第125話 ウーマ
俺たちのAI搭載超大型キャンピングカメにウーマと名づけてやった。ペラの発案なのだがセンスある。と、言っていいのかは微妙だ。しかし、過去誰かが言ったかもしれないが、こういったものはウーマ、ウーマと言っておけばいずれ慣れるものだ。ウーマ、ウーマ。
お茶を飲み終わったところでペラは席を立って見張りのため前の方に行ってウーマのスリットからまだ雨の降っている周囲の警戒を再開した。
残った俺たち3人はお茶の後片付けで、使ったカップなどは流しに下げて洗った。
もう少し温度を上げてくれと蛇口に言ったら、ちゃんと蛇口からお湯が出た。ただ今のところ水洗いで十分なのでそのまま水洗いした。
油の付着した皿なんかは食器用洗剤が欲しいところだが、ない物は仕方ないので今まで通りボロ布かなんかで拭きながら洗うしかないだろう。蛇口から好きなだけ水が使えるみたいだから洗濯用の灰を使ってもいいか。
ポットに入っていたお茶っ葉は流しのくぼんだ水切りに流したら、勝手にフタが締まってウィーンと何かが高速回転する音がしたあとまたフタが開いた。水切りに溜まっていたはずのお茶っ葉はきれいになくなっていた。水切りはディスポーザーだったようだ。便利じゃないか。
エリカはすごく驚いていたが、ケイちゃんはエリカより感動力が弱いみたいでさして驚いてはいなかった。
しかし、これだけ現代的なキッチンユニットを備えているんだから食洗器くらいあってもいいんじゃないかと考えてしまった。俺は実物を見たことはないのだが、あれば便利そうだ。これもレメンゲンに頼めば何とかなるのだろうか? しかし食洗器となると少なくとも注排水は必須だ。つまりウーマと連携したものが必要なわけで、さすがのレメンゲンとて無理だろうなー。チラッ。
そういえば調理台の下の、予備の食器入れ。よく考えたらアレって食洗器じゃないか?
食器をそれなりの間隔で入れるようになっていたし。ただの引き出しにしてはがっしりと重かったし。
俺は
「ひょっとしてこの中に食器を入れておけば食器がきれいになるんじゃないか?」
「エド、またなに訳の分からないこと言ってるの? いくらウーマがスゴイって言っても食器が勝手にきれいになるわけないでしょ」
「これほどスゴイ台所だから、そういう機能があってもいいと思うんだよな」
「じゃあ試しにやってみればいいんじゃない」
「木製の皿とマグカップくらいしかないけどそれで試してみるか」
俺は若干冷ややかなエリカの視線を浴びつつも、キューブの中から皿やマグカップを取り出して引き出しの中に並べていき、並べ終わったところで引き出しを閉めた。
スイッチ類は例のごとくどこにも付いていなかったので、口で「食器をきれいにしてくれ」と引き出しに向かって命じてみた。
すぐには反応なかったのでダメかと一瞬思ったのだが、一拍間が空いたあと引き出しの中から水が勢いよく吹き出す音が聞こえてきた。
そのあとウニウニ音も聞こえてきた。どう考えても食器を洗っている音だ。
エリカも水の音とウニウニ音の意味を察したようで目を丸くしている。
これからはこう唱えよう。文化生活。文化生活。
第3者的には笑えるところかもしれないが俺たちはすごく暇だったからこそ、いたって真面目に3人雁首そろえて食洗器の前でじっと成り行きを見守っていた。10分ほどシャワー音とウニウニ音が続いたあと、今度はドライヤーらしき音が聞こえてきた。
ドライヤー音が3分ほどで終わったあと何も音がしなくなったので引き出しを引きだしたら、温かい空気と一緒にホカホカですっかり乾いた食器が現れた。
残念ながら、どの食器も木製だったのでピカピカになったのかどうかは分からなかった。おそらくピカピカになったのだろう。
「先に残飯をこっちの水切りに流して、この引き出しに食器を並べておけばいいわけね」
一度見ただけでエリカは食洗器を理解したようだ。
ケイちゃんもうなずいていたので、ケイちゃんも大丈夫だろう。
残るは洗濯だが、風呂場の洗濯機らしきものに汚れ物を突っ込んでおけば勝手に洗濯してくれて乾燥までしてくれるかもしれない。食洗器が乾燥までしてくれるなら洗濯物だって乾燥してもいいじゃない。洗剤はないが手洗いに比べれば格段にきれいになるだろうし、洗濯のために拘束される時間は圧倒的に減るはず。
俺は洗いたて、乾燥したての食器をキューブにしまいながら。
「風呂場にあった箱があっただろ? あれも中に汚れ物を入れておけば洗濯してくれるんじゃないかと思うんだ」
