第164話 帰省4


 お土産のお菓子をアンナさんが入れてくれたお茶を飲みながらみんなで食べた。

「エドの部屋はそのままだけど、あとでシーツの下のワラを代えておいてあげるから」

「母さん、別にいいよ。ほんの数カ月しか経ってないんだから」

「でも代えた方がいいんじゃない? というかエドはいつまでうちにいるつもりなの?」

「ドーラ次第だけど、早めにサクラダに戻ろうと思ってる。

 ドーラはどう?」

「アルミン兄さん次第だけど、アルミン兄さんがサクラダ行きを許してくれたら、今日中に用意は終わるから、明日にでも家を出られる」

「じゃあ、俺は1泊だな」

「分かった。引き留めても仕方がないからね」


 お茶を飲み終えて俺は荷物を持って2階の自分の部屋に入った。ドーラも俺のあとを付いてきた。

 俺は荷物を置いてベッドに腰を掛けたら、ドーラは俺の隣に座った。


「アルミン兄さん、わたしのサクラダ行き許してくれるかなー?」

「世の中絶対はないけどアルミン兄さんなら、許してくれると思うぞ」

「そうだといいな。

 それはそうと、ダンジョンの中ってどんなところなの?」

「まず変わったところというと入り口は黒い渦なんだ。そしてその渦を抜けると洞窟っぽい空洞に出るんだよ。その空洞からも渦が見えるからその渦を抜けると元の場所に戻れるんだ。

 それで、その空洞から四方八方に坑道が伸びていてその中の1本が下の階層に下る階段につながってるんだ。

 あと変わったところというと、ダンジョンの中には日の光は入ってこないんだけど、ダンジョンの岩壁とか天井からわずかに光が出て真っ暗じゃなくって歩くくらいなら問題ないくらいの明るさがあるんだよ」

「フーン」

「まっ、見れば一目瞭然だけどな」

「うん。そういえば、エドはサクラダ一のチームって言ってたけどどうしてそんなことがわかるの?」

「それはな、今までどのチームも敬遠してた階段前のモンスターを俺たちでたおしたからなんだ。それでその先の階層に進んだんだ。おそらく俺たち以外誰も俺たちが普段いる階層にたどり着いていない」

「そんなにすごいんだ」

「そんなにすごいんだよ。ドーラの場合、モンスターと戦う必要はないけど、一応俺のチームの一員として俺たちに付いてきてもらう」

「モンスターって、たくさんいるの?」

「そんなにはいないんだけど、それなりにはいるな。モンスターをたおして持ち帰るのがダンジョンワーカーの主な仕事だし。俺のチームはモンスターをたおすというより、もっと他のことで儲けてるけどな。さっきの水薬とか」


「ふーん。ねえ、エド。さっきから俺のチームって言ってるけど、名まえとかあるの?」

「よく聞いてくれた。俺たちのチームの名まえは『サクラダの星』。そして俺がそのリーダーだ!」

「何それ」

「最初のころは名まえ負けしてた感じは確かにあったが、今は名まえ通りのチームだから安心しろ」

「それで、エドの『サクラダの星』はエドの他に女の人が二人だけの3人チームなんだよね?」

「3人チームなんだけど、あと仲間が一人と一台? いや2台?」

「何それ?」

「ダンジョンの中で見つけた女性型のカラクリ人形とクモの形をしたカラクリ? それにカメ」

「カラクリ人形にカラクリクモにカメ?」

「見ればわかるから」

「ねえ、エド、本当に大丈夫なの? ちょっと心配になってきたんだけど」

「俺たちに任せておけば、全然心配ないから」

「そんなので、いいのかなー?

