第59話 5階層再び2。休日


 昼休憩で食事をした後、ダンジョンで手に入る不思議アイテムのエネルギー源は魔力なのではないかと俺は最近考え始めていた。もちろん証明はできないし、レメンゲンをはじめとしてダンジョンで見つけた俺たちの武器を見る限りそうでもなさそうではある。



 1時間の昼休憩が終わり、俺たちは装備を整えて歩き出す。


 5時までにギルドに帰り着くためには、4階層への階段下まで3時までに帰り着かなくてはならない。

 今の時刻から2時間だ。30分ほどこのまま進んで、それから側道を通りながら階段下に戻って行けばいいだろう。ざっと目算を付けた俺は地図を見ながらエリカとケイちゃんを引き連れて坑道を進んでいった。


 俺は歩きながらも地図に書かれた坑道と実際の坑道の違いにも注意しているが、今のところそういった違いはなかった。


 移動しながら見つかったキノコを採集し、出会ったモンスターをたおして予定通り午後から2時間で4階層に続く階段下にたどり着いた。そこで小休止してリフレッシュした俺たちは気合を入れ直して1階層に向けて歩き始めた。


 毎日8時間以上歩いているのだが何キロくらい歩いているんだろうか? 時速4キロとして32キロ。大変な距離を歩いていることになる。俺の防具はまだ大丈夫だがブーツの底は薄くなってきている。

 このブーツは防具同様、皮のなめしから父さんが作ってくれたものだが、そろそろ新しいものに代えた方がいいだろう。明日は休みにすることにしているから、見に行ってみいよう。

 しかし、うちの父さんなんでも手作りで作ってしまうものなー。田舎の人ってみんなそうなんだろうか? まあ、この俺自身田舎の人だけどそんな芸当はできないので、田舎の人ということではなく、父さんがすごく器用ということなんだろう。

 黙々と歩いている分、いろんなことがふつふつと頭に浮かんでくるんだよなー。


 こうやって1階層へ向かって歩いている間に何度か向こうからやって来るダンジョンワーカーチームとすれ違っている。俺たちはいつも朝一でダンジョンに潜っているが、午後から、それも午後遅くなってから潜るチームも結構いる。ダンジョンの中に入ってしまえば昼夜はないとはいえ、なんとなく俺的には遠慮したい。


 ギルドに帰りついた俺たちは例のごとく買い取りカウンターに回って、今日の成果を買い取ってもらった。

 まず銀貨2枚をチームの財布に入れて残りを銀貨ベースで3等分し、余り銀貨1枚と大銅貨5枚をチームの財布に入れた。

 一番の出費であるケイちゃんの矢もそう頻繁に買う必要はないみたいなので、この調子でいくと、チームの財布も結構な速さで膨らみそうだ。


 ギルドの寮から出る時には結構な金額になっているだろうから、その金で近くの家を借りてもいいかもしれない。そうするとひとつ屋根の下での共同生活だ。今もひとつ屋根の下だし部屋も近いから似たようなものではあるが、気持ちワンランクアップアップするような。


「エド、今日はニヤニヤ笑いがないと思ってたんだけど、ちゃんとニヤニヤ笑いしてて安心したわ」

 俺はニヤニヤ笑いを1日一度はしないといけないのか? いつもやってるみたいだから簡単か。



 翌日。


 俺たちはギルド1階の食堂兼酒場の雄鶏亭おんどりていのいつもの席に座って食事しながら雑談していた。


 今日は休業日ということで食事したあとは自由行動だ。ただ、今日はあいにくの雨だった。


「エドは今日何する予定なの?」

「ブーツをそろそろ買い替えようかと思ってたけど、雨だし、雨が上がるまで部屋で時間を潰してそれからだな」

 傘があればいいのだが、傘ってないんだよな。あるのはフード付きのマントなんだが、水に濡れればちゃんと水を通してしまうという品質だし、そもそもそれすら俺は持っていない。

「エリカの予定は?」

「特にないから部屋で休んでいて、雨が上がったら洗濯物を持ってお店に行くくらいかな。

 ケイちゃんは?」

「わたしは雨が止んだら食料関係を買い出しに行こうと思っています」

「そう。なら一緒に行こうよ。部屋を出る時教えて。雨が昼まで止まないようなら一緒にここで食事しようよ」

「わかりました」


 今の時刻は6時半くらい。

 食事を終えて3階に戻り各自の部屋の前で別れた。

 部屋に入り窓を開けて外を見たらまだ結構降っている。


 雨が降り込まないように窓を閉め、これでは当分外に出られない。と、思ってベッドに腰かけていたら、そのうちブーツを脱いで横になっていた。



 街の鐘の音で目が覚めた。


 鐘の回数は5回だったはずだし俺の体内時計も10時を指しているので、俺は3時間は眠っていたようだ。

 老人の時間の過ごし方のような気がしないでもないが、寝て悪いわけでもないし退屈な時間をスキップできたと思っておこう。


 起き上がってブーツをはき、窓を開けたらずいぶんと小降りになっていた。

 これなら大丈夫だ。

 俺は窓を閉め剣帯にレメンゲンを吊り、買い物用のリュックにタオルを何枚かとボロ布を入れて背負い部屋を出た。ボロ布はブーツを買い替えた時、今までのブーツは街使いならまだ十分使えるので包んで持って帰るためだ。物は大事に。


 今日は久しぶりにエリカたちと別行動だ。

 夕方になったら例の歓楽街を回遊してもいいかもしれない。夢が広がるなー。


 ギルドを出た俺はギルドの建物をぐるりと回って工房街に続く道に出て、ケイちゃんが先日防具を揃えたハインツ防具店にまっすぐ歩いて行った。


 小雨の中ここまで歩いて少し濡れたが、肌までしみこんではいないので問題ない。

 

 店の中に入ったところ、店の人も客もいなかった。雨だしな。


 奥に向かって「済みませーん」と言ったら奥の方から返事があり、20歳くらいの女性店員がやってきた。


「はい。どういったものをお探しでしょう?」

「ブーツを探しています」

「ダンジョンワーカーの方ですよね」

「はい」

「でしたらこちらにどうぞ」


 店の女性に案内されて前回来た時と同じブーツ売り場にやってきた。内装を変えてないなら当たり前か。

「はいてみてもいいですか?」

「もちろんです。もし合う大きさのものがなければお作りもできます」

「さすがに作ってもらえば高くなるんでショ?」

「ここに並んでいるものは銀貨2枚ですが、お作りするとなると最低でも5割ほど高くなります」

 それくらいは妥当だよな。

「分かりました。まずここに並んでいるブーツの中で合う物がないかみてみます」

「どうぞ」


 何センチとか書いてはいないので、俺の今はいているブーツと同じくらいの大きさのブーツを手に取り、右足のブーツと交換してはいて見た。

 特に違和感ないし、最初からぴったりだった。重さもそんなに重くないし、作りはしっかりしている。これで良さそうだ。

 俺はそのブーツをぬいで元のブーツと履き替えた。

「これでいいみたいです」

「そうでしたか。お買い上げになりますか?」

「はい」

「代金は先ほど申した通り銀貨2枚です」

 銀貨2枚を財布代わりの布袋から取り出して店員の女性に手渡し、少しでも足になじませるため今はいているブーツと新しいブーツを履き替え、古い方のブーツはリュックを下ろしてボロ布に包んで中に入れた。

「それじゃあ」

「ありがとうございました」


 いい買い物ができてしまった。今はまだいいけれど、そのうち手袋も買い換えないといけないからここで買い替えよう。



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