第126話 風呂と倉庫
食べにくくはあったが昼食を応接セットで摂った。
食べ終わったとき、ペラは「ごちそうさまでした」と言って見張りに戻っていき、ウーマは移動を再開した。
エリカとケイちゃんがペラの後ろ姿を眺めていた。
俺たち3人は食器類を流しに下げて簡単に水洗いしたあと、食洗器に並べていき、引き出しを閉じたら食器洗いが始まった。楽しい。文明の利器に接することがこんなに楽しいことだとは思わなかった。
食洗器は15分ほどで停止したので、ここにあった食器は食器棚に、俺が持ち込んだ食器はキューブに収めておいた。
「それじゃあ、洗濯試そうよ」
「何を洗おうか? 着替えは持ってきてるけど下着も着替えていないから何もないんだよなー」
「わたしも」
「わたしもです」
「何もないなら、お風呂に入らない?」
「それはいいですねー」
えっ! 二人でホントにお風呂に入っちゃうの? 俺どうすればいいの? 山に芝刈りになんていけませんヨ!?
「二人はどこで服を脱ぐつもり?」
「お風呂の中で脱いで、脱いだもののうち洗わないものはカゴの中、洗うものは箱の中に入れるから」
「それならそれでいいけれど、お風呂のお湯の入れ方は分かる?」
「ガーゴイルに向かってお湯を入れてくれって言えばいいんじゃないかな?」
「そうだと思う。他もそんな感じでいけるだろうから」
「わかった。それじゃあケイちゃん行こ」
「はい」
二人は自分のリュックの中から着替えとタオルを取り出し、風呂場の入り口横の棚からカゴを持って風呂場の中に入っていった。
すぐにお湯が湯舟に注がれる音がしてきたので順調のようだ。
風呂場の前で風呂場の中の情景をいつまでも想像していても仕方ないので、俺はペラの立っている居間の先に行って警戒することにした。
「ペラ、どんな感じだ?」
非常に漠然とした問だったがペラはちゃんと答えた。
「特に異常はありません。雨はやや小降りになってきています」
「了解。引き続き警戒してくれ」
「はい」
それだけペラに指示を出したらやることが無くなってしまった。
雨に煙る外の景色を見ても何も変化がない。
と思っていたのだが前方にやや大きな灌木が見えてきた。まっすぐウーマの進路上に立っている。その灌木がどんどん近づいてくるのだがウーマは全く方向転換しない。
マズくないか? とか思って見ていたらウーマはその灌木をなぎ倒してしまった。
あまり音もしなかったし、振動なども全くなかった。ということはこれまでも相当数の灌木をなぎ倒しているようないないような?
「ペラ、さっきウーマが木をなぎ倒しただろ?」
「はい」
「いままで何度もああいったことがあったのか?」
「はい。申し訳ありませんが数は数えていません」
「別に数えなくてもいいから気にしないでくれ」
「はい」
ウーマはおおらかなブルドーザーだった。と、思えはいいだけ。大したことではない。どうせダンジョンの中だから2、3日すれば元通りなんだし。
俺はソファーに戻ってなんとなく風呂場を気にしながら座っていたら、二人が風呂から上がってやってきた。もちろん二人とも下着姿ではなくちゃんと上下を着ている。その代り頭にタオルを巻いていた。
「風呂場の入り口の棚の向かいの筒に向かって『暖かい風』とか言えば温風が出てくると思うから頭を乾かせばいいよ」
そう言ったら、二人して温風機の前に立って髪を乾かしていた。けっこう強い風が吹いているが、ファンが回っているわけではないので、われわれは宇宙人だ。は、無理そうだった。
髪を乾かした二人が帰ってきてソファーに座った。
「エドもお風呂に入ってきたら?」
確かに15年ぶりの温かいお風呂だ。いろんな意味で感慨深い。
「じゃあ、入ってくる」
俺も着替えの下着とタオルを持って風呂場まで行き入り口のカゴを持って中に入った。
体を洗う石鹸もシャンプーもないけど、それは今まで通り。
材質不明の黄色い桶で湯舟から湯をすくって体にかけ、それから湯舟の中に足を入れゆっくり腰を落として肩まで浸かった。
ふー。生き返る。
15年ぶりにこのセリフ口にした。
ただ生き返るだけではなく、このお風呂のお湯にはうら若き二人の乙女のエキスが溶け込んでいるのだ。そう考えると生き返るどころか昇天ものだ。
だが、ここで昇天してしまうと前世の二の舞い。大きく深呼吸して心臓の高鳴り
フー。気持ちいー!
