第89話 借家


 ギルド長室を後にした俺たちは階段のところでエルマンさんに礼を言って、1階に下りていくエルマンさんと別れて3階に上がった。30分くらいしたら俺の部屋に集合してそこで先ほどの代金を分けてそれから3人揃って1階に下りて反省会をしようと部屋の前で約束して解散した。


 なんで3人揃って1階に下りようと二人にわざわざ言ったかというと、10階層の大ガエルがたおされたことでギルド内が騒動になっていた。と、さきほど買い取りカウンターのゴルトマンさんに聞いたからだ。


 自意識過剰かもしれないが、そういった状況で当事者の一人が雄鶏亭の前に立っていたら注目を浴びて気まずくなるかも知れないし。


 部屋に戻って装備を外し、簡単に荷物を片付けてしばらくしたところで扉の前でエリカの声がしたので扉を開けて迎えた。

 そのあと続いてケイちゃんも現れたので部屋の中で買い取りカウンターで手にした金貨40枚と銀貨15枚を分けた。

 今回は二人の了承を得て、各人金貨13枚とし、残りの金貨1枚と銀貨15枚はチームの貯金にした。


 お金の分配が終わったところで、3人揃って部屋を出て1階に下りて行った。もちろん部屋のカギかかけてますよ。


 階段を下りて1階のホールに出たところ、ホールは確かに騒々しいのだが、この時間帯だといつも通りのような。


 雄鶏亭に入ったところいつもの4人席が空いていたので3人で座り、定食がマスターによって運ばれてきたところでエールとつまみを注文した。

 警戒はしていたのだが、誰も俺たちを注目しているようではなかった。完全に自意識過剰だった。サクラダダンジョンのトップチームであるという自負が俺の自意識を肥大させたに違いない。実際は注目されない方が注目されるより何倍もいいのでありがたいことである。


「「かんぱーい!」」


「今回は大儲けだったわね」

「うん。こんなに儲かるとは思わなかったな。だれもいない階層ってところが大きかったんだろうな」

「そうですね」

「カエルの足っていくらで売れるかな?」

「あのカエルの皮って、通常の武器じゃ刃が立たないという話だから、あれで鎧を作ったらすごいのができるんじゃないか」

「でも、重いとマズいんじゃない?」

「確かにそれもあるか。いくら丈夫でも金属鎧と同じくらい重ければダンジョンワーカーで買う人はいないものな」

「逆に軽いようだとかなり高額になるかもしれませんよ」

「どっちか分からないけど、期待だけはしていよう。

 後は11階層でたおしたモンスターだけど、1日1回リュックに入るだけ買い取りカウンターに卸すとなると、何日もかかると思うけどどうするかなー」

「いっそのこと、買い取りのゴルトマンさんに話して、倉庫かどこかで受け取ってもらうように頼んでみない? ゴルトマンさんならキューブのことは言いふらさないと思うけど」

「ゴルトマンさんに話したとして、そこまでやってくれるかな?」

「明日、ギルド長のところに報奨金を受け取りに行くから、その時ギルド長に話して、ギルド長からゴルトマンさんに話してもらうのはどうかな? ギルド長もキューブのことを言いふらすとは思えないけど」

「そうだな。それで行こうか。それがうまくいけばずいぶん楽になるし、カエルの本体も買い取ってもらえるものな」


「お金はこれからもどんどん手に入っていくと思うけど、今回宝箱から見つかった巻物はスゴイわよねー」

「画板を首から下げて地図を描かなくて済むから、俺はアレのおかげてすごく楽になった」

「エド、今まで大変な思いをさせて済まなかったわ。ありがと」

「エド、ありがとうございます」

「いいんだよ。俺はリーダーなんだから」

 口ではそう言ったけれど、こうしてちゃんと感謝を口にしてもらえればそれはそれでうれしい。わが『サクラダの星』は実にいいチームだ。と、俺は心の底から思うぞ。


「ねえねえ、これだけお金があれば家を借りてもいいんじゃないかな?」

「うん。借りられるだろうな」

「そうですね」

「明日の午前中にでも見に行ってみない?」

「そういったものはどこで扱ってるのかエリカは知ってる?」

「商業ギルドで扱ってるはずよ。うちの支店の建物も商業ギルドで探してもらったはずよ」

「そうなんだ。ロジナ村だと村長やってる俺の父さんが適当にやってたけどな」

「適当でいいの?」

「子どもの目だから適当に見えただけで実際はちゃんとしてたのかもしれない」

「エドのお父さんだってちゃんとしてたと思うよ」

「やっぱりそうか」

「それはそうでしょ」

 またまた還暦親父が15歳の小娘エリカに一本取られてしまったぜ。


「それで、エリカは商業ギルドがどこにあるのか知ってる?」

「うん。知ってる。うちの支店の近くで大通りに面した大きな建物」

「なるほど。

 それじゃあ明日は朝ここで食べて8時の鐘が鳴ったら廊下で集合して3人揃って行ってみよう」

「うん」「はい」


「家はやっぱりダンジョンギルドここに近い方がいいわよね」

「それはそうだろ」

「この近くにいい家があればいいですね」

「ベテランダンジョンワーカーはどこかにうちを借りてるか、ギルドが持ってる寮に住んでるんだろ? いい出物はないかもしれないな」

「それは運しだいって事よね。そうなってくるとエドのレメンゲンの出番じゃない?」

 昔は、あまりいいことが起こり過ぎると、俺の負債が大きくなることを心配してくれていたあのやさしい女子はどこに行ったのだろうか?

 かくいう俺も期待はしてるけどな。


「確かに、あり得るな。明日は期待しておこう」

「うん」

「でも、エドの剣の力に頼り過ぎるのはよくないんじゃないでしょうか?」

 おっと、ここに俺のことを心配してくれる心優しい女子がいたー!

「何度も言っているけれど、俺が支払う対価は決まっている以上、受け取るものが大きければ大きいほど得なんだから、せいぜいお願した方がいいんだよ。お願いを聞いてくれるか聞いてくれないかは分からないけれど、お願い自体はタダなんだし」

「それならいいんですけど」


「台所と居間。それにベッドルームは予備も含めて4つってところが最低限だよね。あと井戸と」

「そうだな」

「庭も欲しいかも」

「庭かー。庭もいいなー。天気がいい日は洗濯物も干せるしなー」

「それはそうとお手伝いさんを雇うってどう思う? 家の掃除や食事の用意、それに洗濯とかやってもらえればずいぶん楽になるんじゃない?」

「いくらで雇えるかによるだろう」

「確かにそうだけど、そんなに高くはないと思うわよ」

「そうかなー」


 前世では人一人雇えば給料の3倍近く人件費がかかるって言われてたものなー。この世界だと社会保険料は不要だし、お手伝いさんなら福利厚生費、研修費、交通費もいらないから給与だけで十分なんだろうけど、人一人を雇うのはそれはそれで大事業だよな。無責任なことはできないんだし。

「お手伝いさんについては家を借りてから考えればいいと思うけれど、お手伝いさんも商業ギルドで斡旋してくれるのかな?」

「そうじゃないかな。うちの商業ギルドにお金を払って人を集めてもらったはずよ」

「なるほど」


 エリカのうちの支店もおそらくサクラダの商業ギルドに加盟しているんだろうから、商業ギルドを通すことでお金を落としておけば何かと便宜を図ってもらいやすいものな。新しい土地での商売の始め方の基本をちゃんと分かっている。エリカのお父さんはプロってことだな。


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