第44話 ケイ・ウィステリア4


 弓矢工房のホフマンさんのところから今度はハインツ防具店にやってきた。

 店の中には客も数名いて、接客中の店員もいた。


 俺たちは接客中の店員が空くのを待って、買いたいものを告げた。

「ブーツですとこちらです」

 店員にブーツ売り場に連れていかれた。

「どうぞお試しください。大きさ順に並べています」

 ケイちゃんが並べられたブーツの一つを手に取り、今はいているブーツの片側を脱いでそのブーツに足を入れた。

 ちょっと大きかったようで、すぐに足を抜き出して隣のブーツを手に取り足を入れた。

 今度はよかったようだ。


「ヘルメットはこちらです」

 店員に連れていかれた一画でケイちゃんは並べられたヘルメットのうち革のヘルメットを被ってみてその中から一つを選んだ。

「これで」

「代金は合わせて銀貨3枚になります」

 どちらも革製品だけあってそれほど高くなかった。というか、けっこう安かった。

 ケイちゃんは小袋から代金を支払い、受け取ったブーツとヘルメットはリュックに入れた。


「これで全部かな?」

「はい。あっ! あと大型のリュックとランタンが必要です」

「ランタンは俺のランタンがあるからケイちゃんは買わなくていいと思う」

「ダンジョンの中って真っ暗じゃないけどかなり暗いんじゃないですか?」

「そうなんだけど、俺たちのチームの場合、1つあれば十分なんだ。今、口で言っただけじゃ分からないと思うけどダンジョンに一緒に入れば分かるよ。

 リュックのほかに予備タオルとか、ボロ布、それに水袋が必要だから、雑貨屋に行こう」

「は、はい」ケイちゃんは、少しだけ納得いかないような顔をしていた。

 ふつう夜目が利くようになるって想像できないよな。でも中長距離武器のケイちゃんにとって夜目が利くようになるってかなりのアドバンテージじゃないだろうか?


 ハインツ防具店を出た俺たちは来た道をUターンして大通りまで戻り、ダンジョンギルドの前を通ってその先のいつもの雑貨屋に入った。


 雑貨店で必要そうなものを買っていき、買い物は終わった。

 ちなみにケイちゃんの大型リュックはケイちゃんの今のリュックに入らなかったので、わざわざ背負い換える必要もないだろうと言って俺が手で持っている。

「買い物は終わったから、一度ギルドの部屋に帰って荷物を置いてしまおう」

「はい」

「そうね。それからケイちゃんの歓迎会をしようよ」

「エリカさん、ありがとうございます。あのう、その前に引っ越したいんですが」

「じゃあ、みんなで手伝って、それからで」

「荷物多くないので一人で一度運ぶだけで終わりますから」

「分かった。それじゃあ、ケイちゃんの今の荷物はいったんわたしたちで3階に持っていくからケイちゃんはこれから荷物を取りに帰ればいいよ。戻ってきたら3階の15号室のエドの部屋に来てくれる?」

「分かりました」

「エドはそのリュックをケイちゃんに渡して、ケイちゃんの背負ってるリュックを代わりに持って。弓はわたしが持つわ」

「了解」

「それではお願いします」

「うん」「任せて」


 ケイちゃんが俺の手渡したリュックを持って小走りに大通りを駆けて行った。

 俺とエリカはそのままダンジョンギルドに戻って3階に上がって行き、俺の部屋にケイちゃんの荷物を置いておいた。


 下着を中心とした洗濯物が物干しロープにぶら下がったままなのだが、とくにエリカは気に留めることもなく剣帯を外して俺のベッドに腰かけた。

「ここでケイちゃんが戻ってくるのを待ってましょ。歓迎会は雄鶏亭おんどりていでいいかな?」

「いいんじゃないか。エリカが他に行きたいなら別だけど」

「特にそういうのはないから、雄鶏亭おんどりていで決まりね」

「うん」


 俺は剣帯を外してテーブルに付いている椅子の背にかけ自分はその椅子に座った。


「だけど、ケイちゃんのあの弓の腕前には驚いたわよね」

「そうだな。レメンゲンの力もあったんだと思うけど、ケイちゃんの様子から、あの程度余裕で射貫けるって感じだったものな」

「うん。だけど、エドの力なのか、レメンゲンの不思議な力なのか分からないけれど、良さそうな人を見つけられて良かったわよね」

「そうだな。この調子だと思ってた以上に早く10階層まで進めそうだ」

「うん。わたしもそう思う。

 それと、今日ケイちゃんの費用をエドが立て替えてたじゃない。いくら立て替えた?」

「銀貨7枚だった」

「じゃあわたしが半分出さなきゃいけないわよね」

「今日の歓迎会のこともあるから、俺が今日は全部出してその後の方がいいんじゃないか?」

「そう言われれば、それもあったか。

 じゃあそれも一緒で。今日はエドが全部出して。明日半分渡すわ」

「うん。了解。

 今日までの分は俺とエリカで。明日からはチームの財布からということにしよう」

「うん」


 そういった話をして15分くらいしてから扉の向こうからケイちゃんの声がした。

「カギは開いてるから、入って」と、俺の代わりにエリカが答えた。


 部屋の作りはどこも同じみたいだし。干してる洗濯物が違うくらいだろうし。


「おじゃましまーす」と、言う声と一緒にリュックを背負ったケイちゃんが部屋に入ってきた。

「それじゃあ、ケイちゃんの部屋に荷物を置いてこよう」


 俺とエリカも部屋の中に置いていたケイちゃんの荷物を手にして3人揃って部屋を出て、隣の部屋の扉をケイちゃんが開けた。ケイちゃんを先頭にして部屋の中に入っていき空いたところに荷物を置いた。


 ざっと部屋を見たところ思った通り俺の部屋と同じ作りだったが何かが足りない。

 何が足りないかというと下着の干された物干しロープだ! そこで思い出した前世の賢人のお言葉『画竜点睛を欠く』


「荷物の片づけはケイちゃんじゃないとマズいから、わたしとエドはエドの部屋にいるね。片付け終わったら来てくれる?」

「はい」


 下着なんかもタンスに入れないといけないし、他人、特に俺がいたんじゃやりにくいだろうし。

 俺とエリカはケイちゃんの部屋を出て俺の部屋に帰ったところ、何か違和感を覚えた。

 何かが余分なのだ。

 俺の下着を干している物干しロープが余分なのだ。そこで思い出したのは前世の賢人のお言葉『蛇足』

 画竜点睛とはえらい違いだ。


 エリカは俺のベッドの上に置いていた双剣を付けたままの剣帯を持って、部屋に置いてくると言って出ていきすぐに戻ってきた。


 先ほどまでと同じように椅子に座ったりして待っていたら、5分ほどでケイちゃんの声がしたので、俺とエリカは部屋を出てケイちゃんと合流してから1階の雄鶏亭おんどりていに向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る