第88話 11階層から帰還


 10階層で階段前の巨大ガエルをたおし、11階層に進出した俺たちは無難にその日を終えて、野営時間を迎えた。


 俺が夕食の準備のため機材や食材をテーブルの上に並べている間に、エリカとケイちゃんで毛布とクッションを出して寝床の準備をしてくれた。


 今日の夕食はいつものように具だくさんのスープにステーキと温野菜。最後にデザートの果物だ。飲み物は水しかないが、そこは仕方ない。少々のアルコールなら問題ないと思うが、何かあってから後悔したいわけではないのでそこはけじめだ。


 エリカとケイちゃんで洗ってくれた野菜を俺が切っていきドンドン鍋に入れていく。最近はソーセージを入れるといい出汁が取れるということを発見したのでソーセージと野菜のスープを作ることが多い。

 今回もソーセージと野菜のスープだが、マッシュルームも輪切りにして入れている。シイタケとかシメジが欲しいところだがなぜかマッシュルームしか売ってないんだよな。赤鬼ダケとか青鬼ダケは食べられるんだろうけど、商品には手を出すな! だから、使えないし我慢するしかない。

 とにかく現在の食材だけでもソーセージのスープは絶品だから十分だろう。


 鍋を煮込んでいる間に、羊肉のブロックを薄くスライスしていき、いったんボウルにとってひっくり返しながらまんべんなく塩コショウする。

 温野菜としてキャベツの炒め物を考えているので適当な大きさでキャベツを切っていきボウルに取っておいた。

 加熱板はかなり高性能で試しに『最強』指定したら大なべも5分程度で沸騰する。

 沸騰したら、灰汁取りして、味見をし、問題なければ加熱板を『弱』にして10分ほど煮込めば完成だ。

 その間に塊パンをスライスしてパン用に用意した小型のカゴに入れておき、デザート用にオレンジを食べやすいように切ってボウルに盛っておいた。


 鍋が完成したらすぐにキューブにしまって、羊肉をフライパンで焼き始める。

 焼けた肉は並べた3枚の平皿にどんどん置いていき、空いたフライパンにボウルからどんどん肉を入れて焼いていく。薄いスライスなので次々焼けていく。


 肉を焼き終わったら同じフライパンでキャベツを炒めていく。

 キャベツは生でも食べられるので、塩コショウして簡単に火を通すだけでアッという間にでき上った。

 キャベツも平皿の上に乗っけて出来上がり。

 いったんフライパンはしまって先ほどの鍋を取り出してスープ用マグカップによそい、各人の水用のマグカップに水を注いで料理は完成した。


「エド、ごくろうさま」

「エド、ありがとう」

「どういたしまして。それじゃあ食べようか」


 ……。


 今回は10階層での大ガエルをたおしたこともあり、早めにギルドに報告のようなことをしておいた方がいいだろう。

「明日のことだけど」

「なに?」

「今回階段前のモンスターをたおしただろ。明日は午前中一回りしたらギルドに帰らないか?」

「そうね」

「はい」


 食後のデザートのオレンジを食べたら今日も腹いっぱいだ。


 後片付けが終わったらさっそくベッドタイムだ。俺の不寝番の順番は不動の2番なのでいつも最初に毛布に横になる。そして横になって目をつむり5分もしないうちに眠りについて、気が付けば肩をゆすられ、耳元で名まえを呼ばれている。天国だなー。



 何事もなく朝を迎えた俺たちは朝の支度を終えた後、昨日の残り物で朝食を済ませた。後片付けをしてしばらく休憩してから午前中の探索を始めた。


 午前中、モンスターを数体たおし、赤ジェム1個、緑ジェムを1個、青ジェム1個、青鬼ダケを3本手に入れたところで、10階層からの階段下を目指し始め、階段下にたどり着いたところで昼休憩とした。


 昼食はまだ残っていたスープとパンで済ませ、早々にギルド向けて帰還の途に就いた。

 昨日の段階で自動地図はキューブに入れていたら地図を記録してくれないようだが、開いていなくても、さらに言えば閉じたままリュックに入れていても地図を記録してくれることがわかっていたので、帰り道ではリュックに入れた状態にしておいた。


 途中小休止を一度入れ、俺の体内時計で18時少し前ギルドに帰りついた。片道5時間は結構ある。渦を出た時の俺のリュックの中には1階層でキューブからリュックに移したカエルの前足が1本だけで、ジェムとキノコはエリカのリュックに入っている。シカなどのその他のモンスターは今回買い取りに出すのを諦めた。