「うん。十分あり得る。この引き出しみたいに洗濯物が乾くかも知れないし。午後からでも試してみようよ」
「そうだな。
さてと、まだ早いしお腹が空いているわけじゃないけど料理でもしようか。昼は簡単にスープとパンでいいかと思ったけれど台所があるし。何を作ろうかな?」
「とりあえず無難に肉を焼いておけばいいんじゃない?」
「そうするか」
俺は収納キューブからまな板と
ブロック肉をスライスしていき、スライスし終わったところでまな板の上に並べてから一度蛇口の水で手を洗ってタオルでよく拭き、塩コショウを肉に振りかけていった。
全体を裏返して、また手を洗い、再度塩コショウ。
下準備ができたのでフライパン大をキューブから取り出して備え付けの加熱板の上に置き『中』で加熱しておき、同じくキューブから取り出した塩バターを包丁で少し切ってフライパンに投入した。
フライパンに溶けたバターを行き渡らせるようにして、牛肉をフライパンにのっけていく。
4枚入れたらいっぱいになった。
ジュージュー音とバターの匂い、そして換気の音。前世で行ったことのある鉄板焼き屋のことを思い出してしまった。海鮮鉄板焼き食べたいなー。
そういえばエリカの実家は海に面したオストリンデンだったから、そのうち行ってみてもいいかも。サクラダの星のリーダーとしてエリカのお父さんにあいさつくらいしていないとマズいしな。
軽く焦げ目ができたあたりで裏返して2分ほどそのままにして、焼き上ったステーキはキューブに入っていた木のボウルに取ってキューブに保管し、次の4枚に取りかかった。
そうやって4枚単位でステーキを16枚ほど焼いて焼く肉が無くなった。
次は付け合わせの野菜だ。
簡単なのはナスビなのでナスビを軽く水洗いして、一度洗ったまな板で輪切りにしていき、灰汁を取るため水を張ったボウルに入れておいた。
次はニンジンだ。ニンジンも水洗いして簡単に皮をむき厚手の短冊を作っていく。それなりの量ができたところで再度フライパンに火を入れてバターを落としまずはニンジンを炒めた。
火が通ってたところで皿に移し、今度はナスビだ。
ボウルからナスビを取り出し、水切りをしようと思ったらザルがなかった。
仕方ないので一々手で振って水を切りながらもう一つのボウルに移してやった。
こっちは炒めるというより単純に焼く感じで、バターを塗ったフライパンにナスビを敷き詰めてフタをしてしばらく焼き、フタを取ってこまめにひっくり返して再度フタをして焼く。ナスビは量が多かったので2回焼くことになった。
俺がそうやって料理している間、エリカとケイちゃんは俺の後ろで応援してくれていた。気持ちだけは受け取っておいたから。
「こんなところかな」
「ご苦労さま」
「エド、お疲れさま」
「やってると料理も楽しいよ」
加熱板を止めてしばらくしたら自動で換気の音も止まった。
「それじゃあそろそろ昼食にするか。
昼食中はペラも見張りできなくなるからウーマは止めた方がいいよな」
「べつに止めなくてもいいんじゃない? 何かあれば、ウーマが勝手に判断して止まると思うわよ」
「確かに」
俺はスープの入った大鍋を備え付けの加熱板の上に置き、火力を『弱』にしておいた。
後は先ほどの肉と付け合わせの温野菜、そしてパンだ。
最初にパンをスライスしてボウルに盛る。
次に食器棚から陶器の平皿を4枚出してもらい、その上にステーキと温野菜を盛り付ける。
そしてこれも食器棚から取り出した深皿にスープをよそって出来上がり。
ワゴンの上にカトラリーと一緒に載せて応接テーブルに運んで並べていく。
準備が整ったところでウーマを停止してペラも呼んで食事を始めた。
食べ始めた時いきなりペラが「いただきます」と言った。
みんなペラの顔を一瞬見たがそれだけだった。
テーブルが低い上にソファーも低く柔らかいので応接セットでの食事は食べづらかった。
「台所の近くにいつものテーブルを置いてそこで食べる方がいいみたいだな」
「このソファー軟らかすぎるから食事には向かないみたいね」
「確かにそうですね」
「ペラは?」一応ペラにも聞いておいた。
「わたしはそうでもありません」
ペラは気にならないみたいだ。何となくではあるがこの空気を読まないところがペラらしいというか、好感が持てるような。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます