第132話 炊飯2


 米を水に浸している間お茶でも飲んでいようということになり、お茶の用意をしてペラも呼んで食事用テーブルで休憩した。

 見張りのペラを呼んだが、30分くらい進む間に障害物はないという話なのでウーマはそのまま歩かせた。


 お茶菓子はクッキー。バターはあるのであと玉子とミルクがあればこういったものも作れるのだろうが残念ながら食糧庫の中にはそういったものは見当たらなかった。


 クッキーを食べお茶を飲んだペラは、早々に席を立って見張りの定位置の戻った。責任感が強いようだ。有能なうえ責任感がある部下は部下として最高だ。上からの指示を確実にこなすことを最優先としてその通り実践できる能力こそ、管理職が部下に求める能力だ。自分で考えるのは管理職になってからで十分だし、指示を確実にこなす人間は自分の中でちゃんと考えて自己完結しているので管理職となってもそつなく職務をこなす。そういうものだ。


 俺の勝手な組織論はいいとして、お米を水に浸す1時間にはまだ30分は余裕がある。その間に、ご飯がうまく炊けた後のおかずを作ることにした。


 おかずと言っても和食風のものは何もないので、キャベツとベーコンをキューブから取り出して野菜炒めを作ることにした。


「エド、今度は何を始めたの?」

「野菜炒めを作っておこうかなと」

「まあ、いいんじゃない。心置きなく料理すれば」


 エリカも野菜炒めには興味はないようで、一度台所に立った俺のところにやってきたが、またテーブルに戻った。


 まな板の上でキャベツをザクザクと切り、次にベーコンを薄めにスライスしてさらに小さく切って準備完了。


 フライパンを加熱板の上に置き、フライパンが熱くなったらに油を垂らしてよく広げ、ベーコンを先に入れ、火が通ったところでキャベツを投入した。

 キャベツとベーコンを木のヘラで混ぜるように炒めていきキャベツに火が通ったところで塩コショウして出来上がり。フライパンを握る手や、ヘラで混ぜ合わせる手つきがサマになっていることが自分でもわかる。

 出来上がった野菜炒めは大皿に移してキューブにしまい、フライパンはスポンジを使って流しで良く洗っておいた。この時フライパンになじんだ油が飛ばされないよう洗剤?は使っていない。

 昔の俺ならそんなこと気付けなかったけど今の俺は気付けるんだよな。


「そろそろいいかな?」

「いいんじゃないですか」

 ケイちゃんのオーケーをもらった俺は水に浸したお米を入れた鍋を加熱板の上に置き、火力を『弱』にした。ちょっとだけフタを開けて中を見たら、水を吸ってかお米が真っ白になっていた。成功の予感がする。


 フタをちゃんとして沸騰するまで待ち、そこから火力を『強』そして『弱』、最後に停止と1回戦目と同じに火加減を調節した。

 火を落として10分。台所の中はご飯のいい匂いでいっぱいだ。換気口から加熱板を止めてもしばらく音がしていたが今は止まっている。


 エリカとケイちゃんが見守る中、鍋のフタを取った。

 真っ白なお米が立ってる!

 それではお味見。フォークですくってフーフーして口の中に入れホッホして咀嚼。

 うまい。うまいぞ。

「エド。涙流してどうしちゃったの?」

「いや、何でもない。何でもない。成功だ!」

「よく分からないけど、おめでとう」「エド、おめでとう」


 高々15年ぶりのご飯。そんなもので涙が出るとは思わなかった。

 袖口で涙をぬぐって。

「二人とも食べてみるだろ?」

「「もちろん」」

 小型の深皿を4つ食器棚から取り出し、大型の木のフォークで鍋からご飯をよそっていった。4膳よそったら鍋の中は空になってしまった。きれいに鍋の中をさらって流しのシンクに入れて水を入れておいた。


 ご飯とカトラリーをエリカとケイちゃんがテーブルに運んでくれたので、俺はさっき作った野菜炒めを小皿4枚に盛った。小皿はエリカたちが運んだくれたので、俺は野菜炒めの大皿をテーブルに運んだ。


 再度ペラを呼んで夜食だ。

「それじゃあいいただこう。いただきます」「「いただきます」」


「おいしい。この白い麦、野菜炒めにピッタリ」

「おいしいです」


 うん。おいしい。おいしいぞ。箸で食べたかったが、フォークでも問題はない。

「ペラ、どうだ?」

「なつかしい味がします」

「ペラはこれを知っていたのか?」

「はっきりとは覚えていませんが、昔食べたことがあるるような気がします」

「ほう。それはそれで興味深いな」

 ペラは何とか帝国で作られたそうだが、そこでは稲作があったということか。うらやましい。


 みんな残さず食べ終えたところで「「ごちそうさまでした」」

 夜食だったが、結構な量だった。運動していないので太る可能性もあるが、この程度は問題ないだろう。そういえば体重計が欲しいな。アレってあると少しは食べる量とか考えるんだよな。


「ペラはご苦労だがまた警戒に戻ってくれ。俺たちは後片付けをしたらそろそろ寝るから」

「はい」

 ペラが席を立ったところで俺たちも席を立ち、後片付けをして寝室に移動し、各自のベッドに横になった。

 横になったのはよかったのだが、あまりにベッドがフカフカで驚いてしまった。

 エリカなどは素っ頓狂な声まで上げていた。


 これでちゃんと寝られるのかと思って目をとじたら、知らぬ間に眠っていた。



 翌朝。


 目覚めた。時刻はおそらく4時過ぎ。俺はあまり音を立てないよう朝の支度をしていたのだが、やはり二人に気付かれたようで二人を起こしてしまった。


「「ふたりともおはよう」」「「おはよう」」

「ベッドがフカフカ過ぎて眠れないんじゃないかって思ってたんだけどよく眠れたわ。ウーマだけのことはあるわね」

 なんでもウーマのおかげだな。


 二人が朝の支度を寝室の中で始めたので俺は早々に寝室を出て不寝番をしてくれていたペラのところに行った。


「ペラご苦労さん。どうだった?」

「異常はありませんが、2度ほどウーマは湖を横断しています」

「そうか」

 カメだから水陸両用だったか。普通の陸ガメは泳げたとしても得意そうではないが、ウーマのことだから陸ガメ形態でもすいすい泳いだんだろう。ウーマだし。


「ペラ、湖の中を少しは見た?」

「はい」

「魚はいたみたいだったか?」

「はい。いました」

 ほう。それはそれは。


 スリットから前方のシルエットを見たところ、濃くなっている。だいぶ近づいてきたということだろう。この調子なら9時には到着できるかもしれない。


 夜食を腹いっぱい食べた関係で食欲はなかったが、することもないので朝食の準備を始めることにした。昨夜の野菜炒めとスープ。それにパン。これだと代り映えがしないので、パンはフライパンで焼いて焦げ目をつけトーストにすることにした。

 焼き上がったパンは平皿に盛って皿ごと収納し、更にパンを焼いていく。

 かなりの量のパンを焼き終え、食糧庫から持ってきたバターを使いやすそうな大きさに切って小皿の上に置き、その小皿をテーブルに置いておいた。バターと一緒に持ってきたイチゴジャムとハチミツも小皿に入れて一緒に置いておいた。


 朝の支度が終わったエリカたちがやってきたので、朝食を食べられるかと聞いたところ、まだ昨夜の夜食がもたれているので、あと2時間くらい後でいい。と、言われた。俺もそれでいいので「了解」と答えておいた。


 そのあとエリカたちがソファーに座って寛いでいたので、俺はペラの隣りに立って前方を警戒するわけでもなくただ眺めていた。

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