第57話 1泊ダンジョンアタック5、2日目


 美少女二人の寝顔を眺めながら、たまに砂時計を確かめて砂が落ち切ったところでひっくり返す。生前の俺なら途中でひっくり返した回数を忘れてしまう自信があるが、今の俺はオツムのスペックも上がっているようで、回数を失念する恐れは全くない。

 4回目の最後の砂が落ち切ったところでランタンの油を補充した俺は、そのあとエリカのところに行って、肩を軽くゆすって耳元で囁くように「エリカ、時間だ」と言った。残念なことにエリカはそれだけで目覚めてしまった。重ねて言おう、残念だ。


「ふー、良く寝た。

 エド、ご苦労さま。何か変わったことあった?」

「何もなかった」

「あっちゃ困るモノね。それじゃあゆっくり寝て」

「ああ」


 エリカが防具を身に着けている間、俺は手にしていた剣帯を枕元に置き、防具も外して毛布に横になった。


 2度目の睡眠は隣で寝息を立てているケイちゃんを意識することなくとることができた。

 せっかくだから意識したかったのに、思うようにいかないものだ。


 眠ったと意識したわけではないが、すぐにエリカの声で目が覚めた。エリカは揺り動かすことも耳元でささやくこともしてくれなかったようだ。二人を同時に起こせばいいだけなので大きな声を立ててもいいから仕方ない。

 ここで考えたのだが、不寝番は2番目がいいのではないだろうか? まず、耳元でのささやき付きでゆり起こしてもらって、更に自分が耳元でのささやき付きでゆり起こしてあげるわけだし。最初と最後では片側が飛んでしまうからな。これから俺はリーダーとして2番目の不寝番に徹しよう。『リーダーとして』いい言葉だなー。生前のコミックで『プロとして』という主人公のセリフがあったがまさにそれと一緒だ。


 これからは何かにつけて『リーダーとして』って接頭辞をつけてやろ!


 冗談はさておき、起き上がった俺はタオルをリュックから1枚取り出した。

 次にエリカのリュックに入れてもらっていた水袋を手渡してもらってタオルを少量の水で濡らしてその濡れた部分で顔を拭いた。これでかなりスッキリした。


 エリカもケイちゃんも俺の真似か、もとよりそのつもりだったのか分からないが、二人とも俺と同じようにタオルを水で濡らして顔を拭いてた。

 そういえば二人ともすっぴんのくせに若いせいなのかお肌がピチピチなのだ。玄人ではありえないピチピチなのだ。もう一度言おう、玄人ではありえないピチピチなのだ。


 身支度のあとは毛布を片付け、すぐに朝食に取り掛かった。朝食と言っても朝昼夕と中身は同じで区別は何もない。単純に栄養補給だけの食事だ。

 それほど空腹というわけではないので、空腹という調味料はないのだが、俺の右前、左前の二人の美少女が俺にとっての調味料となって、おいしい食事をいただけた。こう見えても俺は建前上アララ神の信徒なので、この恵みをアララ神様に感謝しておいた。アララ神への感謝の言葉に特別なものはないので普通に『ありがとうございました』と心の中で言うだけでいい。


 食事が終わったところでしばらく休憩し、それから各自防具を身に着け武器を装備して今日の坑道探査を始めた。俺は昨日同様首にかけた紐で画板を弁当売りのおじさんみたいに装備している。


 推定だが、現在時刻は7時少し前。昼まで坑道調査して昼休憩したらそこから撤収だ。4時間程度でギルドに帰れるくらいの位置で昼を迎えるよう移動するつもりだ。

 ギルドへの到着目標時刻は17時。俺の勘だけが頼りだがギルドへの到着は目標時刻プラスマイナス1時間に何とか収まってもらいたい。


 午前中、一度4人組のダンジョンワーカーチームとすれ違った。俺の画板姿を見て呆れたような顔と一緒に『ランタンも点けずに何やってんだー?』『油を切らしたかランタン壊したんじゃないか』とか『あの板の上で地図書いてるみたいよ』『なるほど、便利そうだな。俺たちも今度やってみるか』とか話していた。この駅弁売り風画板スタイルもこの世界での標準になるかもしれない。


 それはそうと、ランタンを点けるのは休憩中くらいでいいと思っていたが、歩いている時も点けていた方がいいかもしれない。



 午前中の約5時間。赤鬼ダケ3本と青鬼ダケを3本を採集し。大グモ2匹、大トカゲ1匹を仕留めている。大グモの頭はエリカのリュック、大トカゲは俺のリュックに入れた。俺のリュックは結構重くなったがまだ余裕はある。ちなみに今日もモンスターをたおしたのは全てケイちゃんの弓矢だった。


 昼休憩をとった俺たちは、その位置から地図を頼りに5階層への階段のある空洞に向かった。

 帰り道、画板は俺のリュックに括り付けている。


 予想通り体感1時間半で階段のある空洞にたどり着いた。後は道なりに歩いて行けば1階層の渦まで帰りつける。階段下で休憩した時、ケイちゃんのリュックに入れていたランタンを取り出して火を点けて俺のリュックの脇に下げておいた。


 休憩を終えてからの道は実質一本道なので順調に階層を上がって行った。途中何度かダンジョンワーカーチームとすれ違ったが、何も言われなかった。俺たちもとうとう普通になったということだ。


 6階層の階段下からペースを崩すことなく歩き続け、体感2時間半で渦を抜けダンジョンギルドにたどり着いた。


 目標は17時だったのだが、さーて時刻はいかに? ホールの中の明るさは17時ごろの明るさなので、いい線いってそうだ。とは言え、次の鐘が鳴るまで正確な時刻は分からない。腕時計が欲しいなー。ねえ、レメンゲン!


 俺たちはいつも通り買い取りカウンターにまわり、ゴルトマンさんの前に今回の成果を並べていった。

 

 大ウサギ1匹:銀貨2枚

 大トカゲ2匹:銀貨5枚

 大グモ2匹:銀貨2枚

 大ムカデ1匹:銀貨3枚

 赤鬼ダケ6本:銀貨6枚

 青鬼ダケ5本:銀貨10枚

 合計銀貨28枚。銀貨1枚をチームの財布に入れ、各自銀貨9枚の稼ぎになった。

 最後にゴルトマンさんに今何時かと聞いたところ「午後5時だ」と教えてもらった。

 2日間で時間的誤差はほとんどなかった。俺の体内時計恐るべし!



「結構稼げたわね」

「そうだな。夕食は6時ということで、そこで今回の反省会と明日のことを話し合おう」

「了解」「はい」


 3階に上がって部屋の前で解散した時、ケイちゃんに預かってもらっていた砂時計は俺が預かっておいた。


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