 それはそうと、わたしはサクラダに何を持っていけばいい?」

「下着と着替えくらいだな。あとの物は向こうで買えばいいだけだし」

「エド、そんなにお金持っているの?」

「持ってる。はっきり言って使いきれないほど持ってる」

「ウソ!」

「ウソじゃないから」


「そんなにダンジョンワーカーって儲かるものなの?」

「俺たちはサクラダ一だから儲かるけど、普通のダンジョンワーカーだと俺たちほどは儲けられない。だけど新人でも普通に食べていく分には問題ないくらいには稼げる」

「そうなんだ」

「そうなんだよ」


「ねえエド、さっきから気になってるんだけど、その左手の真っ黒い指輪と右手の銀の指輪って何?」

「どっちもダンジョンで見つけた指輪なんだけど、黒い方は俺も何だかわからない。試しにはめたら抜けなくなってしまった。最初は銀色だったんだけど少しずつ黒くなってきてこんなに成ってしまった」

「ホントに抜けないの?」

「ホント」

「そうなんだ」

 そう言ってドーラが俺の左手の中指の真っ黒い指輪に手をかけて引っ張ったけど回るものの前後には全く動かなかった。

「抜けないだろ?」

「抜けなくてだいじょうぶなの?」

「慣れたからな。

 それで、こっちの銀の指輪はさっき話したクモのカラクリの所有者の証。ってところだ。こっちは抜けるんだけどな」

「ふーん。そうなんだ」

「そうなんだよ」


「ねえ、エド。エドのその剣抜いてみてもいい?」

「いいけど気を付けなよ。よく切れるからな」

「うん」


 ドーラはベッドから立ち上がってリュックの上に置いていたレメンゲンを鞘から抜くため両手で持ち上げようとしたのだが。

「エド、わたしの力じゃ持ち上がらないんだけど。これってホントに剣なの?」

「ダンジョンで見つけた剣だからいろいろおかしなところがあるけどな」

 俺はそう言ってベッドから立ち上がってレメンゲンを左手で持ち上げ、右手で鞘から引き抜いた。

「片手で簡単に扱えるんだ」

 気付けばドーラが俺の尊敬のまなざしで見ているではないか。もう10年以上この顔を俺は見ていなかった。


「うわー、剣が真っ黒。こんなのでホントに切れるの?」

「よく切れる。相手が剣でも簡単に切れる」

「うそ」

「ホントだから。

 ドーラもダンジョンワーカーに登録したら立派なダンジョンワーカーだ。装備がないってわけにはいかないからドーラの装備を用意するけど、防具は普通のものを用意するとして武器は何にする?」

「うーん。剣は正直厳しいし。何がいいかなー。何がいいと思う?」

「そうだなー。ドーラが戦うことは基本的にないから、何でもいいわけだし、軽いものがいいだろうな。

 となると、短剣くらいかな。どうしても刃物が嫌ならメイスくらいしかないけどメイスはある程度重いだろうしなー」

「戦うことがほとんどないのなら何でもいいけど、どこかの武器屋に行くんだったらそこで良さそうなものを探してみる」

「じゃあそうしよう。

 ところでドーラ。ダンジョンの中に入ったら何時間も歩くことになるけど大丈夫か?」

 レメンゲンの力があるとはいえまるっきし体力がないようでは連れ歩けないものな。

「どれくらい歩くの?」

「朝からだいたい2時間歩いて10分休んで2時間歩く。そこで昼1時間休憩。午後からも2時間歩いて10分休んで2時間歩く。そんな感じだ。

 今は毎日じゃないんだが、これができないようだと家で留守番、文字通り家事だけということになる。そうなるとドーラ一人を家に置いておくことになるからちょっと心配ではあるな」

 それにウーマの施設ふろを使わせてやりたいし。

「8時間も歩けるかどうかは正直分からない。でも頑張ってみる」

「もしドーラがダンジョンワーカーじゃなくって何かやりたいことがあるならそれでもいいんだけどな」

「特に何がしたいわけじゃないんだー」

「いちおうダンジョンワーカーでやってみて、どうしてもだめなら、そこで何か考えてもいいしな」

「うん」

 レメンゲンの力があるから、ドーラもついてこられないことはないだろう。もし、途中で動けなくなったらペラにでもおんぶさせればいいわけだし。

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