第165話 帰省5
俺とドーラで、ドーラがサクラダに行くことを前提に話をしていたら、アルミン兄さんがうちに帰ってきたようだ。
俺とドーラは揃って1階に下りて行った。
「アルミン兄さん。久しぶり」
「エド、元気そうだな。母さんに聞いたがサクラダでトップチームなんだって?」
「まあね」
「それで、ドーラを連れていきたいとか」
「ドーラも外の世界が見たいって言ってたから」
「ドーラそうなのか?」
「うん。エドがサクラダでちゃんとダンジョンワーカーとしてやっていけるようになったら迎えに来てって約束してたんだ」
「そうか。反対する理由はないが」
「ありがとう。アルミン兄さん」
「しかし、エドがサクラダのトップチームねー。にわかには信じられないが。
どうだエド、俺と手合わせしないか?」
「いいけど、俺、昔の俺じゃないよ」
「あはは。ずいぶん言うようになったな。
それじゃあ、一勝負しよう。木剣と防具を取ってくる。エドの防具は?」
「部屋に置いてるから着けてくるよ」
木剣も防具もキューブに入っているけど。
2階の部屋に戻って胸当て、ヘルメット、手袋をして木剣を持って外に出たら、アルミン兄さんがもう支度をして待っていた。他に母さんとアンナさんもいる。
「エドの防具、立派だな」
「ダンジョンで手に入れた逸品なんだ」
「なるほど。ウソ偽りなくトップってことだな」
「そういうこと」
「俺も気を引き締めないと。ドーラ、審判してくれ」
「分かった。
それじゃあ行くよ! 見あって、見あって、始め!」
アンナさんも見ている中、アルミン兄さんのカッコ悪いところを長く見せるわけにもいかないと思った俺は、ドーラの『始め!』の声と同時に一気に前に出て、アルミン兄さんが反応する前に木剣の切っ先をアルミン兄さんののどもとに突きつけた。
「エド、1本!」
アルミン兄さんも目を丸くしていたが、審判のドーラを含め女性3人も驚いていた。
「エド。参った。お前、信じられないくらい強くなってるな。これなら大丈夫だ」
「うん。いろいろあってそれなりに」
実際は99.9パーセントレメンゲンのおかげなんだけどな。
みんな揃ってうちの中に入り、俺は2階に上がって防具を外した。ドーラは俺について来て俺のベッドに座った。
「エド、さっきのはびっくりしたよー。アルミン兄さん動けなかったもの。たった数カ月でものすごく強くなってたんだ。わたしなんかエドの動きが見えなかったもの。父さんより強くなってるんじゃない?」
「そうかもな」
「エドの仲間の人もエドぐらい強いの」
「うん」
「そんな中わたしみたいなのが入っていって大丈夫なのかな?」
「それは大丈夫。二人にはドーラのことをちゃんと話しているし、了承も取ってるから」
「それなら安心。わたしも頑張るから」
「うん」
俺のチーム、サクラダの星に入ってその気持ちさえあれば何とでもなるハズ。
「明日朝食を食べたら出発しようと思っているけれど、ドーラは誰かにあいさつしていなくていいか?」
「別に。でもクリス姉さんにひとことことわっておくかな」
そういえばクリスのことは忘れてたなー。俺ってある意味薄情だよな。
「エドはクリス姉さんに何も言わないでいいの?」
「特には」
「そう。まあ、そのほうがいいカモ?」
どういうことだろう。何か理由があるようなないような?
「クリスがどうかした?」
「別に何でもない。クリス姉さんは元気にしてるよ」
「それならよかった」
ちょっと引っかかるが、元気ならいいだろう。クリスのお父さんがうちの父さんと領都に行っているようだから村長代理のアルミン兄さんが様子を見に顔を出してるだろうし。
「それじゃあわたし、クリス姉さんのところに行ってくる」
そう言って、ドーラは部屋から出て行った。
今日の夕食は何か分からないけれど、素朴な田舎料理なんだよな。キューブの中には色んな食材の他化学調味料の瓶も入っている。母さんに使い方を教えて渡してもいいんだけど、いつも届けられるわけじゃないから止めておいた方がいいだろうな。
サクラダにやって来るドーラには隠し事はできないから何でも教えてやるけれど。
そうだ。今さら出すのはちょっとおかしいけれど、バナナの房を何個か下に持って行ってやろう。そんなに長持ちはしないだろうから3房もあればいいか。
俺はキューブからバナナの房の塊りを取り出して、一緒に取り出したナイフで塊りから3房外してキューブにナイフと一緒に戻しておいた。
そのバナナを抱えて1階の居間に入って行き台所仕事をしている母さんの後ろ姿に向かって。
「ダンジョンで見つけたおいしい果物を持ってきているから、テーブルの上に置いておく。適当に食べて」
母さんが振り向いて。
「あら、変わった果物。これどうやって食べるの?」
俺はバナナを一本房から手で取り外し、皮をむいて見せた。
「こうやって皮をむけばいいんだよ」
そして、それを母さんに渡した。
「食べてみて」
「……。なにこれ! 何とも言えない食感だけど、甘くてすごくおいしい。
ダンジョンにこんなものが生っているなんて、母さん全然知らなかった」
「ほとんどの人は行けないようなところに生っているから、出回ることはまずないと思う」
「じゃあ、貴重なんだ」
「全然貴重じゃないから気にしないでいいけど、そんなに日持ちしないかもしれないから、もったいないとか考えず、早めに食べた方がいいよ」
「分かった」
夕食は、予想通り田舎の夕食だったけれどいつもよりも豪勢だった。
そんなことより、父さんはいなかったし、二人の兄さんはいなかったけれど、家族で久しぶりに食べた夕食は温かくておいしかった。
ドーラは夕食が終わったらバナナを2本ほど持って自分の部屋に戻って行き、サクラダ行きの支度の続きを始めた。ドーラはリュックを持っていなかったので俺の買い物用のリュックを渡してやった。
「エド、わざわざリュックまで持って帰ったの?」
「ドーラはリュックを持ってないだろうと思ってな」
「気が利くなー」
気が利くも何も、何でもキューブに入れているからだけなんだけどな。
「そういえば、水袋、家に予備あったかなー?」
「水袋は要らないから」
「どうして?」
「そのうち詳しく話すけれど、水の入った筒を持ってるんだ。それからコップに水を注げばいいから」
「それをエドは何個も持っているの?」
「いや、一つだけ」
「そんなので足りるの?」
「心配しなくても足りるから、大丈夫」
「フーン。そうなんだ」
「そうなんだよ。それで、明日のお弁当は今日中に作っていた方がいいわよね?」
「それも大丈夫。俺が用意するから」
「ねえ、エド。いろいろ不思議なことばかりなんだけど」
「そうかもしれないな。あした家を出たらおいおい話してやるよ。ドーラは俺たちの仲間なんだしな」
「そういえばそうだったんだ。ちゃんと話してよ」
「話してもやるけど、話すより見せた方が早いのは確かだから、それはサクラダに着いてからだな」
「分かった」
そして翌日。
朝食を食べ終え、旅支度を整えたドーラを伴って俺は家を出た。
門のところまで家族全員、といっても母さんとアルミン兄さんとアンナさんの3人だったけれど、その3人に見送られ俺とドーラは村の外れまで歩いて行き、一度そこで村を振り返りそして駅舎のある町まで歩き始めた。
クリスが見送りに来てくれるかも? と、少しだけ期待していたのだが、クリスの姿は見えなかった。ドーラがあいさつに行ったんだから俺とドーラが村から出ていくことは知っていたハズ。昨日のドーラの話が関係あるのかも?
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