第122話 カメとペラと13階層2
新メンバー?ペラを加えて夕食を摂った。
食後のデザートはお茶とクッキーにした。ペラはちゃんとお茶を飲みクッキーも食べた。
食事の片づけを4人でしたあと、ペラに不寝番について説明した。
砂時計を見せ、ひっくり返して砂が落ち切ったら1時間と教えたところ、内部時計を調整しますと答えが返ってきた。パソコンと同じでちゃんとした時計機能があるなら、砂時計よりペラ時計を使った方がいいのは確かだ。最終調整はギルドに戻ってからでいいとして、俺は1日は午前午後12時間ずつの24時間ということを教えてから俺の体内時計による現在時刻をペラに伝えておいた。そして、砂時計でペラの内部時計の1時間を調整したうえで、不寝番をしつつ今から8時間したら俺たちを起こすように命じておいた。
「了解!」
ペラからはいい返事が返ってきた。
ペラに不寝番を任せた俺たちは3人並んで毛布に入ったところ、カメは俺の足先で足を折り曲げて甲羅を地面につけて休めの姿勢に入った。
不寝番をペラに任せたことで2番バッターではなくなり役得はなくなったのだが、右を向いても左を向いても美少女状態が8時間も続くと考えたらそれはそれで幸せな気分に浸ることができた。
幸せな気分に浸ったのはおそらくほんの数分みたいだったようで、外は明るかったがすぐに俺は寝付いてしまい、気が付けばペラに起こされていた。
「みなさんおはようございます」
「ペラ、ご苦労さん」「「ペラ、ありがとう」」
ちゃんとペラはあいさつもできるのか。そもそも俺たちの言葉が話せるくらいだからあいさつくらい簡単なのかもしれないが、ダンジョン産のペラが俺たちのことばを話せることはかなり不思議なことではある。
朝の支度をしていたらカメは俺に付かず離れず付いて来る。ペットと言えばペットではある。しかし体内がミニチュアの家というのがなんとなく引っかかる。
朝食を食べ終えて装備を整えたところでペラに時間を聞いたら午前4時ということだった。
結構早いのだが、どうしようもないし、だらだらしていても仕方がないので、とにかくこの大空間の中央部を目指して進むことにした。
自動地図を見ると俺の近くははっきりと視界に入っているだけの部分だけはぼんやりと表示されている。今回も自動地図を見ながら進んでいけば太陽はなくても方向をたがえることはないし、確実に階段下まで戻って来られる。
モンスターの出現を危うんでいたが、モンスターに遭遇することはなかった。その代り、普通のウサギや普通の小鳥などそれなりに遭遇した。
ここはダンジョンの中なのだろうが、モンスターはいないような気がする。
4時間ほど歩いたところで小休止した。時刻は午前8時のハズ。後ろを振り返ったところ壁はかなり遠ざかっていたが前方の景色は全く変わっていなかった。
この大空間はいったいどれほどの広さがあるのか見当もつかない。
「ただ歩いているだけだとつまらないわね」
「うん。だからと言ってモンスターに出てきてほしいわけじゃないけどな」
「そうなんだけど、どこかに宝箱とか落ちていないのかしら?」
「どうだろうなー。何となくそういった諸々はなさそうだけどな。とにかく平地が続いているから視界が狭いんだよな。どこか高いところがあれば、一帯を見渡せるんだけど。ずっと向こうに見える山の上に立てば全部見渡せそうだけど、あそこに行くには10日じゃ無理そうだし」
「そうね。あそこまで行くなら1カ月くらいかかりそうだものね」
「それはそうと雲行きが怪しくなってきたような気がしませんか?」
「確かに雲が広がってる。ここで降られると嫌だな」
「ですね。
木の下でも少しはしのげるかもしれませんが、今見える灌木では葉っぱも少なそうなのでしのげそうじゃありませんものね」
実際問題ダンジョンの中で雨が降るとか考えていないので、雨具と言えば桶を頭にかぶるくらいだ。
