップの水を飲んだ。
「どうだ?」
「少し冷たくておいしい」
「だろ? これは水が出てくる筒だから水筒と呼んでいるんだけど、ダンジョンで見つけたものなんだ」
「不思議なアイテムがダンジョンで見つかるって聞いてはいたけれど、まさかエドがこんなにいろんなものを見つけているとは知らなかった。ダンジョンでアイテムがそんなに簡単に見つかるものなの?」
「いや。いろいろあって俺たちだけが特別みたいだな」
「ふーん。よく分からないけれど、そうなんだ」
「そうなんだよ。
それで、ドーラが俺たちの仲間になった以上、ドーラ用に何かアイテムが見つかるかもしれない」
「どういうこと?」
「俺たち、いろんなアイテムを今まで見つけてきたんだけど、メンバー個人個人にあつらえたようなアイテムを見つけてるんだよ。だから、ドーラにもってな」
「そうなんだ」
「そうなんだよ」
村はずれからゆっくり歩いて2時間ちょっとで駅舎のある町に到着し、駅舎の待合のベンチに二人で座ってエリカの実家のあるオストリンデン方面から乗合馬車がやって来るのを待った。
駅舎の待合には誰もいなかったので、地面に置いたリュックから取り出すふりをしてキューブからバナナの房を取り出し、2本バナナをもぎ取ってキューブにしまった。
「ドーラ食べるか?」
「うん」
ドーラと並んでバナナを食べ、バナナの皮は俺が受け取ってキューブから取り出した生ごみ用のバケツに入れてバケツごとしまっておいた。
「エド、そんなものまで持ち歩いてるんだ」
「ほかにもいろいろ持ち歩いている。
お腹が空いたら早めに言えよ」
「うん。他の食べ物も入っているってことだよね?」
「そういうこと。いろいろ入ってるんだけど、食べやすいものだとパンにハムと野菜を挟んだものがいいだろう。パンに焼いた肉を挟んだのもあるけどな」
「それってすごくおいしそう。昼になったらね」
「うん。
おっ、馬車が来たようだ」
「ホント。わたし乗合馬車って初めてなんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。俺だって大丈夫だったし」
「そうだよね」
乗合馬車がやってきたので、御者に今日行けるところまでの二人分代金を支払って俺たちは乗合馬車に乗り込んで二人並んで椅子に座った。
馬車の中の乗客は4人。4人とも行商人風で大きな荷物を抱えていた。ちなみに荷物がいくら大きくても馬車の代金は変わらない。これが他所の領だと追加料金がかかるのが普通らしい。この知識は以前エリカから聞いたものだ。さすがというかこういった知識はエリカが詳しいんだよなー。
3つ目の駅舎で俺たちの乗った乗合馬車は1時間の昼休憩に入った。
他の乗客たちが食事のため馬車を降りて駅舎の外に歩いて行ったが、俺とドーラは駅舎に残って待合のベンチに座ってサンドイッチを食べ始めた。
「これおいしい! パンがすっごく軟らかい」
「そうだろ」
「なんで?」
「焼きたてパンを使っているから。かな?」
「焼きたてって、これサクラダで作ったんでしょ?」
パンはサクラダのパン屋で買った焼き立てパンだけど、サンドイッチを作ったのはウーマの中だからサクラダで作った。で、いいのか?
「まあな。あの小箱って収納キューブって言うんだけど、あの中に入れておけば古くならないんだよ。だから、何日経っても作りたてのままなんだ」
「それホントなの?」
「ホント。あの黄色い果物もいつ採ってきたものか分からないし」
「そうなんだ」
「そうなんだよ」
「ねえ、エド、この中に塗ってある白いの、これなんて言うの?」
サンドイッチと同様にマヨネーズとは言えないし俺が名まえを勝手につけてもおかしいので、今までサンドイッチはパンに何それをはさんだ云々、マヨネーズは白いのと呼んでいたから今まで通り答えておいた。
「特に名まえはないから、白いのって呼んでる」
「これって、名まえなしで売ってるの?」
「それは売ってるものじゃないんだよ」
「どう言うこと? エドが作ったってこと?」
「俺が作ったわけじゃないんだけど、手に入れた? って感じ」
「よく分からないけれど、要するにダンジョンの中で見つけたって事?」
「そうではあるんだけど、そうでもないような。
実物見ればドーラも納得するよ」
「そうなの?」
「そう思うぞ」
「ドーラ、パンに肉と温野菜を挟んだのもあるけど食べてみる?」
「うん」
ショウユが手に入ったから焼肉のたれっぽいものを作ってみたんだよなー。ショウユに砂糖を入れて適当に香辛料を入れ、化学調味をパッパと振り、小型のフライパンで煮詰めたらそれっぽいのができたんだよ。それを牛肉にかけたら焼肉になっちまった。まさに大勝利! ということで俺がドーラに勧めたのは焼肉サンドだ。なお、一緒に挟んだ温野菜はキャベツ主体の野菜炒めだ。
「こーれもおいしいー! おいしいよー! 涙が出るくらいおいしいよー!」
なんだかドーラのイントネーションがおかしくなってきた。
「そうだろ? 俺が作ったんだ」
「エド、料理もできるようになったの?」
「そうなんだよ」
「そうなんだ」
ドーラもお腹いっぱいになったようなので、マグカップとか片付けて、発車までベンチでゆっくりしていた。
三々五々乗客たちが戻ってきて乗合馬車に乗り込んでいったので俺たちも乗り込んでしばらくしたら乗合馬車は鐘の音と一緒に動き始めた。
その日。宿場町で宿を取ったわけだが、当然ドーラと同室だ。
ドーラは俺の前で平気で服を脱ぎ始めた。だからと言って何も感じなかった。
それ系統の漫画とかアニメだと『お兄ちゃん』ラブラブ妹がよく登場するが、お兄ちゃんが好き。までは理解できる。だがしかし、ラブラブはあり得んな。そもそもお互い何も意識してないし。
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