第131話 炊飯

[まえがき]

2024年8月14日7:50。ウーマの風呂場の給湯ライオンですが、給湯ガーゴイルに修正しました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 傾斜がきつくなってきたのでそろそろ左右どちらかにウーマを方向転換させようかと思っていたら前方に洞窟の入り口が見えてきた。

 ウーマでも余裕で中に入っていけるほどの大きな入り口だったのでウーマで行けるところまで行こうということになった。

「ウーマ、前進」


 ヘッドライトがあるわけではないので、巣窟内は真っ暗になるものと思っていたのだが、ダンジョンの坑道同様岩壁が薄っすらと発光しているようで夜目の効く俺たちにとって洞窟内の暗さは支障にならなかった。


 洞窟内に入って100メートルほどはダンジョン内の坑道と同じような岩肌の路面だったが、その先は敷石で舗装され、壁も石造りの坑道というか舗装トンネルになっていた。



「どう思う?」

「ダンジョンの中のダンジョン?」

「だとすると、モンスターが現れるかも?」

「前方にモンスターが現れたとして、ウーマが蹴散らしそうだけどな」

「確かに。

 蹴散らさないにしても、ウーマの前進を止められるとは思えないし、ウーマの甲羅が壊れるとも思えないから無視してもいいんじゃない?」

「だな。

 ペラは前方をよく見て何か現れたら知らせてくれ」

「はい」


 前方警戒はペラに任せて俺たちは後方に下がり、食洗器に入れていた食器類を食器棚に片付けたりした。


 そのあと、やることもなくなったのでソファーに座り雑談をしていた。


 洞窟にウーマが侵入して2時間ほど経過して時刻はだいたい19時。

 見張りをしていたペラがソファーのところまでやってきた。

「マスター、もうすぐ洞窟の出口のようです」


 山並みを横断したのか。洞窟内でもウーマの速度は落ちていなかったはずなので2時間だと60キロ進んでいる。けっこう距離があったようだ。


 俺たちは前の方に行き、スリットから前方を眺めたら確かに出入り口が明るく開いてそれが近づいて来る。

 舗装道路も終わり、また路面や周囲の壁が岩肌になって100メートルほどでウーマは洞窟を抜け、そこでウーマを一旦停止させた。

 トンネル内を移動中は気付けなかったがトンネルは進行方向に向けわずかに傾斜していたようでウーマの位置は標高で言うと500メートルくらいありそこから見た下界は森あり草原あり、ところどころに湖もある大平原で、はるかかなたにあのシルエットが見えた。


 ただの勘だが、あのシルエットは俺たちが見て先ほど抜けた山並みで囲まれているような気がする。左右を見た感じ、階段下で空間の壁を見た時と同じように山並みははるかかなたまで続いて空と同じ空気の中に溶け込んでいた。


 この感じからして、シルエットの位置は300キロではなく500キロは近くありそうだ。

 今回帰還時刻から逆算したUターン時刻は明日の午前9時。今から14時間ある。

 時速30キロで進んで420キロ。500キロには足りないが、行けるところまで行って時間が足りないならエリカたちと相談して1日行程を伸ばしてもいいだろう。


「このまま、あのシルエットに向けて進んで行こうと思うんだけど、どう思う?」

「アレって何なの?」

「全然分からないけど、なんかすごそうだから見に行ってみたいと思わないか?」

「うん、行ってみよう。すごいお宝があるような気がするわ」

「ケイちゃんは?」

「行きましょう」

 スペクタクル+お宝=ロマンだものな。あのシルエットのどこかに女神像がありそうだし、下の階層に続く階段もありそうだ。


「それじゃあ、ウーマ。前方のシルエットに向けて出発!

