第56話 1泊ダンジョンアタック4、不寝番


 昼休憩に入った俺たちは6階層の本坑道の壁際に腰を下ろして簡単なものを食べ終え雑談していた。


「6階層からオオカミが出るってエドが言ってけど、まだ見てないじゃない。どうかな?」

「単独で現れればどうってことないと思うけど、複数だと連携がうまそうだから厄介かもな」

「3匹までならケイちゃんがまず1匹を仕留めて、わたしとエドが1匹ずつ相手すれば連携も何もないんじゃないかな?」

「確かにそうだな」

「うまく仕留められればいいんですが」

「仕留められなくても手傷を負わせるだけでも十分だから」

「そうよ。一人対2匹にさせないことが重要だから」

「分かりました」


「問題は4匹以上いたときよね」

「そのときは俺とエリカでオオカミたちに向かって突っ込んで行って、なるべくケイちゃんが二の矢を射る時間を稼ごう。無理せずけん制するつもりで戦えば、1対2の状況になっても何とかなるだろう。ケイちゃんの二の矢でもう一匹たおして1対1にまで持っていければ簡単に片が付くはずだから」

「そうね」

 ケイちゃんもうなずいた。


 俺が気付いて話さなければいけなかったことだけど、エリカのおかげでチームとしての意識の統一ができた。ありがたい。

 この階層で4匹以上でモンスターが出現する可能性は低いと思っているが、意識だけでも備えておいて損はない。

 

 休み始めて目算で1時間したところで、そろそろ立とうか。と、二人に告げて俺は準備を始め、最後に画板を首から下げてまだ坑道の先に向かって歩き始めた。


 午後から4時間。その間、赤鬼ダケを2本と青鬼ダケを1本採集し、大ウサギを1匹、大トカゲを1匹、いずれもケイちゃんが弓矢で仕留めている。大ウサギは俺のリュックに入れたが、大トカゲはエリカが気を利かせて自分のリュックに入れた。


「そろそろ、野営の準備をして、食事にしようか」

 本坑道から側道にわずかに入ったところで俺たちは荷物を下ろ、ヘルメットと手袋を外して野営準備を始めた。

 準備と言っても、火を使うわけではないので、ランタンに火を点け、各自毛布を路面に敷くだけなので、時間はかからない。


 俺が毛布をリュックから出して、先にランタンに火を点けていたら、エリカが気を利かせて俺の毛布を敷いてくれた。そして自分の毛布を俺の毛布に並べて敷いた。そしたらケイちゃんはエリカの毛布の反対側の俺の隣りに毛布を敷いた。俺が一番大きいので本物の川の字ではないが、一種の川の字ではないか!?


 この状態ではたして俺は安眠できるのだろうか? 考えたら、3人同時に寝ることはないのだから川の字の実現は無理だが、それでも二の字二の字の下駄のあと状態だ!

 武器は各々毛布の上に置いておき、準備が終わったところで坑道の真ん中にランタンを置いた。

 砂時計は大ウサギを狩ったとき俺のリュックからケイちゃんのリュックに移していたので、ケイちゃんは自分のリュックから砂時計を取り出し、ランタンの脇に置いた。


 俺たち3人はそのランタンを中心に車座になって座り込み食事を始めた。


 食事内容は相も変わらず干し肉と乾パン、それに干し果物、そして煎り大豆。

 ダンジョン内での食生活を充実させたいが、何も良い手が思い浮かばない。やはり水と火がネックなんだよ。水の出るアイテムと火の出るアイテム見つからないかなー。ねえレメンゲン?


「エド、さっきから呼んでるんだから返事してよ」

「ゴメン。何?」

「今日の不寝番の順番はどうするの?」

「俺が2番目になるから、エリカとケイちゃんで1番目と3番目を決めてくれればいいよ」

「それでいいの?」

「俺は大丈夫」

「それじゃあ、お願いするね。ケイちゃんは最初と最後どっちがいい?」

「わたしはどっちでもいいですよ」

「そう。わたしもどっちでもいいんだけど、最後にするかな。

 ケイちゃん最初の不寝番お願いね」

「はい」


 そういえばこの世界にはジャンケンがないんだよな。そのうちこの二人に教えてやろ。その後はあっち向いてホイだな。これぞまさに文化侵略だ! 万が一日本から俺のような転生者が現れたら驚くぞー。


「エド、今度はニヤニヤだけど、ケイちゃんが最初の不寝番で、最後はわたしになったから、エドの不寝番が終わったらわたしを起こすのよ」

「了解、了解」


「返事は一度でいいのよ」

「了解」


「フフ……」

「今度はケイちゃんどうしたの?」

「二人とも仲がいいなって」

「そう見えた?」

「見えました。というかいつもそう見えています」

「仲がいいのはそうだけど、それ以上じゃないからケイちゃん誤解しないでよ」

「はい。そういうことにしておきます」


 それ以上じゃないことは認めるけど、それ以上なの。って言われていたらそれはそれで今夜寝られなくなってしまうところだった。


 まだ1時間経っていなかったが、食事を終えたところで、

「エリカ、ちょっと早いけど休もうか」

「そうね、やることもないし」

「ケイちゃん後は頼む」

「ケイちゃんよろしく」

「任されました」



 俺とエリカは靴を履いたまま早々に毛布に横になった。近い将来水虫になりそうで怖い。ちなみに俺は生前軽度の水虫だったのだが、生まれ変わって水虫は全快している。この世界にもちゃんと水虫はあるみたいなのでり患が怖い。

 ダンジョンワーカーとしてブーツは必須アイテムだけに、もし水虫になった場合は有効な薬があるのかだけが心配だ。



 俺は極力隣で横になっているエリカを意識しないようにして、魔力操作を始めた。魔力操作の効果はてきめんで、数分間操作しただけでそれから先の意識はなくなってしまった。ちょっともったいなかったか?


「エド、交代の時間です」


 ケイちゃんが優しく俺を揺り動かし、耳元でささやいた。もっとささやきを! と、思ったが、俺は目を開けすぐに起き出した。


「ケイちゃんありがとう。どうだった?」

「何もありませんでした」

「そはよかった。じゃあケイちゃん、ゆっくり休んで」

「はい」

 ケイちゃんはヘルメットと手袋を外して毛布の上に横になった。俺は逆にヘルメットと手袋を着けて枕はないけど枕元に置いていたレメンゲンを付けたままの剣帯を手にしてランタンの前に座り、砂の落ち切った砂時計をひっくり返して不寝番を始めた。


 何もすることもないので、寝息を立てているエリカと、目をつむっているもののまだ眠ってはいないハズのケイちゃん。二人ともタイプは違うが甲乙つけがたい美少女であることは間違いない。

 二人の美少女の寝姿を4時間十分に堪能できるではないか!? 不寝番がこれほどのものとは思っても見なかった。


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