第134話 柱2


 時刻は午前9時。予定では引き返す時間だったのだが、柱の根元に洞窟の入り口のような穴が見つかったため、その穴を調べるため穴の前でウーマを止めた。


「今の時刻はだいたい午前9時。最初に考えていた引き返すタイミングなんだけど、このまま帰らずこの柱を調べることでいいよな?」

「うん」「はい」


「分かった。

 それで、穴はウーマでも入れなくはなさそうだけど、ここからは歩いた方がいいと思わないか?」

「そうね」「そうですね」


「じゃあ、装備を整えよう」


 各自が防具と武器を身に着け、サイドハッチの前に集合した。

 いちおうペラ以外の3人はリュックを背負っている。俺のリュックの中にはもちろん自動地図が入っている。


 ペラは装備を持っていないので今まで通り俺のだぶだぶの服を着ただけの格好だ。何かあれば服はダメになるのだろうが、ペラ本人に何かが起こるとはとても思えない。


 ウーマに脚を畳んでもらい、ハッチを開いて俺たちはウーマから地面の上に飛び降りた。ウーマには元のカメの大きさに戻ってもらい俺たちに付いてくるよう伝えた。


「ウーマが元の大きさに戻るのを始めてみたけど、すごく不思議だよね」

 不思議は不思議なんだが、特撮でもないので目がウワーって成るんだよ。


「それじゃあ、中に入って行こう。フォーメーションは俺とエリカが先頭。その後ろをケイちゃん。そしてウーマ。最後がペラだ」

「「了解」」

 ウーマは頭を上下した。


出発しゅっぱーつ!」


 けっこう幅も高さもある入り口の穴を通り抜けるとその先は通路状に真っすぐ伸びた坑道のようになっていて歩きにくいわけではなかった。ただ、坑道には色んな所にでっぱりがあり、ウーマでの通行は無理そうだ。

 床も含めて穴の内壁の材質はどうも木のようで、ところどころには苔のようなものが生えている。


 穴の中もダンジョンの坑道と同じようにわずかな光で照らされているようで完全な暗闇ではなかった。従って夜目の効く俺たちにとって何の支障もなかった。ペラもウーマも支障ないようだ。


 前方に目を凝らすと明るい点が見えているのだが、その点はこの穴の出口なのだろう。そして明るいということは、穴の先には光源があるということだ。


 先は見えたが俺ははやる気持ちを抑えて歩調を変えることなく歩いていった。


 穴に入って10分。約1キロ歩いたところで穴を抜けた。


 抜けた先には明るい大空洞が広がっていて、熱帯雨林的な原色のジャングルが広がっていた。

 見上げると、数百メートル上に天井が見えた。明かりはその天井が陽光と同じような光を放っているからだった。


「柱の太さから言って、この空間は差し渡し60キロ近くあるんだろうな」

「うん。そうだよね」

「どうします?」

「樹木がうっそうと茂り過ぎているから森の中に入っていくのは難しそうだなー」

 道でもないか見回したがそんなものはなかった。ただ壁?と森との間には何も生えていないむき出しの地面が幅20メートルくらいある。


 20メートルもあれば十分ウーマで移動できる。

「ウーマに乗って壁に沿って一周してみないか? 何か分かるかもしれない」

 直径60キロ弱となると1周は180キロ。時速30キロで6時間。けっこうな距離だ。


「うん」「はい」「了解」

「ウーマ、乗り込むから大きく成ってくれくれ」


 大型化したウーマは脚を折りたたんで搭乗体勢を取ってくれた。


 サイドハッチを開けて俺たちはウーマに乗り込み、改めてウーマに壁に沿って歩いて行くように指示を出した。


 ウーマが歩き始め、ペラは前の方に立って前方を警戒。俺を含めた他の3人は防具などを片付けてスリットから前方を眺めた。


 生前の第2次大戦ものの小説などの知識から、ジャングルというと、食料になるような木の実や果物は手に入りにくいのとか思っていたのだが、バナナっぽい実とか、パパイヤっぽい実が生っているのが見える。せっかくだったので、目に付いたおいしそうに黄色く熟れたバナナの房を2つ3つキューブに収納しておいた。

 探せばイモなんかもありそうだ。


 それに加えて、妙な鳴き声なども聞こえる。鳴き声をほとんど出すことのないモンスターではなく動物がそれなりにいそうだ。極彩色の鳥も飛んでいる。水場は今のところ見ていないが、この空間で十分自給自足できそうだ。


 エリカとケイちゃんにはソファーで寛いでいてもらい、俺はだいぶ飽きてきたのだがペラと一緒に前方を注視し続けた。

 リーダーとして。

 

 俺がリーダーであろうがなかろうが、単調な景色は変わるはずもなく。結局昼近くになってもなんの変化もなかったので昼食を摂ることにした。


 30分ほどウーマを止めて4人で食事し、それからウーマに移動を再開させた。

 午後から10分ほど移動したところで壁に沿って下から上に斜めに伸びていく線模様が見えてきた。

 何だろうと思っていたら、地面から壁に沿っての上り階段だった。



「階段がある」

「幅が2、3メートルしかないわ」

「上るなら徒歩ということですね」

「今回は登らず壁際の一周しよう。想像だけど階段を上った先にはここと同じような空洞階層があって、その先にも無数に同じような空洞階層があるんじゃないかと思うんだよな」

「あり得る」

「ですね」




 階層間の空気が繋がっていたら、100キロも上の方に行けばほぼ真空に成ってしまう。各階層を行き来する階段の出口にはエアロック式の気密室みたいなのが必要だよな。そこまで上る気はないけれど。

 階段の幅が2、3メートル。むき出しで手すりも何もない階段を数百メートル上っていくのはちょっと怖いぞ。俺、高所恐怖症って程じゃないけれど、高いところが得意ってわけじゃないからな。

 エリカとケイちゃんの顔を見る限り二人も高いところが苦手な感じではない。


 階段の登り口の手前でウーマをいったん止めていたのだが、今回はここまでとして、次回挑戦でいいだろう。


 自動地図で確かめたところ、思った通りこの階段の位置は柱の中に入ってきた穴の真向かいに位置していた。もう3時間壁に沿ってウーマを歩かせれば穴まで戻ることができる。

「今回は、ここまでにして帰ろうか」

「そうね」

「ペラの服とか用意が必要ですし」

 

 壁に沿ってのウーマの移動を再開し、そこから約3時間かけて穴まで戻った。俺たちはそこでウーマから降り、ウーマは小さくなった。

 10分間の移動だったので今は装備を身に着けず普段着のままだ。

 フォーメーションは、俺が先頭で、ペラが最後尾。その間は自由とした。



 何事もなく10分ほど歩いて穴の外に出た。ウーマを大型化して俺たちは乗り込み、ウーマには12階層への階段下まで戻るよう指示を出した。

 ここから12階層への階段まで距離的には720キロ。時速30キロで24時間丸1日。何事もなければ明日の午後4時過ぎに到着できる。


 ……。


 それから丸1日。ウーマは止まることなく歩き続け、前方に12階層への階段口が見えてきた。


 時刻は午後5時少し前。


 階段下にウーマを止めてそこで1泊し、明日の早朝からギルドを目指すことにした。


 この階層が円形で、あの柱がこの階層の真ん中に立っていたとすると、この階層の直径は1500キロということになる。面積的には176万平方キロ、日本の面積の約4.6倍の広さになる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る