 ペラは引き続き前方警戒を頼む」

「はい」


 前方警戒をペラに任せ俺たちはいったんソファーに戻った。

 ウーマのおかげで食住が満たされて、ペラのおかげで自由時間も増えてしまった。


 今日はほとんど歩いていないし、明日になっても徒歩での移動がない以上、疲れる要素が全くない。これからが午後10時くらいまで起きていなととんでもなく早く目が覚めてしまいそうな気がする。


 ということで俺は寝るまでの3時間を炊飯の研究に費やすことにした。

「ちょっと試したいことがある」

 そう言ってソファーを立って食品倉庫に入って行き、コメの入った麻袋を一袋キューブに入れて台所に移動した。


 エリカとケイちゃんも俺と同じで暇なので俺の様子を見ようと台所にやってきた。

 いちおう興味はあるのだろうが俺の邪魔をしないようにエリカも何も俺にたずねずに俺を見ていた。


 まず中鍋の中にティーカップで3杯分の米を麻袋から移した。

 流しのシンクで鍋に水を入れてお米を研いで研ぎ汁を流し数回同じことを繰り返したら研ぎ汁がほぼ透明になった。

 水加減は上から手のひらを入れて手の甲が水で隠れるくらい。だったような。

 鍋にフタをして加熱板の上に置いた。火加減は初めチョロチョロ中パッパ。赤子泣いても泣いてもフタ取るな。だったはず。何かが足りないはずだが、それは研究開発の過程で明らかになっていくだろう。

 

 まず初めチョロチョロだが、ここから分からない。どこまでチョロチョロなんだ?

 いちおう沸騰するまでチョロチョロと考えるくらいしか思いつかないのでその線で加熱板を『弱』にセットした。

 それから10分ほどじっと待っていたら何とか沸騰し始めた。

 懐かしいご飯の匂いだ。

 そこから加熱板の火力を『強』にセットした。中パッパだ。そうしたら、すぐに水蒸気と一緒にフタの脇から泡が噴きこぼれてきた。さてこれから俺はどうすれば?


 このまま『強』を続けていたら確実に焦げてしまう。

 と思って見ていたら、噴きこぼれが収まり、水蒸気だけがフタの脇から吹き出始めた。

 ここで火を『弱』にして水蒸気の量が少なくなって落ち着くのを待てばいいだろう。

 炊き始めてまだ20分くらいしか経っていないのだが、水蒸気の量も落ち着いてきたので加熱板を止めた。

 ここでフタを取ってしまうと、おそらく失敗する。蒸らし行程があったはず。これこそが『赤子泣いても泣いてもフタ取るな』だろう。

 10分ほど蒸らしたあと、鍋のフタを取った。

 いい感じに炊けているじゃありませんか。

「それ何?」

「穀物だから鍋で炊いたらどうか試してたんだ。おいしそうだろ?」

「いい匂いだけど、おいしいの?」

「ウーマの中にあったものだからおいしいんじゃないか?」

「そうか。おいしくないものがウーマの中にあるはずないわよね」

「うん。

 それじゃあ試食してみよう。熱々だから木のフォークだな」

 鍋から直接木のフォークですくってフーフーしてから口に入れた。

 口の中でホッホして咀嚼したところ、ご飯つぶの真ん中に芯があるではありませんか。

 明らかな失敗。

「どう? おいしい?」

「いや。失敗したようだ。見た目はいいんだけど、中に芯ができてうまく火が通っていない」

「それならもう一度火にかけたらどう?」

「多分ダメだと思う。何が悪かったかなー?」

「洗ったあと、水に浸けて十分水分を吸わせた方がよかったんじゃないでしょうか?

 大麦を炊くとき水にしばらく浸けていますから」

「ほう。これはもったいないけど捨てて、それを試してみよう」(注1)

 

 鍋の中から大きな木のスプーンを使って失敗したご飯もどきを流しのディスポーザーに捨てて鍋の内と外を良く洗い、再度カップ3杯の米を入れた。

 よく研いで水をさっきと同じだけ入れてからフタをして調理台の上に置いておいた。

「どれくらい浸けて置けばいいかな?」

「大麦だと夏は30分くらい。冬だと1時間は置いています」

 ほう。季節調整までするのか。奥が深い。

「短いと失敗しますが、少々長くても失敗しませんから念のため1時間置けばいいんじゃないでしょうか」

「お茶でも飲んで待っていようか」

「そうね」「はい」



注1:

芯ができてしまったご飯はおかゆくらいにはなるそうです。

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