風呂場の隅に置かれた洗濯機が現在脱水中のような音を立てている。中身がどうなっているのか確かめたい誘惑をこらえてもう一度湯舟に浸かってエキスを吸収した俺は湯舟から上がった。
そこで、湯舟の湯を抜こうとしたところ栓が見当たらない。
これは困った。
仕方ないので湯舟に向かって「排水してくれ」と声を掛けたらあっという間に湯船のお湯が抜けていった。
少し驚いけど、それだけのことなので俺はタオルで水気を拭いて持ってきた着替えに着替えて風呂をでた。
出口の先の大型ドライヤーで体ごと髪の毛も乾かしたのだが驚くほど乾きが早かった。
「エド、お風呂はどうだった?」
「素晴らしかった」
「いつでもお湯のお風呂に入れるってすごいですよねー」
これだけの設備がウーマの中にあるのだから、どこかに洗剤を含めた消耗品くらいあるのではないか?
このウーマの中、台所以外物入れが少ない。他の物入れと言えば寝室のベッドに付随したチェストくらいしかない。掃除道具も見当たらない。どこか隠し部屋があるのかも?
エリカたちが座っているソファーの向かいに座っていろいろ考えてみたが、やはりもう少し壁の辺りを調べた方が良さそうだ。
「思うんだけど、これだけの設備が整っているくせに掃除道具もなければ消耗品と言えばトイレの紙が一つだけ。このウーマの中のどこかにそういった消耗品が蓄えられているんじゃないかと思うんだが」
「そう言われればそうよね。だとすると収納キューブみたいなのがどこかに置いてあってその中に入っているかも?」
「あとは、見た目はタダの壁ですが、話しかけたら扉が開いたり、引き出しが出てきたりするとか」
「収納キューブだと個人使いならいいけれど複数人だと使い勝手が悪いから、ケイちゃんの言う、扉とかが壁の中に隠されてるんじゃないかと思うんだ」
「そう言われればそうね。それじゃあ探してみましょう」
俺たちはソファーから立ち上がって壁を調べてみることにした。
居間の形は半円形で壁自体はドーム状のカーブを描いているので扉はサイドハッチ意外にはないはず。空いた壁というと、台所の反対側の壁くらいしかないので調べるのは簡単だ。
その結果、見た目では全く分からなかったし壁を叩いてみても変わったところはなかった。
そう言うことなので、AI搭載の壁だと思って壁に向かって声をかけてみた。
開けゴマでもよかったのだが、それを言ってしまうとエリカから横目で見られそうだったので止めて無難な言葉にした。
「壁よ、開け!」
扉が開くものと思っていたのだが、扉が開く代わりに、壁が扉の形に消えてしまった。いいのかよ。
「壁が消えたじゃない。大丈夫なの?」
「壁の向こうは冷たいみたいです」
壁の向こう明るく照らされ棚がずらりと並んだ結構広い部屋が広がっていた。並んだ棚の上には瓶や箱、それに麻袋が置かれていた。
部屋から涼しい空気が漏れてくるので向こう側は冷蔵室なのかもしれない。
「中に入ってみよう」
「中に入って大丈夫かな?」
「大丈夫じゃなければ、完全に罠だから、それはないだろう」
「そう言われればそうよね」
それでも俺たちは慎重にその部屋の中に入っていった。
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