第68話 1泊ダンジョンアタック3回目4、収納キューブ。
大層なお宝を手に入れた俺たちは、石室から出て荷物を置いたままにしている元の坑道まで戻った。
「せっかく収納キューブが手に入ったし、リュックを背負ってる意味ないから収納キューブに入れてしまおうか?」
「それでいいと思うけど、買い取りカウンターの前で獲物を取り出しちゃうの?」
「ちょっとそれはマズいよな」
「でしょう。どうする?」
「そうだなー、どこか適当なところでキューブからリュックを取り出して、そこでリュックに獲物を詰め替えて渦を抜けるしかないだろうなー」
「それしかないよね」
「とりあえず、6階層にいる時くらいはいいんじゃないか?」
「それもそうか」
「そうですね」
ということで、収納キューブに3人のリュックを入れた。ランタンはエリカに持っていてもらうことにして収納キューブ自体は俺のズボンのポケットに入れておいた。
それから俺は画板の上の地図を見ながら二人を引き連れた坑道探索を再開した。収納キューブの角がズボンのポケット越しに太ももに当たって最初のうち少しだけ痛かったがすぐに慣れて何ともなくなった。
午後の坑道探索を終える間に何回か行き止まりの側道があったが大当たりは出なかった。
そのかわり、途中でたおしたモンスターやキノコはリュックに入れず直接収納キューブに入れてみたところ、簡単に出し入れできた。いままでリュックに突っ込むのがかなり面倒だったのだがこれは便利だ。ただ、最終的にはリュックに突っ込まなくてはならないのでそんなに差はないかもしれない。
その日は探索終了時刻近くで側道の行き止まりを見つけたので、その手前で野営することにした。これなら警戒方向が1方向だけなので不寝番の負担が減るし、何かあっても対応が容易だ。それもこれも、地図がいい線出来上がったからこそ当日終了時点で行き止まりを見つけたわけなので、今後7階層、8階層と新たな階層に下って行くときには階層地図がある程度出来上がるまではこの作戦は難しいだろう。
それはそれとして収納キューブの中から各自のリュックを取り出して俺たちはそこで野営準備を始めた。
その結果また毛布が3つ並んだ。
いつものように寝床の近くにランタンを置き、ランタンを囲んで車座になって食事を始めた。
「今回は何も用意はないけれど、次回は色々準備して潜るから、ダンジョンで温かくておいしいものが食べられそうだな」
「うん。そうね」
「楽しみですね」
「ところで、エリカ。俺は全く料理はできないんだけどエリカはどうなんだ?」
「えっ!? それをわたしに聞くの?」
聞いちゃいけなかったのか? まさか、これって地雷?
「いや、言いたくなければいいんだけど」
「自慢じゃないけど、料理なんてやったこともないわ」
確かに自慢じゃない。
「ケイちゃんは?」
「わたしも全然だめです」
おれ? あれれれ?
これじゃあ温かい料理はできてもおいしい料理は無理じゃね?
俺が何とかしなけりゃならないの? インスタントラーメンも冷凍食品もない世界で俺が何とかしなけりゃならないの? リーダーとして。
おいしい料理は無理でも、温かいお茶が飲めるだろう。さすがに俺でもお茶くらいは淹れられるし。
食事を終えてしばらく当たり障りのない雑談して、ケイちゃんが最初の不寝番となった。もちろん俺は2番目の不寝番だ。リーダーとして。
俺はエリカと一緒に別々の毛布に横になって目をつむり、魔力操作をしていたらすぐに寝入ってしまったようで、気付いたら耳元で名まえを呼ばれていた。今回はなぜか、肩をゆすられていない。あまりに俺の寝覚めがいいから肩をゆする必要はないとケイちゃんに気付かれたのかもしれない。
ケイちゃんと不寝番を交代した俺は砂時計をひっくり返してランタンの前に座り込んだ。
周囲というか、前方だけを警戒していればいいので楽だ。つまり暇だ。エリカとすぐに寝息を立て始めたケイちゃんの寝姿を見ていてもいいのだが、それでも暇だ。
俺はふと思い立って収納キューブをポケットから取り出して目の前に置き、開かないまま収納できないか試してみることにした。収納するものはランタンだ。
ランタンに注意を向けたうえで『収納』と心の中で唱えたところ、周囲がいきなり暗くなった。ランタンは見事に収納キューブに収納されたようだ。意外に簡単だった。
収納したものを取り出せないと悲惨なことになるので、先ほどのランタンを思い浮かべたうえで、ランタンを置いた場所を見ながら『出ろ』と心の中で唱えたらちゃんとランタンが元あった場所に現れ辺りは明るくなった。収納しても火は消えなかったようだ。
ここで俺はあることに気づいた。
火が消えなかったということは収納キューブの中でランタンが燃えていたということなのだろうか? もしそうなら酸素を消費したはずだが、収納キューブの中に酸素が存在したのだろうか?
なんとなく酸素がキューブ内にあったとは考えづらいんだよな。
酸素が存在しなかったのにもかかわらず、ランタンを取り出したら火が点いていたとなると、もしかして収納キューブの中では時間が止まっている、ないしは時間の進みが極端に遅くなっているのではないか。
俺のラノベ知識でもアイテムボックス内の時間は停止しているのがデフォだったことだし。
今のは推論なので実験してみることにした。
方法は、砂時計を収納キューブの中に入れてどうなるか。
いくら俺の体内時計が正確だと言っても現在時間を計測中なのであまり無茶なことはできないため、砂時計を再度ひっくり返してその状態で収納キューブにしばらく入れておいて砂が落ち切っているかどうか見てみることにした。
さっき砂時計をひっくり返してまだ10分も経っていないはずなので、収納してから10分くらいして出してみればだいたいのことがわかるだろう。
砂時計をひっくり返してすぐに収納。
それから、まだかな? まだかな? で、10分ほど待って砂時計を出してみた。
砂時計の中で砂はゆっくり落ちていて見た感じ上の砂の量は変わっていなかった。
収納キューブ内の時間が止まっているとまでは確証はないが少なくとも時間の経過はものすごく遅くなっていると言えるだろう。
俺は安心して砂時計を返して不寝番を続けた。
その中でいろいろ収納キューブを試してみたところ。さっきのように俺が意識することで離れた物も
つまり、俺は目にする物を任意に収納キューブに収納してしまえるのではないか?
例えば今寝ている二人の女子の……。そんなことはしないけど。
さすがに距離的な制約あるとは思うが、1メートルとか2メートルといった短距離ということはないんじゃないか?
これも試してみれば分かることなので、俺は立ち上がってランタンから3メートルほど離れて収納を念じてみた。
そしたら簡単に収納できてしまった。
そこから今度は元の場所に出せるか試したところ、ちゃんと元の場所にランタンを出すことができた。
ひょっとして、武器を持った敵と対峙した時、俺って敵の武器を取り上げられるんじゃないか? 問題は強く握っているものを取り上げられるかだが、何とかなりそうな気がする。
明日になったらエリカに頼んで試してみよう。
それから、もう4歩下がって5メートルほどの距離で試したところ、これも収納、排出ともうまくいった。
そういった感じで少しずつ距離を伸ばしていったところだいたい収納は20メートルが限界ということが分かった。排出はその半分の10メートルくらい。20メートルと言えばかなりの距離だ。もし敵が手に持った武器を取り上げることができるなら、半径20メートルの範囲が俺の制圧範囲ということになるんじゃないか?
まだ確定ではないが、これこそチートだろ!?
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