第69話 1泊ダンジョンアタック3回目5、収納キューブ2
ほぼ4時間の不寝番業務を終えた俺はエリカと交代した。
「エド、何だか機嫌がいいみたいだけど、不寝番してて何かいいことあったの?」
チートが手に入ったおかげで心も晴れ晴れしていたのが顔に現れていたようだ。
しかも今回はニヤニヤ笑いではなかったようで、そこもポイントが高い。
「フフフ。実は不寝番している時いいことを思いついて試してみたらうまくいったんだよ。
後で教えるから、その時はエリカにちょっと協力してもらいんだ」
「うん。分かった。そこまでニヤニヤしてたんだからきっとすごいことなんだよね?」
あれっ? やっぱりニヤニヤしてたようだ。暗い顔してるよりも何倍もいいのは確かだからいいだろう。
「エリカも驚くと思う」
「期待しておく。じゃあ、あと4時間ゆっくり休んで」
「うん」
毛布に横になった俺はすぐに寝付いて、気が付けばエリカの声で起こされていた。
濡れたタオルで顔を拭いてさっぱりし、毛布などを丸めてリュックに入れた。
そのあとはランタンを囲んでの朝食だ。
「それでエド、何がどうしたって?」
「収納キューブから10メートルくらい離れた物を収納したり、その場所に出したりできたんだ」
「エド、それは確かにすごいことかもしれないけど、エドがニヤニヤ笑いするほどそんなにすごいことなの?」
機嫌がいいってニヤニヤ笑いだった! それでもいいけど。
「今のところは確定じゃないんだけど、食事が終わったらエリカに協力してもらってほんとにすごいかどうか確かめようと思ってる」
「ふーん。今、口では話せないことなの?」
「そうでもない。
エリカと俺が剣を構えて立っていたとする」
「うん。それで?」
「俺は離れた位置から収納できるわけだから、エリカの2本の剣を収納してしまえるかもしれない」
「わたしが手に持って構えてる双剣を?」
「今まで手で握った物を収納してないからそこはまだ分からないところなんだけど、おそらく収納できると思う」
「そんな!」
「まー、できないかもしれないけどな」
「エド、もしもそれができるなら、エドはほぼ無敵になるんじゃないですか?」
「うん。おそらくそうなると思う。不意打ちをかけられれば別だけどね」
「それってズルくない?」
「試合なんかじゃ使えないけど、実戦じゃ使っていいだろ?」
「それはそうね。武器を持った敵には有効そうだけどモンスターは武器を持っていないからモンスターにはに効かないか」
「それもそうだけど、その前に、ちゃんと構えた武器を本当に収納できるか試さないとな」
「それじゃあ早く食べて試してみよ」
「うん」
3人で朝食を早々に切り上げて、エリカを相手に収納のテストを始めた。
「5メートルくらい離れていれば十分だろう」
「分かった」
俺の正面に立ったエリカが、数歩後ろに下がって剣帯に吊り下げられた左右の鞘から同時に双剣を引き抜き、開き気味に下段に構えた。
「エド、いいわよ」
「それじゃあ」
俺はエリカの右手の白銀の長剣ヘルテに意識を集中し頭の中で『収納』と唱えた。
その瞬間エリカの右手の中からヘルテは消えていた。
「いきなり消えてしまったわ。すっぽり抜けたのとは違って何だか変な感じだった」
なるほど。
「それじゃあ、ヘルテをエリカの足元に出すから。
今度は2本同時に収納できるかやってみる」
「分かったわ」
俺はヘルテをエリカの足元に出した。
エリカはヘルテを拾い上げて構え「いいわよ」と合図してくれた。
「じゃあ、今度は2本同時に行けるかやってみる」
エリカの構える2本の白銀の剣に同時に意識を集中し頭の中で『収納』と唱えた。
これもちゃんと収納でき、すぐにエリカの足元に戻しておいた。
「これじゃあ、エドに勝てる剣士はいないよ」
「本当にそうですね」
「うん」
「それはそうと、エド」
「ケイちゃんなに?」
「今エリカの足元に剣を出したけれど、それってどこにでも出せるんですか?」
「俺のこの位置から10メートル以内ならどこでも出せると思う」
「例えば、箱の中にも?」
「箱の中は見えないからできないと思う」
「それじゃあ、何かの上は?」
「それはできそうだな」
「ということは、誰かの頭上に出せる?」
「まあ、できるだろうな」
何だかケイちゃん危ないことを言い始めたぞ。
「何? ケイちゃんは敵の頭の上に剣を下ろそうと言ってるの?」
「はい。せっかく奪った武器だからそれで攻撃できればと思って」
「敵の頭上に落とすとなると練習は必要になると思うけど、それほど難しくはないと思う。でも相手もヘルメットを被っているだろうし、切っ先が必ず下になるとも限らないからあまり効果はないかもしれない」
「収納キューブにどれだけのものを収納できるか分かりませんがかなりの量を収納できるのなら岩をあらかじめ収納して置いて、それを敵の頭上に出して敵を押しつぶしてしまうのはどうでしょう」
さらに危なくなってきた。だが、有効な攻撃手段であることは間違いない。
「相手には悪いが、おそらく確実に相手を仕留められるだろうな」
「それってひどくない?」
「ひどいだろうな。
それとは別に、どれくらい収納キューブに物を入れられるかはいずれ調べておいた方がいいだろな」
「エド、あともう一つ思いついたんですが」
「何だい?」
「例えば、この坑道の壁の岩って直接収納できるんでしょうか?」
「できそうだ。広さは分かるけど深さはどの程度になるかはちょっと分からない。俺のイメージ通りに収納できるかもしれないし、表面だけの収納になるかもしれない。
試してみよう。1メートル四方で深さ50センチで収納できるか?
収納!」
側道の突き当りの壁に向かって1メートル四方で深さ50センチの直方体を思い描いて収納を念じたら、その大きさで壁に穴ができた。穴の表面は磨いたようにツルツルだった。
「できちゃった」
「すごい。今切り取った壁の岩って収納キューブに入ってるんでしょ?」
「うん。入っている」
「それはそうと、いろんなものを入れてたらそのうち何を入れたか分からなくならないかな?」
「それなんだけど、使っているうちに何が入っているのかなんとなくわかるようになってきた」
入れたものを忘れてしまうと大変なことになると思っていたのだが、ここにきてキューブの中に入っているものがなんとなくわかるんだよな。親切設計ってことなのか、それともレメンゲンのサービスなのか?
「へー。そうなるともう収納キューブはエドの専用だね」
「うん。それでもエリカとケイちゃんにも使い方には慣れておいてもらいたいなー。
ほら、俺に何かあってキューブがうまく使えませんじゃ困るだろ?」
「エドに何かあったら困るじゃ済まないから」
「そうです」
ありがたいことを言ってくれる。俺はチームメンバーに恵まれていると実感した。まさに涙がちょちょ切れるところだ。
そのあと、二人にキューブを使って物の出し入れの練習をしてもらったのだが、二人ともキューブを展開しなければ物を収納できなかった。そして、キューブから物を取り出すのは自分から2メートルくらいの距離が精いっぱいだった。
この辺りの差はどこから来るのかは分からないが、まあ出し入れができるなら問題ないだろう。二人とも俺ができたことを自分ができなかったことで悔しがるとか全くなかった。少しくらい悔しがってくれた方がいいと思うのだが? 二人とも俺を信頼しきっていると言いように解釈しておこう。
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