俺たち、ペラも含めて4人が桶を頭からかぶって雨の中をさまようという図を想像したら、滑稽ではあるが、あまりに悲しい絵面だ。
休憩を終わった頃には頭上はすっかり雲の覆われ、少し先は雲が下がって前方が見えなくなっているので明らかに雨が降っている。
俺たちが雨に降られるのは時間の問題になってしまった。
それでもないよりはましということで自動地図を一度キューブに入れて一番近くの灌木まで急いだ。4人で灌木の幹を背にして囲みじっとしていたら雨が降り出した。
最初はポツリポツリだった雨がそのうちそれなりの勢いの雨に成って灌木の葉っぱを伝ってどんどん雨露が俺のヘルメットや肩口にあたり、少しずつ胴着の中に沁み込んできた。
何もできない中、ふと下を向くとカメの甲羅が雨に打たれていた。
相手はカメなので一見気持ちよさそうに見える。
ミニチュアがミニチュアじゃなくって本物だったらなー。
カメの後部は外から見れは普通だったが、内側から見ればとんでもなく広かった。それってカメの内部はこの世の
内部を拡張できるなら、自分自身を拡張できても良さそうな。このカメって実は大きさが自在なんじゃないか?
「おいカメ。お前って、実は俺たちを乗せられるくらい大きくなれるんじゃないか?」
カメに向かって聞いたところカメは首を上下に動かした。
なんと!
「それじゃあカメよ、カメさんよ。俺たちを快適に乗せられる大きさになってくれ」
カメの形がぼやけたかと思ったら、戦車の実物は見たことはないが、戦車などよりよほど大きなカメが目の前に姿を現した。
俺がカメに話しかけていたのはエリカたちも聞いていたので、すぐに驚きの声が上がった。
「すごい!」
「すごいです」
「中に入れるはずだ。ちょっと待ってて」
カメの甲羅の左下が、サイドハッチ風で何だか開きそうなそうでもなさそうな。
カメは甲羅を地面につけているのでサイドハッチらしきところに手をかけて一度下に向かって力を入れたらぱっかりと上に向かって開いた。
サイドハッチは地面からの高さは50センチくらいあるけれど俺たちにとってはそれほど苦にはならない。
エリカから順にカメの中に入っていき最後に俺が入ってサイドハッチの内側に付いていた取っ手をもってサイドハッチを閉めた。サイドハッチを内側から開けるにはその取っ手を持ち上げればいいようだった。
それでカメの内部なのだが、俺たちが入った先は応接セット付の居間になっていて後ろ側には上に上る階段の他、キッチンがあり、扉が壁に何個か付いていた。
雨に濡れた泥足で中に入ったのでリノリウム風の床が若干汚れてしまった。あとで掃除した方がいいがさすがにキューブの中にも掃除道具の用意はない。
「ここってカメの中なのよね」
「不思議ではあるけれど、カメの中だろ。
とりあえず濡れた防具は外して寛ごうか」
「そうね」
銘々雨で濡れた防具を外し、応接セットのソファーに腰を下ろした。濡れた防具とリュックは足元に置いた。
ペラはソファーの後ろに立って控えている。
それで俺の座ったソファーなのだが、前世も含めてどのソファーに比べても一番フカフカだった。
ペラにはタオルを渡し、残りの俺たち3人揃って濡れた防具とリュックをボロ布で拭きながら。
「このソファー、フカフカだわ」
「高級そうですね」
「水でも飲むかい?」
「うん」「わたしも」
二人のマグカップに水筒から水を注ぎ二人に渡し、自分のマグカップにも水を注いで一口飲んだ。
「このカメ、家になるとは驚きだったな」
「エドはよく気付いたわね」
「ほんとです」
「今回は雨も降ってきたので何となく思いついただけなんだけどな。
落ち着いたらこの中を調べてみよう」
「そうね」「はい」
マグカップの水を飲み干したところで。
「そろそろ中を調べてみよう」
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