 渦から出た俺たちはいつも通り買い取りカウンターに向かった。

 買い取りカウンターには誰も並んでいなかったのでまずはジェムとキノコをエリカがカウンターの上に置いていった。


「お前さんたち、10階層に行ったのか!?」

「10階層にも行きました」

「大丈夫だから帰ってきたんだろうが、無茶するな。

 うーん、どのジェムも大きいみたいだな」

「そうですか」

「大きいし、色も透明度も高い。

 赤、青、緑のジャムの買い取り価格の基本はどれも金貨5枚なんだが、これが8、これも8、これが7、これが7、これが8。ジェムだけで金貨38枚だ。それにキノコも大きいな。赤で銀貨45枚、青で銀貨7枚だ。しめて金貨40枚と銀貨15枚になる」

 さすがは新規開拓の11階層だ。

 金貨10枚の山4つと銀貨15枚を確かめていったん空袋に収めた。

「もう一つあるんで見てもらえますか?」

「何だ? というかお前さんのリュックから何だかのぞいているがそれか?」

「はい。カエルの前足です」

 俺とケイちゃんで俺のリュックから抜き出した巨大カエルの前足をカウンターの横の大物台の上に置いた。

「なんだこれは!?」

「10階層から11階層に下りる階段前にいたカエルの前足です」

「何だってー。今日の昼頃、10階層の大ガエルがいなくなって何者かが大ガエルを仕留めたんじゃないかと言って騒ぎになっていたがお前さんたちがやったのか!?」

「まあ、そんなところです。さっきのジェムとキノコは11階層で摂ってきたものだから大きかったんでしょうかねー」

「なにー! ふーふー。まああいい。このカエルの足はいま値段は付けられないから、そこは了承してくれ」

「はい。いつ頃分かりますか?」

「肉の値段はすぐ出せるが、皮の値段は革を扱ってる業者に話してからだ。そうだなー、明日の昼までかかるだろうな」

「分かりました。それじゃあ」

「いやいや、ちょっと待ってろ。

 おーい、ショーン、もう帰る時間だろうがちょっと来てくれ」

『はーい。今行きます』

 ゴルトマンさんに呼ばれてエルマンさんが受付カウンターから駆けてきた。

「どうしました?」

「この連中が10階層のあの大ガエルをたおしちまいやがった」

「済みません。それってもう10年以上どのパーティーもたおせなくて放っておかれていたという大ガエルのことですか?」

「そうだ」

「そんな」

「とにかくそうなんだ。それでこの3人をギルド長のところに連れて行ってくれるか。ギルド長はまだいるだろ? 俺が大ガエルを確認したと伝えることも忘れるなよ」

「はい。ギルド長はまだ帰られてはいないはずです。

 それでは、サクラダの星のみなさんわたしについてきてください」

 カウンターの脇を抜けてエルマンさんがホール側に出てきて俺たちを先導して階段を上って2階に上がり、あのギルド長室の前に俺たちを連れて行った。

 その途中で街の鐘が3度鳴った。


「ギルド長。10階層の大ガエルがたおされたそうです。それで大ガエルをたおした『サクラダの星』の3人をお連れしました」

『なんだと! まあいい、入ってもらってくれ』


 エルマンさんが扉を開けてくれ俺たちはギルド長室に入っていった。今回はエルマンさんも俺たちのあとに続いて部屋の中に入った。


「とにかく3人ともそこに座ってくれ」

 俺たちは背負っていたリュックを抱え、武器は剣帯ごと外してリュックと一緒に手に持って言われるまま3人で並んでソファーに座った。


 俺が真ん中で右がエリカ、左がケイちゃん、3人並んで座っているのでちょっと狭い。だがそれがいい。

 俺の正面がギルド長これは仕方がない。エルマンさんは俺たちが座ったソファーの後ろに立って最初にギルド長に報告した。

「買い取りのゴルトマンさんが大ガエルを確認しています」


「なるほど、ハンスが確認したというなら間違いない。

 一人新顔がいるんだな」

「ケイ・ウィステリアと言います」

「俺はここのギルド長のアドラーだ。なるほど」

 何がなるほどなのかは分からないがギルド長にとってはなるほどらしい。


「それで、どうやって大ガエルをたおしたのか話してもらえるか?」

 俺は大ガエル戦をかいつまんでギルド長に話した。今回の肝は、天井近くまで跳びあがったカエルが壁に張り付いたところで手詰まりになったものの、階段に近づいたら、大ガエルが階段を守ろうと飛び下りてきたところなので、そこはしっかりと説明しておいた。


「通常の武器は刃が立たない(注1)と言われていた大ガエルだが。

 ライネッケ、お前のその剣は?」

「ダンジョンで見つけたものです」

「そういうことか。なるほど分かった。

 報奨金があるから明日の昼頃ここに来てくれるか? 階段前のモンスターの討伐の褒賞金は、10階層だと確か金貨20枚のハズだ。長いこと階段前のモンスター討伐がなかったから忘れるところだった」


 俺たちは席を立ち一礼してエルマンさんと一緒にギルド長室を後にした。




注1:刃が立たない

日本語では『歯が立たない』が正しい漢字のようですが、ここではあえて『刃』を使っています


[あとがき]

ダウン・タウン・ブギウギ・バンド いいですよねー。

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